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第十九話
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魔法を練習する中で気が付いたのは、思い描いたことが実現するということ。
水が溜まってほしいと思えば水が溜まるし、椅子を作りたいと思えば土で椅子を作ることができる。
本来魔法を使うには、魔石を媒介にしなければいけない。
魔法使いと呼ばれる者たちは、自分の魔力と相性のいい属性の魔石が仕込んである杖などを使う。
魔力にも相性があって、日常生活で微量の魔力を使う分には問題ないが、戦闘で使う大きな魔力を消費するような魔法は、誰でもすべての属性を使えるわけではないのだ。
ユリウスの授業で学んだものの、実際に魔法使いに会ったことのないルミナには、その異常性が正しく理解できていなかった。
「神様の力って、すごいのね」
今日もルミナの周りには多くの動物や妖精たちがいる。
ルミナはその中でもひときわ体の大きな動物に自身の体を預け、毛の中に埋もれている。
そこにいるのは、以前ルミナが浄化した黒い狼型の魔獣だった。
野生ではあるが、浄化した影響か毛はふわふわである。
いつからか他の動物たちと姿を現すようになり、ルミナのいい話し相手になっていた。
ルミナは狼の大きな背に体を預けながら、深く息を吐いた。
「……私、やっぱり普通じゃないのかな」
水の器も、土の椅子も、火の灯りも――思えば望んだだけで形になる。
魔石を使わない魔法。杖すら必要としない自在さ。
ユリウスから聞いた魔法の仕組みと、自分の行っていることとの差が、あまりにも大きすぎる。
「聖女の生まれ変わりじゃない、って神様は言ってたけど……。この力は、聖女のって言われるよね……」
ぽつりとつぶやくと、妖精たちがひらひらと飛び回り、答えを濁すかのように笑い声を立てた。
狼は伏せたまま耳だけを動かし、静かに彼女を見守っている。
その琥珀の瞳に映る自分が、ほんの少し心強かった。
ルミナは指先に意識を集中させる。
水を思い描くと、掌の上に丸い水玉が生まれ、光を弾く。
火を思い描くと、花びらのように小さな炎が揺らめく。
土を思えば、形を持った塊が椅子の脚へと変わり、草を思えば、芽がぽつりと伸び出す。
「思ったことが、全部……」
まるで世界が、彼女の想像をなぞるように従う。
同時に、胸の奥で冷たいざわめきも生まれた。
「……こんな力、もし悪い人が持ったら」
彼女の心に浮かんだのは、孤児院に来た教会の司祭たちの目。
もし、自分が力を見せつけていたらどうなっていただろう。
制御できなければ、仲間を傷つけることだってできてしまう。
「……使い方を、間違えたらだめ」
そう呟き、強く自分に言い聞かせる。
森の奥、枝葉を抜ける光の中で、彼女は目を閉じた。
神が告げた「聖女の生まれ変わりじゃない」という言葉。
ならば、自分はどう生きるべきか。
成人を迎える日が近づく中、その答えを探すように。
やがて夕暮れの気配が森を染め始めると、狼が低く喉を鳴らした。
帰る時間を促すように立ち上がり、ルミナは名残惜しそうにその毛並みを撫でる。
「ありがとう、また来るね」
振り返れば、森は何事もなかったかのように静まり返り、妖精たちの笑い声も風に溶けていった。
しかし胸の内には確かに残っていた。
自分の力の正体を探り、どう生きるかを決めなければならない――そんな思いが。
ルミナは小さく息を吸い込み、孤児院へ続く道を歩き出した。
森の出口に差しかかると、一度だけ振り返った。
そこにはもう狼の姿も、妖精たちの気配もなく、ただ薄暗い木々の間に風が通る音だけが残っていた。
「……帰ろう」
自分に言い聞かせるように呟き、足を速める。
孤児院に近づくと、窓から漏れる灯りと子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
いつもの日常。
その響きが胸の奥をじんわりと温める。
扉を開けた瞬間、年下の子どもたちが駆け寄ってきた。
「ルミナ! どこに行ってたの?」
「森? 薬草あった?」
押し寄せる声に、ルミナは思わず笑みを零す。
「ちょっと散歩してただけよ。みんな、宿題はもう終わった?」
「うーん……」と子どもたちが揃って顔を見合わせた瞬間、背後から聞き慣れた低い声が飛んできた。
「――ほら、だから言っただろう。ルミナにばかり甘えるんじゃない」
振り返れば、ノエル院長が腕を組んで立っていた。
その視線には叱責と同時に、どこか安心した色が混じっている。
「先生……」
ルミナは少し気まずそうに視線を逸らした。
けれどノエルは小さくため息をつき、やわらかく口元を緩める。
「おかえり。夜更けまで出歩くのは控えなさい。君には――」
「……君には?」
「君には、見守るべき小さな背中がたくさんあるんだ。忘れるな」
ノエルの言葉に、ルミナは胸の奥で何かを噛みしめるように頷いた。
森で抱いた「力への不安」と「どう生きるか」という思案が、ふと日常の温かさと重なっていく。
「……うん、わかった」
その夜、窓辺に立ちながらルミナは空を見上げた。
星明かりに照らされた世界は、森で感じた孤独とは違い、確かに自分が帰る場所を映し出していた。
「神様……私は、この力をどう使えばいいの?」
答えは返ってこない。
けれど彼女の胸には、孤児院で聞こえる子どもたちの寝息が、確かな導きのように寄り添っていた。
水が溜まってほしいと思えば水が溜まるし、椅子を作りたいと思えば土で椅子を作ることができる。
本来魔法を使うには、魔石を媒介にしなければいけない。
魔法使いと呼ばれる者たちは、自分の魔力と相性のいい属性の魔石が仕込んである杖などを使う。
魔力にも相性があって、日常生活で微量の魔力を使う分には問題ないが、戦闘で使う大きな魔力を消費するような魔法は、誰でもすべての属性を使えるわけではないのだ。
ユリウスの授業で学んだものの、実際に魔法使いに会ったことのないルミナには、その異常性が正しく理解できていなかった。
「神様の力って、すごいのね」
今日もルミナの周りには多くの動物や妖精たちがいる。
ルミナはその中でもひときわ体の大きな動物に自身の体を預け、毛の中に埋もれている。
そこにいるのは、以前ルミナが浄化した黒い狼型の魔獣だった。
野生ではあるが、浄化した影響か毛はふわふわである。
いつからか他の動物たちと姿を現すようになり、ルミナのいい話し相手になっていた。
ルミナは狼の大きな背に体を預けながら、深く息を吐いた。
「……私、やっぱり普通じゃないのかな」
水の器も、土の椅子も、火の灯りも――思えば望んだだけで形になる。
魔石を使わない魔法。杖すら必要としない自在さ。
ユリウスから聞いた魔法の仕組みと、自分の行っていることとの差が、あまりにも大きすぎる。
「聖女の生まれ変わりじゃない、って神様は言ってたけど……。この力は、聖女のって言われるよね……」
ぽつりとつぶやくと、妖精たちがひらひらと飛び回り、答えを濁すかのように笑い声を立てた。
狼は伏せたまま耳だけを動かし、静かに彼女を見守っている。
その琥珀の瞳に映る自分が、ほんの少し心強かった。
ルミナは指先に意識を集中させる。
水を思い描くと、掌の上に丸い水玉が生まれ、光を弾く。
火を思い描くと、花びらのように小さな炎が揺らめく。
土を思えば、形を持った塊が椅子の脚へと変わり、草を思えば、芽がぽつりと伸び出す。
「思ったことが、全部……」
まるで世界が、彼女の想像をなぞるように従う。
同時に、胸の奥で冷たいざわめきも生まれた。
「……こんな力、もし悪い人が持ったら」
彼女の心に浮かんだのは、孤児院に来た教会の司祭たちの目。
もし、自分が力を見せつけていたらどうなっていただろう。
制御できなければ、仲間を傷つけることだってできてしまう。
「……使い方を、間違えたらだめ」
そう呟き、強く自分に言い聞かせる。
森の奥、枝葉を抜ける光の中で、彼女は目を閉じた。
神が告げた「聖女の生まれ変わりじゃない」という言葉。
ならば、自分はどう生きるべきか。
成人を迎える日が近づく中、その答えを探すように。
やがて夕暮れの気配が森を染め始めると、狼が低く喉を鳴らした。
帰る時間を促すように立ち上がり、ルミナは名残惜しそうにその毛並みを撫でる。
「ありがとう、また来るね」
振り返れば、森は何事もなかったかのように静まり返り、妖精たちの笑い声も風に溶けていった。
しかし胸の内には確かに残っていた。
自分の力の正体を探り、どう生きるかを決めなければならない――そんな思いが。
ルミナは小さく息を吸い込み、孤児院へ続く道を歩き出した。
森の出口に差しかかると、一度だけ振り返った。
そこにはもう狼の姿も、妖精たちの気配もなく、ただ薄暗い木々の間に風が通る音だけが残っていた。
「……帰ろう」
自分に言い聞かせるように呟き、足を速める。
孤児院に近づくと、窓から漏れる灯りと子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
いつもの日常。
その響きが胸の奥をじんわりと温める。
扉を開けた瞬間、年下の子どもたちが駆け寄ってきた。
「ルミナ! どこに行ってたの?」
「森? 薬草あった?」
押し寄せる声に、ルミナは思わず笑みを零す。
「ちょっと散歩してただけよ。みんな、宿題はもう終わった?」
「うーん……」と子どもたちが揃って顔を見合わせた瞬間、背後から聞き慣れた低い声が飛んできた。
「――ほら、だから言っただろう。ルミナにばかり甘えるんじゃない」
振り返れば、ノエル院長が腕を組んで立っていた。
その視線には叱責と同時に、どこか安心した色が混じっている。
「先生……」
ルミナは少し気まずそうに視線を逸らした。
けれどノエルは小さくため息をつき、やわらかく口元を緩める。
「おかえり。夜更けまで出歩くのは控えなさい。君には――」
「……君には?」
「君には、見守るべき小さな背中がたくさんあるんだ。忘れるな」
ノエルの言葉に、ルミナは胸の奥で何かを噛みしめるように頷いた。
森で抱いた「力への不安」と「どう生きるか」という思案が、ふと日常の温かさと重なっていく。
「……うん、わかった」
その夜、窓辺に立ちながらルミナは空を見上げた。
星明かりに照らされた世界は、森で感じた孤独とは違い、確かに自分が帰る場所を映し出していた。
「神様……私は、この力をどう使えばいいの?」
答えは返ってこない。
けれど彼女の胸には、孤児院で聞こえる子どもたちの寝息が、確かな導きのように寄り添っていた。
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