出会いは突然に〜愛人の行方〜

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6.憂鬱な日曜日

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迎えた日曜日、私は本田さんに上から下までじっくり見られていた。



時刻は午前11時。









――朝から押しかけて来た本田さんに今日は出かける旨を告げられ、なぜか一緒に朝食を食べることになった。



息が詰まる中なんとか食べ終えると、私は出かけるための準備を始めた。



クローゼットに収納されていたおしゃれ着は、今まで着たことがないようなフェミニンなタイプ。



しかし、着てみると意外としっくりきて、嬉しくなる。



正直、そのきっかけを思うと釈然としない気持ちにもなるのだけれど。









それはさておき、準備を整えてから本田さんの前に姿を現して、今に至る……。



「あの、何ですか。どこか変ですか?」



「今日は歩くかもしれないが、スニーカーじゃなくていいのか?」



――私が着ているのはフェミニンなワンピース。



これに合わせるなら、ミュールかパンプスだろう。



「履き慣れているので大丈夫だと思いますけど……。ヒールはまずいですか?」



「そういう訳じゃない。お前がいいならいい」



「あの、ちなみに何処に行くんですか?」



「アウトレットモールだ」









――というわけで、私と本田さんは斎藤さんの運転する車に乗って移動を始めた。



「あの、斎藤さん、ちゃんと休んでますか? いつも本田さんの側に居る気が……」



「えぇ、しっかりと休みは頂いています」



この人の言う休みって、昼休みとか細切れの休みを言っているんじゃないかと思う。



いつか過労で倒れるんじゃないかと心配だが、私がどうこう出来る問題ではないから、いつか本田さんに掛け合ってみよう。









アウトレットに到着すると、高級ブランドの店舗がずらりと並ぶ通りへと向かった。



あらゆるお店がある中で、まっすぐそこに歩いていくのが本田さんらしい。



「何買うんですか?」



「バッグだ」



「バッグって……。普段持ってないですよね?」



「俺のじゃない、亜美のバッグを買うんだ」



「え⁉」



まさか、私のバッグを買おうとしているとは思っていなかった。









「え、いや、バッグは新しいのがクローゼットに……」



「使っていないってことは好みじゃないんだろう。お前好みのバッグを買ってやる」



好みまで考えてくれているんだったら、ブランドまで選ばせてほしい。



「だ、だったら私の好きなブランドがいいです!」



そう言うと、不服そうな顔をしながらもブランド名を聞いてくる。









学生時代から愛用していたものの、しばらくご無沙汰だったブランド『サムバケーション』。



10代から40代まで幅広い年代を対象としたバッグを取り扱っている。



「……安いな」



値札を見ながら本田さんがぽつりと呟く。



高級ブランドと比べると安いとは思うが、それでも数万円はする。



学生はもちろん、社会人でも直ぐには手が出せない金額だ。



私は年に一度、夏のボーナスで『サムバケ』のバッグを購入するのを楽しみにしていた。



借金が判明したことで、当分の間は購入できないと思っていたから嬉しい。









「これとこれどっちにしよう……」



「どっちも買ったらいいだろう。2つ合わせても想定していた金額の半額以下だ」



「それはだめです」



グレーとブルーのバッグで散々悩み、結局ブルーのバッグを選んだ。



どのコーデにも合わせやすいデザインになっている。



持ち手の部分が竹で出来ているのがアクセントになっていて可愛い。



「ありがとうございます。実はこのブランド——」









前置きをしてから、サムバケーションにまつわる学生時代の思い出を話しながら歩く。



初めて買ったブランド物だった事や、きっかけは当時クラスで一番かわいい子が持っていた事など——。



話してから興味なかったかと顔を見上げれば、意外にも真剣に聞いてくれていたようで、驚きとともに心が温かくなった。









「ということがあって……っ」



話に夢中になっていると、本田さんから待ったがかかる。



「ここで座って待ってろ。ちょっとトイレに行ってくる」



「分かりました」



言われた通り、大人しく座って待つことにする。









スマホを見ながら待つこと数分。



人が近づいて来る気配を感じ、顔を上げる。



——が、そこに居たのは男性2人組だった。



「あの……」



「はい?」



最初知り合いかと思ったが、見覚えのない顔だ。









「サムバケーションの場所分かりますか?」



「あっ、それなら、そこを真っ直ぐ行って……」



「すみません、ちょっとわかんないんで、案内してもらっていいですか?」



「あっ、はい」



——すぐに戻ればいいよね。



トイレの方を見て、本田さんがまだ出てこない事を確認してから、スマホで席を外す旨のメッセージを送る。









サムバケーションに向かっていると、男性2人が話しかけてくる。



「お姉さん、1人で来てるの?」



「え、いや、1人じゃなくて……」



「あ、友達と? それなら一緒に回らない?」



「案内してくれたお礼に奢るからさ」



「えっと、あの、そうじゃなくて……」









……あれ、これはもしかして、ナンパ?



初めてのナンパに、気づくのが遅れてしまった。



最初から分かっていたら無視出来たのに!



今更、どうあしらえばいいのか全く分からない。









「あ、あの、本当に違うんです……」



「照れてんの? 大丈夫だって、変なことはしないからさ」



助けを求めようと、周囲を見回した時だった。



「連れに何か用か?」



「……え?」



本田さんの声に、男性たちがそちらを振り向いた。



先ほどまでの柔らかい雰囲気はなく、明らかに苛立っている。



「え、あ、すんませんっ!」



「彼氏がいるとは思わなかったんすよ、まじで!」



本田さんを見るなり態度が豹変した男性たちは、途端に頭をぺこぺこと下げ始める。



「……もういい。さっさと失せろ」



その言葉を聞くや否や、男性たちは尻尾を巻いて逃げて行った。









「……あのメッセージは何だ。席に居ろと言っただろう」



「その、私もそういう目的だと気づかなくて。……すみません、助けて下さってありがとうございました」



本田さんは男性たちが居なくなるなり、説教を始めた。



「ナンパなんかに引っかかるなよ」



私が悪いのだから、口答えなんて出来ない。



「亜美には危機感がない」









——だが、私だって怖かったのだ。



責めるだけじゃなく、もう少し寄り添って欲しいと思うのは、過ぎた願いなのだろうか。



「……はい。すみません」



「……はぁ、もういい。食事にしよう」









どのお店がいいか聞かれて、前から行きたかったお店をあげてみたが、こんな気分では何を食べても美味しく感じない。



会計をしてから、料理の感想やこの後の予定について話しかけてみても、返事は適当そのもの。



そっちから誘ってきたくせに、どうして私がご機嫌取りをしなければならないのか。



「……あっちの方に噴水広場があるみたいですよ。行ってみませんか」



「勝手に行けばいい」



——はぁ?!



投げやりなその一言に、堪忍袋の緒が切れた。









「さっきから何なんですか⁈」



さっきまで我慢していた反動で、言葉が溢れ出る。



「何のために誘ったんですか? あなたのご機嫌取りのために来たんじゃないです!」



「な、何だ急に」



「こんなの……! 全然楽しくありません!」



——人に対して声を荒げたのは初めてで、息が詰まって言葉が上手く出てこない。



周りのお客さんが、目を丸くして私たちを見ている。



私は買ってもらったバッグを本田さんに投げつけると、一目散に駆け出した。









なんで私はいっつもこうなんだろう。



私だってもっと上手く立ち回りたいのに!









あと少しで出口に差し掛かるという所で、右腕を掴まれた。



振り向くと、本田さんがいた。



「待ってくれ、話をしよう!」



「話すことは何もありません、帰ります!」



腕を振りほどこうとしても、振りほどけない。



「待てって! こっちにこい」



出口を出て、駐車場の隅の方に連れて行かれる。









「場所を変えるぞ」



そう言うと、右腕を掴んだまま、スマホで迎えの車を呼ぶ。



待つ間も、腕を掴んだまま離すことはなかった。









気まずい中、10分ほど待っていると斎藤さんが迎えに来てくれた。



車に乗り込む時にようやく腕が開放される。









車内では互いに無言だった。



じっと黙っていると、だんだん頭が冷えてきた。



冷静になるにつれ、さっきの自分の態度はまずかったのではないかという気がしてくる。



あの態度は、私が本田さんに対して不満を持った事に気づいたからかもしれない。



その事が気に障って、あの態度だったのだろうか。



聞こうにも、話しかけるなという無言の圧力に、何も聞くことができない。



何とも居心地が悪い空気に、どこでもいいから早く到着することを祈った。









「到着いたしました」



斎藤さんが車を停めたのは、私の住むマンションではなかった。



首が痛くなりそうな程の高層マンションに、本田さんに手招きされて入って行く。



「本田様、おかえりなさいませ」



「ああ、ただいま」



マンションコンシェルジュに声を掛けられる。



どうやら、本田さんが住んでいるマンションらしい。



本田さんはエレベーターに乗ると、最上階の2つ下にあたる48階のボタンを押した。



エレベーターを出て角を曲がり、一番端にある部屋の前で立ち止まる。



どうやらここが、本田さんの部屋のようだ。



どれだけ身近に居ても、この人とは住む世界が違う。
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