『「嘘つき令嬢」と婚約破棄された私、真実しか言えない「呪いの首輪」のせいで聖女だとバレて冷徹公爵に執着されています』

恋守あい

文字の大きさ
13 / 38

13

しおりを挟む
「……はぁ。もういっそのこと、このまま窓から飛び降りて、隣国まで転がっていきたいですわ」


昨日の今日で、私はすっかり魂が抜け落ちた状態でティーカップを見つめていました。


王太子殿下から「聖女」認定を受け、公爵家の中はまるでお祭り騒ぎ。
昨日まで「監禁」されていたはずの私は、今や屋敷の者たちから「慈愛の女神様」として、歩くたびに拝まれる始末です。


「お嬢様、またそんな景気の悪いことを。さあ、今日は『自称』アッシュ様の婚約者候補だった令嬢が、お嬢様に文句を言いにいらしてますよ」


リタが、これまた楽しそうに報告にやってきました。


「……なんですって!? 文句!? 素晴らしいわ、リタ! そういうのを待っていましたのよ!」


私はガタッと椅子を立ち上がり、瞳を輝かせました。


ついに来ました。
ドロドロとした令嬢同士の派閥争い!
ここで私が彼女を完膚なきまでに罵倒し、冷酷非道な本性を見せつければ、世間の「聖女」という評価も一気に覆るに違いありません。


「さあ、通してちょうだい。私の『悪女』としての洗礼を、たっぷりとお見舞いして差し上げますわ!」


客間に現れたのは、これでもかというほど着飾った、気の強そうな令嬢――イザベラ様でした。
彼女は私を見るなり、扇をパチンと閉じ、ツンと鼻を鳴らしました。


「……あなたが、あの『嘘つき』のクロエル・ラ・ピエリスね。アッシュ様の屋敷に居座り、あろうことか王太子殿下まで懐柔したという……。なんて浅ましい女かしら!」


「あら、よくぞおっしゃいましたわ、イザベラ様。ええ、そうですわ。私はあなたの想像を絶するほど、浅ましくて強欲な女ですの」


(よしっ、掴みはオッケー! ここで彼女に『アッシュ様は私のものよ、あなたのようなブスは帰りなさい!』と言ってやるのよ!)


「……さっさと帰りなさい、イザベラ様。あなたのような……っ」


喉が、ボッと燃えるような熱を発しました。
私の喉元で、呪いのチョーカーが「いい加減にしろ」と言わんばかりの光を放ちます。


「……さっさと帰りなさい、イザベラ様。……なんて、本当は、あなたのように自分の気持ちに真っ直ぐで、一生懸命に着飾って戦いに来る、情熱的な女性が大好きなんですの! ああ、その縦ロール、一体何時間かけて巻いたのかしら? あなたの美学が詰まったそのお姿、尊敬の念を抱かずにはいられませんわ……!」


「…………は?」


イザベラ様の、勝ち誇ったような笑みが凍りつきました。


(ち、違うの! 私は今、彼女の気合の入った髪型をバカにしたかったのに! なんで絶賛しているのよ!)


「な、何を言っているの!? 私を煽っているのかしら!? いいこと、アッシュ様は冷徹で無慈悲な方。あなたのような、他人のために自分を犠牲にするような『甘い女』は、すぐにお飽きになられるわ!」


「ええ、そうですわね。アッシュ様は冷たいお方。私なんて……っ」


(私なんて、ただの遊び相手に決まってますわ! あなたはもっと相応しい相手を探すべきよ!)


「……私なんて……っ、……私なんて、アッシュ様のあまりの甘やかしぶりに、毎日骨抜きにされているただの幸福な女ですわ! イザベラ様、あなた、アッシュ様が冷たいと思っているなんて、彼を全然分かっていませんのね。本当のあの方は、夜になると驚くほど独占欲が強くて、私を一瞬も離してくれない、とっても熱い男性なんですのよ……!」


「…………な、な、なっ……!!」


イザベラ様が、耳まで真っ赤にして絶句しました。


(あああああ! 誰か私の口を縫って! なんで初対面の令嬢に、公爵様との夜のノロケ話を暴露しているのよ!!)


「……っ! 不潔よ! なんて恥知らずなことを……! 私、そんな話を聞きに来たんじゃないわ! 私は、あなたにアッシュ様の隣に立つ資格がないと言いに……!」


「資格なんてありませんわ。私は、……私は……っ」


(私は、不実な嘘つきですもの。……でも、あなたは違うわね!)


「……私は、……自分よりもずっと、こうして正面から堂々と宣戦布告しに来るあなたの方が、高潔な魂を持っていると思いますわ! イザベラ様、あなたは本当に美しい。あなたのその誇り高い精神、私、心からお友達になりたいくらい惚れ込んでしまいましたわ……!」


私は、感極まってイザベラ様の手をギュッと握りしめてしまいました。
本当は、アッシュ様を狙うライバルなんて怖いはずなのに。
こうして一人で乗り込んでくる彼女の勇気が、今の私にはとても眩しく、愛おしく感じてしまったのです。


「……っ、……え、あ、お友達……?」


イザベラ様の毒気が、見る見るうちに抜けていきました。
彼女の大きな瞳が、少しだけ潤んだように揺れています。


「……あ、あなた、……本当に、噂通りの変な人ね。……私、あなたのこと、もっと嫌な女だと思っていたのに……」


「嫌な女ですわ! 私ほど性格の歪んだ女はいませんわ!」


――ググッ。


「……私ほど、……他人の幸せを自分のことのように喜んでしまう、お人好しの極みのような女はいませんわ! イザベラ様、そんな私に呆れて、どうぞこれからも私の相談相手になってくださいまし……!」


「…………もう、分かったわよ。そこまで言うなら、考えてあげなくもないわ」


イザベラ様は、ぷいっと顔を逸らしました。
ですが、その口元は微かに緩み、握りしめた私の手を、そっと握り返してくれたのです。


「……でも、アッシュ様を泣かせたら、私が黙っていないんだからね!」


「ええ、望むところですわ!」


(よし……。これで彼女とは『親友』になってしまったわね……。また一人、私を蔑むはずの人間が、私の味方になってしまったわ……)


そこへ、いつの間にか入り口で腕を組んで見ていたアッシュ様が、低い笑い声を漏らしました。


「……クロエル。君は、敵を攻略するのも全自動なのか」


「ア、アッシュ様! いつからそこに!」


「『夜になると独占欲が強い』あたりからだ。……自覚があったとは驚きだな。期待に応えて、今夜はさらに『熱く』してやろうか?」


「ひぃい……っ! いえ、結構です! 私はもう寝ますわ!」


(あああああ! もう一刻も早く、この首輪を外して、思いっきり『大嫌い!』って叫びたいですわーーー!!)


私の悪女への再挑戦は、またしても華麗な「攻略完了」という結果に終わったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

君が幸せになりたくなくても

あんど もあ
ファンタジー
来年には王立学園を卒業する伯爵家嫡男のライアンは、いい加減に婚約者を見つけないといけない。そんなライアンが新入生のクリスティナを好きになって婚約するのだが、実はクリスティナは過去の罪の贖罪のために生きていた。決して喜びや楽しさを求めず、後ろ向きに全力疾走しているクリスティナにライアンは……。

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界恋愛33位) ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。

処理中です...