その聖女、神の愛し子です!

一路(いちろ)

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第十四話

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数日後、孤児院に再び教会からの来訪が告げられた。
ユリウスが封書を手に取り、低い声で読み上げる。

「……“子供たちの成長を見守り、学びの様子を視察したい”」

表向きは柔らかな文面だが、先日の司祭セルヴァンの冷たい眼差しを思えば、真意が別にあるのは明白だった。
ノエルは静かに手紙を受け取り、眉間に皺を寄せる。

「必ず来ると思っていましたよ」
「ええ、そして……今回は、より踏み込んでくるでしょう」

ルミナだけが、二人の張り詰めた気配を理解できず、不思議そうに首を傾げていた。

午後、孤児院の門を叩いたのは、やはりセルヴァン司祭だった。
司祭たちが降り立つと、普段は遊んでいる子どもたちも足を止め、遠巻きにその様子を見つめた。子どもたちの中には好奇心で顔を輝かせる者もいれば、少し身を引く者もいた。ユリウスは子どもたちを静かに整列させ、騒ぎが起きないよう配慮する。

「再び迎えていただき、感謝いたします。今日は、子供たちと直に話をしてみたく思いまして」

ノエルはいつもの穏やかな笑みで応じる。

「ええ、ですが子供たちは臆病です。あまり強い態度はご遠慮願いますよ」

「心得ておりますとも」

言葉こそ柔らかだが、司祭の瞳には冷ややかな光が宿っていた。

「皆のお話を聞きたいそうです」

ユリウスの声が庭に響くと、子どもたちはざわつきを抑え、視線を司祭たちに向けた。司祭たちは威厳のある立ち振る舞いで、子どもたちの遊びや日常に目を配る。表向きは子どもたちの成長を確認する視察だが、その眼差しの奥には、微かな緊張と警戒が混じっている。

「皆さん、こんにちは。少しだけ話を聞かせてもらえますか?」

セルヴァンは子供たちに次々と声をかけ、好きな遊びや将来の夢を尋ねていった。子供たちは最初こそ戸惑っていたが、無邪気な答えに笑いが広がり、場の空気は和らいでいく。
視察団は子どもたちの遊ぶ様子を見守り、教室や庭の様子を静かに観察する。

そして、その視線がルミナに向けられると、空気は再び張り詰めた。

「……君も、お話を聞かせてくれるかな」

セルヴァンは柔らかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと手を差し出した。

「怖がらなくてもいい。握手をしてくれるかな?」

ルミナは一瞬迷ったようにノエルを見上げたが、疑うことを知らぬ子供の目で小さく頷き、手を伸ばした――その瞬間。

バチンッ!

鋭い音と共に、火花のような光が走った。
ルミナの小さな手が触れる直前で、セルヴァンの手はまるで弾き飛ばされたかのように拒絶される。

子供たちが「わっ」と声を上げ、驚いて目を見開いた。ルミナ自身も目を丸くして手を引っ込めた。

「い、今のは……?」

セルヴァンは眉を寄せ、わずかに手を振る。手を見つめ、何が起きたのか理解できず眉をひそめる。指先は赤くなっていた。
しかし、周囲の子どもたちが無邪気にじゃれ合い、笑い声を上げる姿を目にすると、不思議と緊張を和らげざるを得なかった。

ノエルがすぐに言葉を継ぐ。

「……おそらく魔力の摩擦でしょう。」

ユリウスも横から口を添える。

「はい。子供たちの魔力はまだ不安定ですから。接触で反応が起こることもあるのです」

セルヴァンは視線を細め、ルミナをじっと見つめる。
そこには疑念があった。だが、周囲の子供たちは「びっくりしたね!」「バチンってなった!」と無邪気に笑い、怖がる様子もない。

その空気に押されたのか、セルヴァンは小さく笑い直し、手を引いた。

「なるほど……子供の魔力とは、時に不思議なものだ」

そう言い残し、司祭一行はあっさりと退いた。

その後、視察団は庭や教室を見学し、子どもたちは普段通り遊んだり学んだりする。魔力のことを意識していない者もいれば、ほんの少し不思議な感覚を覚える者もいた。子どもたちは群れをなして駆け回り、木の葉や花に触れ、日常の小さな喜びを楽しんでいた。

視察が終わる頃、司祭たちは穏やかに子どもたちに手を振り、馬車に戻る。子どもたちはまた日常の遊びに戻るが、庭の空気には微かに不思議な余韻が残った。

門が閉ざされると、張り詰めていた空気がようやく解ける。
ユリウスは深く息を吐き、ノエルに低く囁いた。

「……今のは、誤魔化し切れたでしょうか」
「ええ。だが、彼は気づいている。少なくとも“普通の子供ではない”と」

二人は視線を交わし、無邪気に子供たちと笑うルミナを見やった。
彼女の笑顔を守るために、次に来る波に備えねばならないと、強く胸に刻みながら。

子どもたちの遊ぶ姿を見て、ノエルは胸の奥で静かに安堵する。まだ幼い子どもたちには、日々の小さな幸福と安心が最も必要なのだと。

子どもたちは笑い声を響かせながら遊ぶ。弾けるような声や駆け回る足音の中に、静かに、しかし確かに何か守られている力の存在を感じさせるものがあった。孤児院は今日も変わらず、子どもたちの小さな世界を守り続けていた。
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