出会いは突然に〜愛人の行方〜

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16.食事デート

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高級レストランなんて縁のない世界だと思っていたのに……。



目の前には重厚な木の扉。



足元のカーペットはふかふかで、嫌でも高級レストランであることを意識させられる。



どうして私はここにいるんだろう……そう思わずにはいられなかった。









「入るぞ」



隣にいる晃の声にハッと我に返る。



彼が慣れた様子で扉を開けて私を中に通すと、豪華なシャンデリアが目に飛び込んできた。



白いテーブルクロスの上には綺麗な花が飾られ、柔らかなピアノの音色が食事に華を添える。



周囲の人々は洗練された装いで、自分が場違いに思えてくる。



私はこの日のために買ったワンピースの裾をそっと握りしめた。









席に案内され、椅子に腰を下ろす。



頭の中で、昨夜勉強したマナーを反復する。ちゃんとできるだろうか。



「大丈夫か?」



「大丈夫じゃないです。こんな場所、初めてなんですから」



彼は苦笑しながら、食器の上に置かれたナプキンを手に取り、膝の上に置いた。



晃の自然な仕草に、ますます肩身が狭くなる。









まず前菜が運ばれてきた。



白い皿に彩り豊かなシーフードマリネが盛り付けられている。



「美味しそうだな」



その一言で我に返り、フォークとナイフを手に取り口に運ぶ。



しかし、緊張が勝って十分に味わうことができない。









続いてスープが運ばれてくる。



琥珀色のスープは、口に入れる前から芳醇な香りを漂わせていた。



スープを一口飲むと、思わず笑みが零れた。









メインディッシュが運ばれてくる頃には、ようやく緊張が解けてきた。



お肉の焼き加減を尋ねられ、お互いミディアムを頼んだ。



フォークを入れると、肉汁がじゅわっと溢れた。









ふと顔を上げて晃を見る。今日の晃には何か違和感がある。



「お肉も美味しいですね」



頷く彼はいつも通りだ。私の気の所為なのだろうか。









デザートが運ばれてきた。



小さなプレートの上には、ケーキが盛り付けられている。



フォークを手に取り、口に運ぶ。



思わずにやけてしまう。



その様子を晃が嬉しそうに見ていたことには気づかなかった。









食事を終え、晃に断りお手洗いに行く。



洗面台で手を洗いながら、晃の様子に違和感を持ったことを思い出す。



後で聞いてみよう。









席に戻ると、テーブルの上は綺麗に片付けられていた。



皿やカトラリーはもちろん、グラスさえも無くなっている。



それを見て、帰り支度を始める。



バッグを手に取り、椅子を引こうとしたその時。



「待て」



晃の声が響く。









振り返ると、晃がテーブルの上に小さな箱を出していた。



まるでドラマの一場面のような光景に、言葉を失う。



「晃……?」



箱を開ける動きが、スローモーションのように見える。



箱の中には、指輪が収められていた。



それもただの指輪ではない——婚約指輪だ。









「亜美、俺と結婚してほしい」



嬉しいのに、なぜか涙が止まらない。



「……私でいいの?」



その声は震えていた。









結婚は、遠い未来の話だと思っていた。



彼の妻としてやっていけるのか、不安もある。



でも、晃はそんな私の不安を打ち消すように、力強い声で言った。



「お前しかいない」









その言葉を聞いた瞬間、不安は跡形もなく消えた。



「私……嘘みたい」



言葉にならない思いが、涙と共に溢れ出た。



「こんな私で良ければ……、よろしくお願いします」



晃に震える手を差し出すと、薬指にそっと指輪をはめてくれた。



指輪は私の指にぴったりと収まった。









晃がテーブル越しに、私の手を握りしめる。



その手を握り返しながら、どんな試練も2人なら乗り越えていけると思えた。
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