出会いは突然に〜愛人の行方〜

文字の大きさ
5 / 19

5.本田さんの歓迎会

しおりを挟む
居酒屋に着くと、別の部署の女の子たちが早速本田さんの隣を陣取ろうと奮闘していた。



「本田さん、こっちに座りませんか?」



「ここ、空いてますよ。どうぞ!」



私としては本田さんと真反対に座りたいぐらいの気持ちだ。









確かに顔は良いし、仕事もできるけれど、騙されちゃいけない。



そいつはとにかく強引で、自分勝手なんですよ!



そう心の中で毒づくものの、口には出せない。



本田さんをロックオンしている彼女たちに何を言ったところで、きっと相手にされないだろう。



私はその忠告を胸に留めておくことにした。









ある程度席順が決まってきて、私は由紀子先輩の隣に腰を下ろす。



メニューを見ながら、1杯目は何にしようかと考え込む。



やっぱり生ビールかな? それともレモンサワー?



そんな風に悩んでいると、後ろから声が聞こえた。



「ここ座るぞ」



「あ、どうぞー……えっ?」



つい反射的に返事をしてしまったが、隣に座ってきたのは、さっきまで別の女性社員たちにもみくちゃにされていたはずの本田さんだった。



――えっ、なんで!?



私が座っているのは下座で、歓迎会の主役が座るような場所ではない。









「えっ、本田さんは今日の主役なんですから、あっちに……」



「ここがいい」



それとなく誘導してみたけれど、本田さんは微動だにしない。



周囲は私や他の男性社員で埋まっており、女の子たちは残念そうに肩を落としていた。



――でも、それで諦めるような子たちだったら、わざわざ別の部署の歓迎会にまで付いて来たりしないよね……。



案の定、彼女たちは諦めず、乾杯や挨拶と称して次々と本田さんのところへやってきた。



「そうか、今後ともよろしく」



「あぁ、覚えておくよ」



しかし本田さんは、そんな彼女たちに対して、素っ気ない返事をするだけ。



「彼氏、人気者だね」



由紀子先輩がこっそり耳打ちしてくる。



「もう、違いますってば!」



私は慌てて否定したけれど、すぐに本田さんが割り込んできて、余計に話がややこしくなる。



「何が違う、彼女だろう」



――会社の人がいるのに! 本田さん、何を考えてるの!?



というか、愛人じゃなくて彼女なの!?



本田さんが発した『彼女』という言葉に驚きつつも、まずは否定しなければ!



「あの、彼女じゃないですから!」



周りの視線が集まる中、私は何とか否定を繰り返す。



その後、人の波が引き始めると、本田さんは周りの人たちと談笑を始めた。



女の子たちが寄ってきて話しかけても、無視はしないものの明らかに適当に返事をしている。



自分に興味がないと分かったからか、他の部署の女の子たちは意気消沈して自分の席に戻っていった。



飲み会の席なのに、私は気が重いままだった。









普通ならアルコールが入れば場が楽しくなるはずなのに、気になることが多すぎて上手く酔えない。



――本田さん、さっき私のこと『彼女』って言ってたよね。



一体どういうつもりなの?



そもそも、私は本田さんのことをどう思ってるんだろう……。



否定したけれど、周りはどう思っただろう。他の部署の子たちは私を本田さんの彼女だと思ってるんだろうな。



――だって、他の女性には素っ気ないのに、私には隣に座ったり話しかけてきたりするんだもの。



女性はいくつになってもゴシップやスキャンダルが大好きだ。



今日の出来事もすぐに広まるに違いない。



――本田さん、何てことをしてくれたの……。



気づけば、気分はすっかり憂鬱になっていた。









自棄になって、最後まで飲みまくろうと決意したその時、本田さんから声をかけられた。



「亜美、今日は1次会だけにしておけ」



――えっ、心を読まれた?



「……何でですか?」



「顔色が悪い。酒もそれ以上飲むな」



『誰のせいで』と言いかけたけれど、なんとか飲み込む。



「本田部長、2次会来ますよね~?」



「いや、俺は帰る。亜美が体調悪そうだ」



「え、山崎さん、大丈夫⁈」



皆が心配そうな顔をしてこちらを見た。



「大丈夫です……」



「今日は無理やりごめんね。ほら、もう帰った方がいいよ」



「俺が送る」



「部長がいるなら安心ですね。じゃあ週明けにね! ちゃんと休むんだよ!」



皆に見送られながら、本田さんと一緒に居酒屋を出た。









本田さんが斎藤さんに電話をしている横でぼんやり待っていると、彼をチラチラと見ながら通り過ぎる女性たちが目に入った。



――本田さん、目立ってるな……。



何気なくその様子を見ていると、急に酔いが押し寄せてきて、頭がボーっとし始める。



本田さんが何か話しかけてきたけれど、酔いのせいで内容が全く理解できなかった。



少しふらつくと、すかさず肩を支えられ、そのまま彼にもたれかかる形に。



1分もしないうちに斎藤さんの運転する車が到着し、そのまま乗り込んだ。



――私は、どうしたらいいんだろう……。



目を閉じると、いつの間にか眠りに落ちていた。









目が覚めたのは次の日のお昼だった。



「うそ……、もうお昼? 寝すぎた……!」



スマホの時刻を確認し、軽くショックを受ける。



頭が少し痛むものの、飲んだ量がそこまで多くなかったのか、二日酔いの症状はほとんどなかった。



スマホには本田さんからのメッセージが届いていた。



『今日も仕事がある』とのこと。









テーブルには二日酔いに効く薬が置かれており、さらに『何か必要なものがあれば斎藤に連絡しろ』とのメモまであった。



再びスマホに目をやりメッセージの最後の一文を読む。そこで、一気に気分が下がる。



『日曜日は空けておけ』



――何をするのかまでは書いていないけれど、借金を肩代わりしてもらった以上、逆らうことはできない。



しかし、せっかくの日曜日。どうにかして回避できないだろうか?



頭をひねってみるものの、何も良い案が思い浮かばない。



――そもそも、少し考えただけで思いついているなら、愛人なんてやってない……。



これ以上考えることを諦めた私は、日曜日に備えて1日寝溜めしておくことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...