出会いは突然に〜愛人の行方〜

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10.観覧車にて

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その後の記憶は、正直に言ってあまり無い。



さっきの表情を思い出すたびに胸が痛くなる。



「もう大体乗ったか?」



本田さんがマップを広げ、残ったアトラクションを確認している。



空は夕日に染まり、パーク内の家族連れがぐっと減ってきた頃だった。



「……あぁ、観覧車が残っているな。どうだ、最後に乗るか?」



「は、はい!」



――異性と観覧車に乗るなんて、初めてだ。



周りはカップルばかりで、嫌でも意識してしまう。









私たちの順番が回ってきた。



向かい合って座るけれど、自然と視線は外の景色へと向かう。



街にはチラホラと明かりが灯り始め、夜空の星のように輝いていた。



「連れまわしちゃってすみません」



「楽しかったか?」



「はい! 本田さんは楽しめましたか?」



「ああ、柄にもなく楽しかった。疲れはしたがな」



少し茶化すような彼の言葉に、思わず笑みが零れる。



「亜美の方こそ疲れたんじゃないか?」



「え?」



「違うのか? 元気がないように見えたんだが」



確かに歩き回って疲れてはいたが、疲れて見えたのはきっと、本田さんを意識しすぎたせいだ。



「あっ……、ちょっと考え事をしていたから」



「考え事?」



「いえ、その……」



「何だ、心配事か」



口ごもったことで、言いづらいことだと思わせてしまったのかもしれない。



「本当に大丈夫です。個人的なことなので……!」



「……そうか。無理に話す必要はないが、もし話したくなったら話せ。俺とお前は……」



「愛人、ですか」



自分の口から出たその言葉に、ハッとして言葉を飲み込む。



――『愛人』。



その一言が、好意を自覚した私の胸に鋭く刺さる。



恋人にはなれない――それならいっそのこと、もっと雑に扱ってほしかった。



そうしてくれたら、こんな風に好きにならずに済んだのに……。









「……愛人が嫌だったのか?」



本田さんの低い声に、胸がチクリと痛む。



いけない。つい女々しいことを考えてしまう。









「一目惚れだった」



「え?」



思いがけない一言に、言葉を失った。



――一目惚れ? 冗談でしょ?



しかし、本田さんがそんな質の悪い冗談を言う人ではないことは分かっている。



反応できずにいると、彼はさらに言葉を続けた。



「俺が亜美に初めて会った時だが」



視線は窓の外を向いている。



「お前があの時、俺をそういう目で見ていないことは分かっていた」



確かにあの時は、感謝こそすれど、そんな感情は一切持っていなかった。



「はっ……初対面で言い寄られることも多いんだがな」



「自分で言いますか……」



前なら、なんて自意識過剰な人なんだと呆れていただろう。



でも今なら、動揺する私を気遣っているのだと分かる。



「そんなお前に『付き合ってほしい』だなんて言えなかった。愛人から徐々に好きになってもらおうと思った」



「……」



「ただ、お前がそんなに嫌がっているとは思っていなかった」



本田さんは申し訳なさそうにそう付け加えた。



「でも、今思えば軽率な発言だった。悪かった」



彼が頭を下げる姿に、私の方が慌ててしまう。



「い、いいんです! 謝ってほしかったわけではなくて……!」



「……お前にはもう、誤解をしてほしくない。これが俺なりの誠意だ」



「本田さん……」



一瞬の静寂の後、本田さんは深く息を吸い、私を真っ直ぐ見つめて言った。



「亜美……俺はお前が好きだ」



その一言に、嬉し涙が溢れて視界が滲む。



「俺の恋人になってくれないか」



「……最初からそう言ってくださいよ」



「はは、そう言ったところで了承してくれたか?」



「それは分かりませんけど……!」



私が拗ねたように返すと、本田さんは親指でそっと私の目尻を拭った。



「それで、亜美の返事はどうなんだ?」



観覧車はもうすぐ地上へと到着する。



私は息を整え、小さく頷いた。



「……もちろん、『はい』です」



その瞬間、彼がそっとキスをしてきた。



恋人として交わした初めてのキスは、涙の味がした。
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