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『雨と硝煙の街』
第六章:眠れない街
朝の東都は、雨上がりの煙草みたいな匂いがした。
濡れたアスファルト、排気ガス、コーヒーと新聞と、うっすら残る夜の気配。
まともなやつは起き出して働きに出る時間帯だが、俺は逆に眠りにつく時間だった。
だが、その日は違った。
事務所のドアに、誰かが立っていた。
背筋の伸びた年配の男。上等なコート。ピカピカの靴。
そして、背後に立つ屈強なスーツの二人。
——これは、“普通”の依頼じゃない。
「神崎仁探偵。君に、国家からの依頼だ。」
「悪いが、俺は国のために働くタイプじゃない。」
「これは、私たちの“内輪”の問題でしてね。正式には、記録にも残らない。」
“国家”の名を使いながら、“国家ではない”。
裏のにおいがぷんぷんする。
男はポケットから一枚の写真を出した。
見た瞬間、心臓がわずかに跳ねた。
「この人物をご存じですね?」
写真の男。
スーツに身を包み、笑っているが、背中に薄い影を落としていた。
俺は、その男を知っていた。
かつて俺が姉の死に関係していたと睨んだ男——
その男は確かに死んだはずだった。
三年前、工業地帯の火災事故で。
「……悪趣味な冗談だな。」
「彼は生きていた。そして今、東都の地下で“再構築”を進めています。」
「再構築……?」
男は、低く続けた。
「国家を超えた資本。地下医療。データ密売。あらゆる“境界”を溶かして、新しい秩序を作ろうとしている。君が先日止めた唐沢健一の件も、その一部だった。」
俺は、グラスを割ったような気分だった。
あの夜、終わったと思った。
だがどうやら、あれはただの前哨戦だったらしい。
「なぜ俺に?」
「彼は、君の過去に関わっている。そして、君を“知っている”。こちらとしても、君が動くことで彼の表に出てくる可能性が高まる。」
「つまり、おとりってことか。」
男は答えなかった。
だが、その沈黙がすべてを語っていた。
俺は煙草を取り出し、火を点けた。
苦い煙が、肺の奥まで染み渡る。
「条件がある。俺のやり方でやる。命令も管理も受けない。手を出したら、依頼はそこで終わりだ。」
男はわずかに口角を上げた。
「了解した。君のやり方を尊重しよう。」
「……それともう一つ。」
「なんだね?」
「そいつの“本当の名前”を教えてくれ。」
男は名刺サイズの黒いカードを差し出した。
そこには、白いインクでこう書かれていた。
黒崎 礼司
コードネーム:K-0(ケイ・ゼロ)
俺はその名を見つめたまま、静かに呟いた。
「——あの野郎、生きてやがったか。」
外では、また雨が降り始めていた。
この街には、まだ終わってない闇がある。
そして、俺はまたその中に足を踏み入れようとしていた。
第六章:眠れない街
朝の東都は、雨上がりの煙草みたいな匂いがした。
濡れたアスファルト、排気ガス、コーヒーと新聞と、うっすら残る夜の気配。
まともなやつは起き出して働きに出る時間帯だが、俺は逆に眠りにつく時間だった。
だが、その日は違った。
事務所のドアに、誰かが立っていた。
背筋の伸びた年配の男。上等なコート。ピカピカの靴。
そして、背後に立つ屈強なスーツの二人。
——これは、“普通”の依頼じゃない。
「神崎仁探偵。君に、国家からの依頼だ。」
「悪いが、俺は国のために働くタイプじゃない。」
「これは、私たちの“内輪”の問題でしてね。正式には、記録にも残らない。」
“国家”の名を使いながら、“国家ではない”。
裏のにおいがぷんぷんする。
男はポケットから一枚の写真を出した。
見た瞬間、心臓がわずかに跳ねた。
「この人物をご存じですね?」
写真の男。
スーツに身を包み、笑っているが、背中に薄い影を落としていた。
俺は、その男を知っていた。
かつて俺が姉の死に関係していたと睨んだ男——
その男は確かに死んだはずだった。
三年前、工業地帯の火災事故で。
「……悪趣味な冗談だな。」
「彼は生きていた。そして今、東都の地下で“再構築”を進めています。」
「再構築……?」
男は、低く続けた。
「国家を超えた資本。地下医療。データ密売。あらゆる“境界”を溶かして、新しい秩序を作ろうとしている。君が先日止めた唐沢健一の件も、その一部だった。」
俺は、グラスを割ったような気分だった。
あの夜、終わったと思った。
だがどうやら、あれはただの前哨戦だったらしい。
「なぜ俺に?」
「彼は、君の過去に関わっている。そして、君を“知っている”。こちらとしても、君が動くことで彼の表に出てくる可能性が高まる。」
「つまり、おとりってことか。」
男は答えなかった。
だが、その沈黙がすべてを語っていた。
俺は煙草を取り出し、火を点けた。
苦い煙が、肺の奥まで染み渡る。
「条件がある。俺のやり方でやる。命令も管理も受けない。手を出したら、依頼はそこで終わりだ。」
男はわずかに口角を上げた。
「了解した。君のやり方を尊重しよう。」
「……それともう一つ。」
「なんだね?」
「そいつの“本当の名前”を教えてくれ。」
男は名刺サイズの黒いカードを差し出した。
そこには、白いインクでこう書かれていた。
黒崎 礼司
コードネーム:K-0(ケイ・ゼロ)
俺はその名を見つめたまま、静かに呟いた。
「——あの野郎、生きてやがったか。」
外では、また雨が降り始めていた。
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そして、俺はまたその中に足を踏み入れようとしていた。
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