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「……決まりましたわ。今日こそ、私はこの街一番の『強欲な悪女』として、その名を歴史に刻んでみせますわ!」
私は鏡の前で、不敵な笑みを浮かべて宣言しました。
今日は、アッシュ様による『監禁という名の定期検診(お買い物デート)』の日です。
これまでは屋敷の中で大人しく(?)していましたが、外に出るとなれば話は別。
人目のある街中で、私が公爵家の財産を湯水のように使い込み、傲慢に振る舞えば、いくらアッシュ様でも愛想を尽かすに違いありません。
「お嬢様、気合が入っていますね。今日は一段とお顔が……その、企んでいるお顔ですよ」
リタが苦笑いしながら、私の髪を整えます。
「ふふん、企んでなどいませんわ。私はただ、本能のままに贅沢を貪るだけですの。さあ、アッシュ様をお待たせしてはいけませんわね。早く行きましょう!」
馬車に乗り込み、王都で最も賑やかな中央通りへと向かいました。
馬車を降りた瞬間、周囲の視線が突き刺さります。
「……見ろよ、あれがヴァルハイト公爵の……」
「例の『聖女様』じゃないか?」
(聖女じゃありませんわ! 強欲な悪女ですのよ!)
私はアッシュ様の手を強引に引き、一軒の宝石店へ飛び込みました。
そこは、王族御用達の超高級店です。
「店主! この店で一番高くて、一番悪趣味……いえ、一番派手な宝石を持ってきなさい!」
「は、はい! ただいま!」
店主が震える手で持ってきたのは、巨大な赤いダイヤモンドの首飾りでした。
お値段、なんと白米が一生分買えるほどの天文学的数字。
(これよ! これを『アッシュ様、これ買いなさいよ。似合わないけど高いから欲しいの!』と言ってやるのよ!)
「アッシュ様! この首飾り……っ」
喉が、ボッと熱い塊を吐き出そうとします。
チョーカーが、昼間の太陽よりも眩しく紫色の光を放ちました。
「……この首飾り、……なんて、なんて深みのある、情熱的な輝きかしら! アッシュ様、この宝石の売上の一部は、先日の大火で家を失った方々の義援金になると聞きましたわ。私、自分の首を飾るよりも、その方々の笑顔が見たいんですの……! さあ、今すぐこれを買い上げて、全額寄付して差し上げましょう!!」
「…………」
店内に、感動の沈黙が流れました。
「お、お嬢様……! この『炎の涙』がチャリティー商品であることをご存知だったのですか!? ああ、なんて慈悲深い……!」
店主が涙を流して膝をつきました。
(違うの! 私はただ、無駄遣いをしたかっただけなのに! なんでそんな『美談』が裏設定にある宝石を引き当ててしまうのよ!)
「……ほう。寄付、か。いいだろう、買い上げよう。店主、彼女の気が済むまで寄付の手続きをしろ」
アッシュ様が、優雅にサインをしています。
その瞳は、もはや私を「尊いもの」を見るような、熱っぽい光で満たされていました。
「……っ! ま、まだですわ! 次はあちらの骨董品店ですわ!」
私は逃げるように店を出て、埃を被った怪しげな店に入りました。
ここなら、ただのゴミのようなガラクタを高値で買わされるはず!
「店主! この……この、不気味な黒い壺をくださいな! これを庭に並べて、呪いの儀式をするんですの!」
(よし、これで『呪術に凝る狂った女』の出来上がりだわ!)
――ググッ。
「……この、……この、歴史の重みを感じさせる素晴らしい壺をくださいな! アッシュ様、これは失われた古代帝国の貴重な遺産ですわ。放っておけば海外に流出してしまうところでした……。私、この国の文化遺産を自分の手で守りたいんですの! さあ、これをお買い上げして、国立博物館に寄贈(きぞう)いたしましょう!!」
「「「おおおおお……!!」」」
いつの間にか店を取り囲んでいた野次馬たちから、割れんばかりの拍手が沸き起こりました。
「見たか! 聖女様が、我が国の宝を守ってくださったぞ!」
「なんて無欲なお方だ! 自分のものにせず、すべてを国のために……!」
私は、店のカウンターに突っ伏しました。
……もうダメだわ。
私の選ぶものが、すべて「善行」に直結してしまう。
この首輪、もしかして私の『嘘』を変換するだけでなく、運命そのものを『聖女仕様』に書き換えていませんこと!?
「……クロエル。君の『強欲』とは、国民全員の幸せを独り占めしたいという意味だったのだな。……感服した」
アッシュ様が、私の肩を優しく抱き寄せました。
「あ、アッシュ様……。違いますの。私はただ、あなたに嫌われたくて……っ」
(あなたに嫌われて、私は一人で惨めに消えたいんですのよ!)
「……あなたに嫌われて……っ、……なんて、本当は、あなたの広い胸の中で、一生甘やかされていたいんですの……! 私のこの溢れる愛を、あなたという一人の男性にだけ、全部捧げてしまいたい……。ああ、もう、私の心臓の音を聞いてくださいまし! あなたへの『好き』が止まらなくて、壊れてしまいそうですわ……!!」
「…………っ」
アッシュ様の耳が、真っ赤に染まりました。
彼は周囲の目を気にすることなく、私の額に自分の額をこつんと預けました。
「……壊れるのは、私の方だ。……もういい、買い物は終わりだ。……今すぐ屋敷に帰るぞ、クロエル。これ以上、君を他人の目に晒したくない」
「えっ、ちょっ、……アッシュ様!?」
アッシュ様は、私を軽々と横抱きに……いわゆるお姫様抱っこをして、馬車へと連れ戻しました。
通りでは、民衆たちが「聖女様、お幸せにーー!」と、花吹雪を撒き散らしています。
(あああああ! 悪女として石を投げられるはずだったのに、花を投げられてしまいましたわーーー!!)
私の「嘘つき悪女」としての尊厳は、王都のど真ん中で完全に粉砕され、代わりに「救国の聖女」という揺るぎない伝説が誕生してしまったのでした。
私は鏡の前で、不敵な笑みを浮かべて宣言しました。
今日は、アッシュ様による『監禁という名の定期検診(お買い物デート)』の日です。
これまでは屋敷の中で大人しく(?)していましたが、外に出るとなれば話は別。
人目のある街中で、私が公爵家の財産を湯水のように使い込み、傲慢に振る舞えば、いくらアッシュ様でも愛想を尽かすに違いありません。
「お嬢様、気合が入っていますね。今日は一段とお顔が……その、企んでいるお顔ですよ」
リタが苦笑いしながら、私の髪を整えます。
「ふふん、企んでなどいませんわ。私はただ、本能のままに贅沢を貪るだけですの。さあ、アッシュ様をお待たせしてはいけませんわね。早く行きましょう!」
馬車に乗り込み、王都で最も賑やかな中央通りへと向かいました。
馬車を降りた瞬間、周囲の視線が突き刺さります。
「……見ろよ、あれがヴァルハイト公爵の……」
「例の『聖女様』じゃないか?」
(聖女じゃありませんわ! 強欲な悪女ですのよ!)
私はアッシュ様の手を強引に引き、一軒の宝石店へ飛び込みました。
そこは、王族御用達の超高級店です。
「店主! この店で一番高くて、一番悪趣味……いえ、一番派手な宝石を持ってきなさい!」
「は、はい! ただいま!」
店主が震える手で持ってきたのは、巨大な赤いダイヤモンドの首飾りでした。
お値段、なんと白米が一生分買えるほどの天文学的数字。
(これよ! これを『アッシュ様、これ買いなさいよ。似合わないけど高いから欲しいの!』と言ってやるのよ!)
「アッシュ様! この首飾り……っ」
喉が、ボッと熱い塊を吐き出そうとします。
チョーカーが、昼間の太陽よりも眩しく紫色の光を放ちました。
「……この首飾り、……なんて、なんて深みのある、情熱的な輝きかしら! アッシュ様、この宝石の売上の一部は、先日の大火で家を失った方々の義援金になると聞きましたわ。私、自分の首を飾るよりも、その方々の笑顔が見たいんですの……! さあ、今すぐこれを買い上げて、全額寄付して差し上げましょう!!」
「…………」
店内に、感動の沈黙が流れました。
「お、お嬢様……! この『炎の涙』がチャリティー商品であることをご存知だったのですか!? ああ、なんて慈悲深い……!」
店主が涙を流して膝をつきました。
(違うの! 私はただ、無駄遣いをしたかっただけなのに! なんでそんな『美談』が裏設定にある宝石を引き当ててしまうのよ!)
「……ほう。寄付、か。いいだろう、買い上げよう。店主、彼女の気が済むまで寄付の手続きをしろ」
アッシュ様が、優雅にサインをしています。
その瞳は、もはや私を「尊いもの」を見るような、熱っぽい光で満たされていました。
「……っ! ま、まだですわ! 次はあちらの骨董品店ですわ!」
私は逃げるように店を出て、埃を被った怪しげな店に入りました。
ここなら、ただのゴミのようなガラクタを高値で買わされるはず!
「店主! この……この、不気味な黒い壺をくださいな! これを庭に並べて、呪いの儀式をするんですの!」
(よし、これで『呪術に凝る狂った女』の出来上がりだわ!)
――ググッ。
「……この、……この、歴史の重みを感じさせる素晴らしい壺をくださいな! アッシュ様、これは失われた古代帝国の貴重な遺産ですわ。放っておけば海外に流出してしまうところでした……。私、この国の文化遺産を自分の手で守りたいんですの! さあ、これをお買い上げして、国立博物館に寄贈(きぞう)いたしましょう!!」
「「「おおおおお……!!」」」
いつの間にか店を取り囲んでいた野次馬たちから、割れんばかりの拍手が沸き起こりました。
「見たか! 聖女様が、我が国の宝を守ってくださったぞ!」
「なんて無欲なお方だ! 自分のものにせず、すべてを国のために……!」
私は、店のカウンターに突っ伏しました。
……もうダメだわ。
私の選ぶものが、すべて「善行」に直結してしまう。
この首輪、もしかして私の『嘘』を変換するだけでなく、運命そのものを『聖女仕様』に書き換えていませんこと!?
「……クロエル。君の『強欲』とは、国民全員の幸せを独り占めしたいという意味だったのだな。……感服した」
アッシュ様が、私の肩を優しく抱き寄せました。
「あ、アッシュ様……。違いますの。私はただ、あなたに嫌われたくて……っ」
(あなたに嫌われて、私は一人で惨めに消えたいんですのよ!)
「……あなたに嫌われて……っ、……なんて、本当は、あなたの広い胸の中で、一生甘やかされていたいんですの……! 私のこの溢れる愛を、あなたという一人の男性にだけ、全部捧げてしまいたい……。ああ、もう、私の心臓の音を聞いてくださいまし! あなたへの『好き』が止まらなくて、壊れてしまいそうですわ……!!」
「…………っ」
アッシュ様の耳が、真っ赤に染まりました。
彼は周囲の目を気にすることなく、私の額に自分の額をこつんと預けました。
「……壊れるのは、私の方だ。……もういい、買い物は終わりだ。……今すぐ屋敷に帰るぞ、クロエル。これ以上、君を他人の目に晒したくない」
「えっ、ちょっ、……アッシュ様!?」
アッシュ様は、私を軽々と横抱きに……いわゆるお姫様抱っこをして、馬車へと連れ戻しました。
通りでは、民衆たちが「聖女様、お幸せにーー!」と、花吹雪を撒き散らしています。
(あああああ! 悪女として石を投げられるはずだったのに、花を投げられてしまいましたわーーー!!)
私の「嘘つき悪女」としての尊厳は、王都のど真ん中で完全に粉砕され、代わりに「救国の聖女」という揺るぎない伝説が誕生してしまったのでした。
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