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第八章~流星~
㉓
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王宮の石造りの廊下を、フードを深く被った青年が静かに歩いていた。
ルイは常に顔を隠してきた。
地味な黒のフードを目深に被り、人々の視線を避けるようにして生きてきた。
顔を見せるだけで、誰かを狂わせてしまうことがある。
人の運命をねじまげる導師の力、それは人を魅了する力でもあると。
フードを被るようになってから、ルイは人前で顔を出すことはほとんどなくなった。
もう5年も王宮にいるが、ルイの顔を知っている人間は限られてくるだろう。
「これを着なさい」
淡々とした声が部屋に響いた。
師であるグレゴリーが、白のローブを腕に抱えて立っていた。
刺繍が美しく、儀礼の装束とは思えぬほど華やかだった。
ルイは視線を伏せる。
「……舞踏会には、出ません」
「マーガレット王女の誕生を祝う舞踏会だ。お前が世話になった王女に、顔を見せるのが礼というものだろう」
「……俺は……」
ルイは口をつぐみ、裾を握りしめた。
フードの内側で息がこもる。
思い返せば、この布の向こうに自分の居場所があった。
見られないことで、存在を許されていた。
顔を見せずにいることが、誰かを守ることだと信じてきた。
けれど──
「もう二十歳だ、ルイ。お前の力は、お前が制御できる。もう誰も、お前の顔に狂ったりはしない」
グレゴリーの言葉は、静かで、優しい。
それでも、ルイの中に残る恐れは消えなかった。
もし、制御できなかったらどうなるのだろう。
「……俺には、まだ……早すぎます」
囁くような声で言った。
「出ません。どうか、今日だけは、このままに──」
長い沈黙ののち、グレゴリーは微かに息を吐いた。
「そうか。だが、それを脱がぬままでは、お前はいつまでも檻の中だ。覚えておけ、ルイ」
扉が閉まる音がした。
ルイは一人、白いローブを見つめた。
美しい布地。
金糸の刺繍。
王宮の灯りを受けて、きらきらと輝いていた。
それは、自分には似つかわしくない光だった。
ルイは静かにフードを撫でた。
己を隠してくれる布のぬくもりに、もう一度、安堵を覚えながら──。
ルイは常に顔を隠してきた。
地味な黒のフードを目深に被り、人々の視線を避けるようにして生きてきた。
顔を見せるだけで、誰かを狂わせてしまうことがある。
人の運命をねじまげる導師の力、それは人を魅了する力でもあると。
フードを被るようになってから、ルイは人前で顔を出すことはほとんどなくなった。
もう5年も王宮にいるが、ルイの顔を知っている人間は限られてくるだろう。
「これを着なさい」
淡々とした声が部屋に響いた。
師であるグレゴリーが、白のローブを腕に抱えて立っていた。
刺繍が美しく、儀礼の装束とは思えぬほど華やかだった。
ルイは視線を伏せる。
「……舞踏会には、出ません」
「マーガレット王女の誕生を祝う舞踏会だ。お前が世話になった王女に、顔を見せるのが礼というものだろう」
「……俺は……」
ルイは口をつぐみ、裾を握りしめた。
フードの内側で息がこもる。
思い返せば、この布の向こうに自分の居場所があった。
見られないことで、存在を許されていた。
顔を見せずにいることが、誰かを守ることだと信じてきた。
けれど──
「もう二十歳だ、ルイ。お前の力は、お前が制御できる。もう誰も、お前の顔に狂ったりはしない」
グレゴリーの言葉は、静かで、優しい。
それでも、ルイの中に残る恐れは消えなかった。
もし、制御できなかったらどうなるのだろう。
「……俺には、まだ……早すぎます」
囁くような声で言った。
「出ません。どうか、今日だけは、このままに──」
長い沈黙ののち、グレゴリーは微かに息を吐いた。
「そうか。だが、それを脱がぬままでは、お前はいつまでも檻の中だ。覚えておけ、ルイ」
扉が閉まる音がした。
ルイは一人、白いローブを見つめた。
美しい布地。
金糸の刺繍。
王宮の灯りを受けて、きらきらと輝いていた。
それは、自分には似つかわしくない光だった。
ルイは静かにフードを撫でた。
己を隠してくれる布のぬくもりに、もう一度、安堵を覚えながら──。
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