夜の記録

１６

妖精は、その小さな体を風のように揺らしながら、主人公の目の前に立ち、優しく語り始めた。その声は、どこかしっとりとした、優美な響きを持ち、森の奥から漂う木の香りと共鳴するかのようだった。

「愛情というものは、永遠のものです。」妖精は言った。その言葉には、何か神聖なものが含まれているような気がした。「それは、あなた方が思っている以上に深く、そして広く、世界に溶け込んでいます。死んだ人を呼び戻すわけではありませんが、あなたが生きていた時に与えた愛情は、あなたの存在そのものであり、世界の中に、確かに残り続けます。」

主人公は、その言葉を聞きながら、目の前に広がる光景をぼんやりと見つめていた。木々の間に差し込む薄明かりが、森の一角を優しく照らしている。妖精の言葉が、空気の中に溶け込んでいくような感覚がした。時間が緩やかに流れ、何もかもが静かに、そして永遠に繋がっているような気がしてきた。

「でも、愛情はただ与えるだけではなく、呼び起こさなければならないものです。」妖精は続けた。その目は、どこか遠くを見つめているようでありながら、同時に主人公を深く見つめているようにも感じられた。「それは、人間が抱えているものの中で、最も尊いもの。あなたが今、感じている痛みや悲しみも、その愛情を呼び起こす一つの力となるのです。」

主人公はその言葉を咀嚼するように、ゆっくりと頭の中で巡らせた。愛情が永遠であるならば、それは時間の流れを超えて存在し続ける。過去に与えた愛情が、死をも超えて形を変え、世界の中で他の誰かに、何かの形で影響を与える。そんな考えが、ゆっくりと彼の心に染み込んでいった。

「あなたが思うほど、愛情は弱いものではありません。」妖精は、主人公を励ますように語りかけた。「それはあなたの中で生き続け、永遠に回り続けるエネルギーとなるのです。そして、あなたが愛した人々も、その愛情に包まれて、どこかで生き続けるのです。」

主人公は、妖精の言葉が頭の中で広がっていくのを感じた。確かに、過去に与えた愛情は消え去ることなく、世界のどこかで、何かの形で息づいている。死者はそのまま消えてしまうわけではない。彼らが与えた愛情は、時間を越えて、誰かの心の中で生き続け、形を変えながらも、永遠に存在し続けるのだ。

「だから、あなたが悲しみの中で感じる愛情も、決して無駄ではありません。」妖精は静かに言った。「それはあなたの証であり、あなたがどれだけ深く他者を愛したかの証明です。」

主人公はその言葉を心の中で反芻し、ゆっくりと頷いた。世界は無限に広がり、愛情はそのすべてを包み込んでいる。死は終わりではなく、ただ一つの転換点であり、愛はそれを超えて永遠に続く。心の中で、彼は静かに確信した。愛というものは、確かに永遠であり、死を越えて存在するのだと。

妖精は微笑みながら、そっと羽音を立てて、森の奥へと消えていった。主人公はその姿を見送りながら、静かな心で思った。愛は、時間を超えて、命を超えて、確かに存在し続けるのだと。そして、彼はその考えに心から納得し、再び森の中で静かな時間を過ごすことにした。