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電話はそこで切れた。何の前触れもなく、余韻すら残さず、まるで小石が湖に落ちた瞬間だけ波紋を立てて、あとは何事もなかったように静まるように。
受話器を戻したあと、僕はしばらくキッチンの真ん中に立ち尽くしていた。
部屋には、午前中に淹れたコーヒーのかすかな香りと、誰もいない部屋の静寂だけがあった。外では風が吹いていた。それは秋の風だった。夏の余韻を少しだけ引きずりながらも、確実に季節が移ろっていることを告げていた。
僕は台所の椅子に腰を下ろし、指の先で木のテーブルをゆっくり叩いた。まるで意味もないリズムだったけれど、それは自分がまだここにいるという確認のようでもあった。
「星のない惑星」――その響きはどこか詩的で、少しだけ孤独だった。けれど不思議と、怖くはなかった。
その夜、僕は夢を見た。
またしても海の底だ。けれど今度はイルカはいなかった。代わりに、一脚の木製のカフェチェアが水中にぽつんと置かれていて、その上に白いカップが乗っていた。
コーヒーだった。
海の中なのに、熱い湯気が立ち上っていた。僕は迷わず近づいて、それを手に取った。
香りは地球のものと変わらなかった。でも、口にした瞬間、何かが違った。甘さでも、苦さでもない。言葉では説明できない「重さ」だった。
それはまるで、誰かの記憶の味だった。
目覚めたとき、部屋の空気がわずかに変わっていた。
知らない香りが漂っていた。地球上では決して嗅いだことのない、懐かしくも異質な、植物と金属と、夜の匂いが混ざったような香り。
そしてベランダに、見知らぬスーツケースが置かれていた。
受話器を戻したあと、僕はしばらくキッチンの真ん中に立ち尽くしていた。
部屋には、午前中に淹れたコーヒーのかすかな香りと、誰もいない部屋の静寂だけがあった。外では風が吹いていた。それは秋の風だった。夏の余韻を少しだけ引きずりながらも、確実に季節が移ろっていることを告げていた。
僕は台所の椅子に腰を下ろし、指の先で木のテーブルをゆっくり叩いた。まるで意味もないリズムだったけれど、それは自分がまだここにいるという確認のようでもあった。
「星のない惑星」――その響きはどこか詩的で、少しだけ孤独だった。けれど不思議と、怖くはなかった。
その夜、僕は夢を見た。
またしても海の底だ。けれど今度はイルカはいなかった。代わりに、一脚の木製のカフェチェアが水中にぽつんと置かれていて、その上に白いカップが乗っていた。
コーヒーだった。
海の中なのに、熱い湯気が立ち上っていた。僕は迷わず近づいて、それを手に取った。
香りは地球のものと変わらなかった。でも、口にした瞬間、何かが違った。甘さでも、苦さでもない。言葉では説明できない「重さ」だった。
それはまるで、誰かの記憶の味だった。
目覚めたとき、部屋の空気がわずかに変わっていた。
知らない香りが漂っていた。地球上では決して嗅いだことのない、懐かしくも異質な、植物と金属と、夜の匂いが混ざったような香り。
そしてベランダに、見知らぬスーツケースが置かれていた。
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