『「嘘つき令嬢」と婚約破棄された私、真実しか言えない「呪いの首輪」のせいで聖女だとバレて冷徹公爵に執着されています』

恋守あい

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「……ふふ、ふふふ。リタ、聞きなさい。私は今日、このお屋敷の『独裁者』になりますわ」


昨日の「聖女伝説」の誕生に打ちひしがれていた私は、一晩かけて新たな作戦を練り上げました。
名付けて「ブラック公爵夫人(仮)による、恐怖の搾取作戦」ですわ!


聖女だなんだと持ち上げられている今のうちに、使用人たちを過酷な労働でこき使い、恨みを買いまくる。
そうすれば、アッシュ様も「なんて性格の悪い女だ、もう見ていられん」と、私を放り出してくれるに違いありません。


「お嬢様……。その悪いお顔、昨日も見た気がいたしますけれど」


リタが引き気味の視線を送ってきますが、私は気にしません。
私はさっそく、屋敷の重鎮である料理長と家政婦長を自室に呼び出しました。


「いいですか、二人とも。私はとても我儘で、贅沢な女ですの。これから私の言うことを一つでも聞き漏らしたら、即刻クビにいたしますわよ!」


私はわざとらしく椅子にふんぞり返り、扇で顔を半分隠しました。
目の前の二人は、緊張した面持ちで直立不動。よし、いい雰囲気ですわ!


「まず、料理長! あなた、明日の朝食から、私に……っ」


(私に、世界中の珍味を一皿に並べた、胃もたれするような超豪華な食事を出しなさい!)


――ググッ。


喉の奥で、真実の熱が爆発しました。
私の喉元で、チョーカーが紫色の慈愛に満ちた光を放ちます。


「……あなた、明日の朝食から、私に……っ、……私に構わず、厨房の全員に三日間の特別休暇を与えなさい! いつも早起きして私のために美味しいパンを焼いてくれる皆さんの、その荒れた手が不憫でたまらないんですの……! 朝食なんて私が自分で適当にパンを焼きますから、皆さんは家族とゆっくり過ごしてちょうだい!!」


「…………えっ?」


料理長が、剥き出しの魚のような目で私を見つめました。


(違う! 違うのよ! なんで私が自分でパンを焼く羽目になっているのよ!!)


「つ、次よ! 家政婦長! あなたは……っ」


(あなたは、今日中に屋敷中の床を素手で磨き上げなさい! 一ミリの埃も許さないわよ!)


――ググッ。


「……あなたは、……今日中に屋敷中の使用人名簿を持ってきなさい! 一人一人の給与を二倍に引き上げて、さらに健康診断の費用を全額私が負担してあげたいんですの! 皆さんの健やかな笑顔こそが、私の何よりの栄養なんですもの……! さあ、今すぐ福利厚生の改善案を作成なさい!!」


「……お、お嬢様ぁあああ!!」


家政婦長が、その場に泣き崩れました。
料理長も、太い腕で目元を拭い、嗚咽を漏らしています。


「なんてお方だ……。自ら朝食を作るから休めとおっしゃるなんて……。俺たち、一生お嬢様についていきますぜ!」


「お給与二倍だなんて、そんな……。私たちはただ、お嬢様のその温かいお心だけで十分幸せですのに……っ!」


「違いますわ! 私はあなたたちを苦しめたいんですのよ! 喜びなさんな!!」


――ググッ。


「……私はあなたたちを……っ、……あなたたちを愛しすぎて、どうにかなってしまいそうですわ! 私の有り余る財産を、全部あなたたちに分け与えて、みんなでハッピーになりたいんですのよ!!」


「「「お嬢様ぁあああああ!!!」」」


客間は、さながら感動の宗教儀式のような熱気に包まれました。
私は、力なくソファに沈み込みました。


……もう、ダメだわ。
私の「悪の計画」が、すべて「ホワイト企業改革」に変換されてしまう。
この調子では、私が死ぬ頃にはこの屋敷の全員が富豪になってしまいますわ。


「……いい加減にしろ、クロエル。君はどれだけ私の財布を軽くすれば気が済むんだ」


入り口で、アッシュ様が呆れたように、けれど目元を優しく細めて見ていました。


「ア、アッシュ様! あ、あ、今の言葉は……っ」


「分かっている。『搾取』の真実が『過剰な慈悲』だった、ということだろう」


アッシュ様が歩み寄り、私の隣に座りました。
彼は泣きじゃくる使用人たちに「下がれ」と指示を出し、部屋を二人きりにしました。


「……君は、本当に面白いな。使用人をこき使おうとして、逆に彼らを幸せにする。……そんな『悪女』がどこにいる」


「ここにいますわ! 今、目の前に……っ!」


「いや、私の目には、自分の愛を惜しみなく振りまく、あまりに無垢で危うい聖女しか見えない」


アッシュ様の手が、私の頬に触れました。
その熱に、私の心臓がまたしても跳ね上がります。


「……っ……。そんな……、そんな目で私を見ないでくださいまし。私は……っ」


(私は、あなたの期待を裏切るような、酷い女になりたいんですのよ……)


「……私は、……あなたのその熱い視線に見つめられるだけで、自分が世界で一番価値のある女性になったような気がして、……嬉しくて、恥ずかしくて、どうにかなりそうなんですの……! アッシュ様、私、あなたに嫌われるどころか、どんどんあなたの愛の檻に自ら飛び込んでいきたくなってしまいますわ……!!」


「…………。ならば、一生閉じ込めてやろう。私の腕という檻の中に」


アッシュ様が、私の腰を抱き寄せ、耳元で深く囁きました。


「……君がどれだけ『悪女』になろうとしても、私がそれを『慈愛』として受け止める。……逃げ道はないぞ、クロエル」


「ひぃい……っ」


(私の『搾取作戦』、たった十分で『溺愛加速装置』に成り果てましたわーーー!!)


私の「嘘」が暴かれるたび、お屋敷のホワイト化と、公爵様のデレ度が天を突き抜けていく。
私の没落への道は、もはや跡形もなく消え去り、黄金に輝く「幸せの道」に舗装されてしまったのでした。
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