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翌日の昼食時、私は並べられた料理を前に、今日こそはと拳を握りしめていました。
(昨日までは、つい不意を突かれて本音を漏らしてしまったけれど、今日は違いますわ。私は『強欲な悪女』。アッシュ様に「なんて金のかかる女だ、もう面倒は見きれん!」と言わせてみせますわ!)
私は豪華な刺繍が施されたテーブルクロスを指先で弾き、わざとらしく鼻を鳴らしました。
向かい側に座るアッシュ様は、優雅にスープを口に運んでいます。
その隙のない美しさに一瞬見惚れそうになりましたが、いけません、いけませんわ。
「……アッシュ様。私、このお屋敷の生活にはもう飽き飽きですわ。もっとこう、悪女にふさわしい贅沢をさせていただかないと、ストレスで肌が荒れてしまいますの」
「ほう。贅沢、か。例えば何を望む」
アッシュ様が、試すような視線をこちらに向けました。
(よし、来たわ! ここで『隣国の最高級ダイヤモンドを100個持ってきなさい!』とか『この庭をすべて金粉で埋め尽くしてちょうだい!』とか言うのよ!)
「……例えば……っ」
喉が、キュウッと熱くなります。
私の胸元で、紫の宝石が「またやるのか」と言わんばかりに輝きました。
「……例えば、……屋敷の隅で埃を被っている古い画材を、私に自由に使わせてくださいまし! それで、孤児院の子供たちに贈るための絵本を描きたいんですの。あ、あと、余った布地もいただきたいわ。子供たちの冬服を縫ってあげたいんですもの……!」
「…………」
アッシュ様の匙が、カチリと音を立てて止まりました。
(あああああ! なんで! なんで宝石じゃなくて画材なの! なんで金粉じゃなくて古布なのよ!)
「……贅沢、だったな? それは」
「……ええ、そうですわ! 私にとっては……っ」
(私にとっては、子供たちの笑顔を見るのが一番の贅沢なんですのよ! ああもう、私のバカ!)
「……私にとっては、子供たちの喜ぶ顔を想像しながら作業をする時間が、何よりの至福なんですの……! お高いドレスや宝石なんて、私のこの高潔な精神を満たすことはできませんわ。私は、誰かのために手を動かしているときが一番、自分が輝いていると感じるんですの……!」
「…………っ」
アッシュ様が、片手で目元を覆いました。
そのまま肩を微かに震わせています。
……怒っているのでしょうか? あんなに不器用な、もとい、質実剛健な公爵様に、私の「施し精神」が理解されなかったのでしょうか。
「……クロエル。君は、自分の評価を下げる天才だな」
「……お褒めに預かり光栄ですわ(本当は:皮肉かしら、悔しいわ!)」
「セバス。今すぐ最高級の画材と、王室御用達の布地を一揃え用意しろ。あ、いや、街の在庫をすべて買い占めても構わん」
「畏まりました、旦那様。お嬢様の『贅沢』のために、尽力いたしましょう」
控えていたセバスさんが、なぜかとても優しい、孫を見るような目で微笑んでいます。
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなにたくさんいりませんわ! 私はただ……っ」
「……ただ、……公爵家の財力を存分に見せつけていただいて、私がどれほど愛されているかを周囲に自慢したいだけですの! ああ、アッシュ様の太っ腹なところ、本当に男らしくて痺れますわ……!」
私は、自分の口を縫い合わせてやりたい衝動に駆られました。
アッシュ様は、今度は隠そうともせずに、口角を上げて私を見つめています。
「……自慢、か。いいだろう。明日から君には、さらに『自慢したくなるような』待遇を与えてやる」
「ひぇ……っ」
(嫌な予感がしますわ! この人、私の本音を燃料にして、さらに溺愛の火力を上げようとしていませんこと!?)
食後、私は逃げるように自室へ戻ろうとしましたが、廊下でアッシュ様に呼び止められました。
「クロエル。……一つ、聞かせてくれ」
「……なんですの」
アッシュ様は、少しだけ言い淀むような、彼らしくない表情を見せました。
「……君は、私に対しても『優しい嘘』を吐こうとしているのか? 嫌われるための嘘を」
私は、ハッとして足を止めました。
(そうですわ。私は彼に嫌われなければならない。私が彼を「愛している」なんて真実が広まれば、私が「悪女」として追放される計画が、根本から覆ってしまう……)
「……当然ですわ。私は、あなたのような冷徹な方を、心底軽蔑しておりますもの。早くここから追い出されたくて、毎日祈っているくらいですわ」
――ググッ。
首輪が、過去最大級の光を放ちました。
喉が焼けるように熱くなり、私は壁に手をついて耐えました。
「……当然ですわ。私は、……あなたのような不器用で、本当は誰よりも温かい心を持った方を、……心から尊敬し、お慕いしておりますもの……! 本当は、ここから追い出されたら、私、寂しくて三日三晩泣き明かしてしまう自信がありますわ……!」
「…………」
アッシュ様の手が、ゆっくりと私の頬に添えられました。
その熱に、私の心臓が大きく跳ねます。
「……やはりな。君のその首輪は、君の『優しさ』が他人に踏みにじられないように、天が与えた加護なのかもしれんな」
「加護だなんて……。これは呪いですわ……っ」
「私にとっては、神からの贈り物だ」
アッシュ様の顔が、ゆっくりと近づいてきます。
その瞳に映る私は、ひどく赤らんだ顔で、今にも泣き出しそうな、それでいて幸福感に溢れた「嘘のつけない」女でした。
「……覚悟しておけ、クロエル。君が自分を嫌おうとしても、私がそれを許さない。君の本音を、すべて私が喰らい尽くしてやろう」
「……っ……ぁ……っ」
(……っ……ぁ……っ、……好きにして、くださいまし……!)
私の口から零れた最後の一言は、もう声にならないほど甘い、降伏のサインでした。
(昨日までは、つい不意を突かれて本音を漏らしてしまったけれど、今日は違いますわ。私は『強欲な悪女』。アッシュ様に「なんて金のかかる女だ、もう面倒は見きれん!」と言わせてみせますわ!)
私は豪華な刺繍が施されたテーブルクロスを指先で弾き、わざとらしく鼻を鳴らしました。
向かい側に座るアッシュ様は、優雅にスープを口に運んでいます。
その隙のない美しさに一瞬見惚れそうになりましたが、いけません、いけませんわ。
「……アッシュ様。私、このお屋敷の生活にはもう飽き飽きですわ。もっとこう、悪女にふさわしい贅沢をさせていただかないと、ストレスで肌が荒れてしまいますの」
「ほう。贅沢、か。例えば何を望む」
アッシュ様が、試すような視線をこちらに向けました。
(よし、来たわ! ここで『隣国の最高級ダイヤモンドを100個持ってきなさい!』とか『この庭をすべて金粉で埋め尽くしてちょうだい!』とか言うのよ!)
「……例えば……っ」
喉が、キュウッと熱くなります。
私の胸元で、紫の宝石が「またやるのか」と言わんばかりに輝きました。
「……例えば、……屋敷の隅で埃を被っている古い画材を、私に自由に使わせてくださいまし! それで、孤児院の子供たちに贈るための絵本を描きたいんですの。あ、あと、余った布地もいただきたいわ。子供たちの冬服を縫ってあげたいんですもの……!」
「…………」
アッシュ様の匙が、カチリと音を立てて止まりました。
(あああああ! なんで! なんで宝石じゃなくて画材なの! なんで金粉じゃなくて古布なのよ!)
「……贅沢、だったな? それは」
「……ええ、そうですわ! 私にとっては……っ」
(私にとっては、子供たちの笑顔を見るのが一番の贅沢なんですのよ! ああもう、私のバカ!)
「……私にとっては、子供たちの喜ぶ顔を想像しながら作業をする時間が、何よりの至福なんですの……! お高いドレスや宝石なんて、私のこの高潔な精神を満たすことはできませんわ。私は、誰かのために手を動かしているときが一番、自分が輝いていると感じるんですの……!」
「…………っ」
アッシュ様が、片手で目元を覆いました。
そのまま肩を微かに震わせています。
……怒っているのでしょうか? あんなに不器用な、もとい、質実剛健な公爵様に、私の「施し精神」が理解されなかったのでしょうか。
「……クロエル。君は、自分の評価を下げる天才だな」
「……お褒めに預かり光栄ですわ(本当は:皮肉かしら、悔しいわ!)」
「セバス。今すぐ最高級の画材と、王室御用達の布地を一揃え用意しろ。あ、いや、街の在庫をすべて買い占めても構わん」
「畏まりました、旦那様。お嬢様の『贅沢』のために、尽力いたしましょう」
控えていたセバスさんが、なぜかとても優しい、孫を見るような目で微笑んでいます。
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなにたくさんいりませんわ! 私はただ……っ」
「……ただ、……公爵家の財力を存分に見せつけていただいて、私がどれほど愛されているかを周囲に自慢したいだけですの! ああ、アッシュ様の太っ腹なところ、本当に男らしくて痺れますわ……!」
私は、自分の口を縫い合わせてやりたい衝動に駆られました。
アッシュ様は、今度は隠そうともせずに、口角を上げて私を見つめています。
「……自慢、か。いいだろう。明日から君には、さらに『自慢したくなるような』待遇を与えてやる」
「ひぇ……っ」
(嫌な予感がしますわ! この人、私の本音を燃料にして、さらに溺愛の火力を上げようとしていませんこと!?)
食後、私は逃げるように自室へ戻ろうとしましたが、廊下でアッシュ様に呼び止められました。
「クロエル。……一つ、聞かせてくれ」
「……なんですの」
アッシュ様は、少しだけ言い淀むような、彼らしくない表情を見せました。
「……君は、私に対しても『優しい嘘』を吐こうとしているのか? 嫌われるための嘘を」
私は、ハッとして足を止めました。
(そうですわ。私は彼に嫌われなければならない。私が彼を「愛している」なんて真実が広まれば、私が「悪女」として追放される計画が、根本から覆ってしまう……)
「……当然ですわ。私は、あなたのような冷徹な方を、心底軽蔑しておりますもの。早くここから追い出されたくて、毎日祈っているくらいですわ」
――ググッ。
首輪が、過去最大級の光を放ちました。
喉が焼けるように熱くなり、私は壁に手をついて耐えました。
「……当然ですわ。私は、……あなたのような不器用で、本当は誰よりも温かい心を持った方を、……心から尊敬し、お慕いしておりますもの……! 本当は、ここから追い出されたら、私、寂しくて三日三晩泣き明かしてしまう自信がありますわ……!」
「…………」
アッシュ様の手が、ゆっくりと私の頬に添えられました。
その熱に、私の心臓が大きく跳ねます。
「……やはりな。君のその首輪は、君の『優しさ』が他人に踏みにじられないように、天が与えた加護なのかもしれんな」
「加護だなんて……。これは呪いですわ……っ」
「私にとっては、神からの贈り物だ」
アッシュ様の顔が、ゆっくりと近づいてきます。
その瞳に映る私は、ひどく赤らんだ顔で、今にも泣き出しそうな、それでいて幸福感に溢れた「嘘のつけない」女でした。
「……覚悟しておけ、クロエル。君が自分を嫌おうとしても、私がそれを許さない。君の本音を、すべて私が喰らい尽くしてやろう」
「……っ……ぁ……っ」
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