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「午後のカフェで」③
カフェの奥、観葉植物の陰に隠れるようにして、古びた木製の扉があった。まるで誰にも気づかれないように、そこに“存在しているふり”をしていたような扉だった。
彼女は何のためらいもなく取っ手をひねり、僕に振り返る。
「この中、暗いけど怖くはないから。」
僕は頷き、彼女のあとを追うように扉をくぐった。
中は小さな物置のような空間で、レコードプレイヤーがぽつんと置かれていた。壁は音を吸い込むような深いグレーで、空気はひんやりとしていた。
彼女はプレイヤーにレコードを載せ、針を落とす。
ジジジという微かなノイズのあと、不思議な歌声が流れ始めた。クララ・シモンズ。彼女の声は、言葉にならない場所に浮かぶ、形のない感情みたいだった。とても静かで、そしてとても遠かった。
その瞬間、僕は自分がどこにいるのかを忘れた。
カフェの中だったのか。午後の街だったのか。あるいは、まったく別の時間の隙間に落ち込んだのか。
気がつくと、彼女は僕の目の前で座っていた。じっとこちらを見つめている。
「ねえ、あなた、夢をひとつ捨てたことがあるでしょう?」
その言葉が、心のどこかに刺さった。深く、静かに、鋭く。
「それを拾いに来たんじゃないの? 今日。」
僕は答えられなかった。ただ、クララの歌声が遠くで揺れていた。
カフェの奥、観葉植物の陰に隠れるようにして、古びた木製の扉があった。まるで誰にも気づかれないように、そこに“存在しているふり”をしていたような扉だった。
彼女は何のためらいもなく取っ手をひねり、僕に振り返る。
「この中、暗いけど怖くはないから。」
僕は頷き、彼女のあとを追うように扉をくぐった。
中は小さな物置のような空間で、レコードプレイヤーがぽつんと置かれていた。壁は音を吸い込むような深いグレーで、空気はひんやりとしていた。
彼女はプレイヤーにレコードを載せ、針を落とす。
ジジジという微かなノイズのあと、不思議な歌声が流れ始めた。クララ・シモンズ。彼女の声は、言葉にならない場所に浮かぶ、形のない感情みたいだった。とても静かで、そしてとても遠かった。
その瞬間、僕は自分がどこにいるのかを忘れた。
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気がつくと、彼女は僕の目の前で座っていた。じっとこちらを見つめている。
「ねえ、あなた、夢をひとつ捨てたことがあるでしょう?」
その言葉が、心のどこかに刺さった。深く、静かに、鋭く。
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僕は答えられなかった。ただ、クララの歌声が遠くで揺れていた。
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