出会いは突然に〜愛人の行方〜

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5.本田さんの歓迎会

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居酒屋に着くと、別の部署の女の子たちが早速本田さんの隣を陣取ろうと奮闘していた。



「本田さん、こっちに座りませんか?」



「ここ、空いてますよ。どうぞ!」



私としては本田さんと真反対に座りたいぐらいの気持ちだ。









確かに顔は良いし、仕事もできるけれど、騙されちゃいけない。



そいつはとにかく強引で、自分勝手なんですよ!



そう心の中で毒づくものの、口には出せない。



本田さんをロックオンしている彼女たちに何を言ったところで、きっと相手にされないだろう。



私はその忠告を胸に留めておくことにした。









ある程度席順が決まってきて、私は由紀子先輩の隣に腰を下ろす。



メニューを見ながら、1杯目は何にしようかと考え込む。



やっぱり生ビールかな? それともレモンサワー?



そんな風に悩んでいると、後ろから声が聞こえた。



「ここ座るぞ」



「あ、どうぞー……えっ?」



つい反射的に返事をしてしまったが、隣に座ってきたのは、さっきまで別の女性社員たちにもみくちゃにされていたはずの本田さんだった。



――えっ、なんで!?



私が座っているのは下座で、歓迎会の主役が座るような場所ではない。









「えっ、本田さんは今日の主役なんですから、あっちに……」



「ここがいい」



それとなく誘導してみたけれど、本田さんは微動だにしない。



周囲は私や他の男性社員で埋まっており、女の子たちは残念そうに肩を落としていた。



――でも、それで諦めるような子たちだったら、わざわざ別の部署の歓迎会にまで付いて来たりしないよね……。



案の定、彼女たちは諦めず、乾杯や挨拶と称して次々と本田さんのところへやってきた。



「そうか、今後ともよろしく」



「あぁ、覚えておくよ」



しかし本田さんは、そんな彼女たちに対して、素っ気ない返事をするだけ。



「彼氏、人気者だね」



由紀子先輩がこっそり耳打ちしてくる。



「もう、違いますってば!」



私は慌てて否定したけれど、すぐに本田さんが割り込んできて、余計に話がややこしくなる。



「何が違う、彼女だろう」



――会社の人がいるのに! 本田さん、何を考えてるの!?



というか、愛人じゃなくて彼女なの!?



本田さんが発した『彼女』という言葉に驚きつつも、まずは否定しなければ!



「あの、彼女じゃないですから!」



周りの視線が集まる中、私は何とか否定を繰り返す。



その後、人の波が引き始めると、本田さんは周りの人たちと談笑を始めた。



女の子たちが寄ってきて話しかけても、無視はしないものの明らかに適当に返事をしている。



自分に興味がないと分かったからか、他の部署の女の子たちは意気消沈して自分の席に戻っていった。



飲み会の席なのに、私は気が重いままだった。









普通ならアルコールが入れば場が楽しくなるはずなのに、気になることが多すぎて上手く酔えない。



――本田さん、さっき私のこと『彼女』って言ってたよね。



一体どういうつもりなの?



そもそも、私は本田さんのことをどう思ってるんだろう……。



否定したけれど、周りはどう思っただろう。他の部署の子たちは私を本田さんの彼女だと思ってるんだろうな。



――だって、他の女性には素っ気ないのに、私には隣に座ったり話しかけてきたりするんだもの。



女性はいくつになってもゴシップやスキャンダルが大好きだ。



今日の出来事もすぐに広まるに違いない。



――本田さん、何てことをしてくれたの……。



気づけば、気分はすっかり憂鬱になっていた。









自棄になって、最後まで飲みまくろうと決意したその時、本田さんから声をかけられた。



「亜美、今日は1次会だけにしておけ」



――えっ、心を読まれた?



「……何でですか?」



「顔色が悪い。酒もそれ以上飲むな」



『誰のせいで』と言いかけたけれど、なんとか飲み込む。



「本田部長、2次会来ますよね~?」



「いや、俺は帰る。亜美が体調悪そうだ」



「え、山崎さん、大丈夫⁈」



皆が心配そうな顔をしてこちらを見た。



「大丈夫です……」



「今日は無理やりごめんね。ほら、もう帰った方がいいよ」



「俺が送る」



「部長がいるなら安心ですね。じゃあ週明けにね! ちゃんと休むんだよ!」



皆に見送られながら、本田さんと一緒に居酒屋を出た。









本田さんが斎藤さんに電話をしている横でぼんやり待っていると、彼をチラチラと見ながら通り過ぎる女性たちが目に入った。



――本田さん、目立ってるな……。



何気なくその様子を見ていると、急に酔いが押し寄せてきて、頭がボーっとし始める。



本田さんが何か話しかけてきたけれど、酔いのせいで内容が全く理解できなかった。



少しふらつくと、すかさず肩を支えられ、そのまま彼にもたれかかる形に。



1分もしないうちに斎藤さんの運転する車が到着し、そのまま乗り込んだ。



――私は、どうしたらいいんだろう……。



目を閉じると、いつの間にか眠りに落ちていた。









目が覚めたのは次の日のお昼だった。



「うそ……、もうお昼? 寝すぎた……!」



スマホの時刻を確認し、軽くショックを受ける。



頭が少し痛むものの、飲んだ量がそこまで多くなかったのか、二日酔いの症状はほとんどなかった。



スマホには本田さんからのメッセージが届いていた。



『今日も仕事がある』とのこと。









テーブルには二日酔いに効く薬が置かれており、さらに『何か必要なものがあれば斎藤に連絡しろ』とのメモまであった。



再びスマホに目をやりメッセージの最後の一文を読む。そこで、一気に気分が下がる。



『日曜日は空けておけ』



――何をするのかまでは書いていないけれど、借金を肩代わりしてもらった以上、逆らうことはできない。



しかし、せっかくの日曜日。どうにかして回避できないだろうか?



頭をひねってみるものの、何も良い案が思い浮かばない。



――そもそも、少し考えただけで思いついているなら、愛人なんてやってない……。



これ以上考えることを諦めた私は、日曜日に備えて1日寝溜めしておくことにした。
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