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「……ああ、もう。どうしてこのお屋敷には、こうも次から次へと『招かれざる客』がやってくるのかしら」
私は窓の外、立派な紋章のついた馬車が正門をくぐるのを眺めながら、深いため息をつきました。
せっかくアッシュ様の「教育」という名の熱烈な甘やかしを逃れて、一人で静かに反省会をしようと思っていたのに。
現れたのは、先日お会いしたばかりの元婚約者、ジュリアン王太子殿下でした。
しかも今日はお一人。マリエル様を置いて、一体何の用ですの?
「お嬢様、殿下が『どうしても話したいことがある』と、かなり切羽詰まったご様子で客間にお通しいたしました」
セバスさんが困ったような顔で報告に来ました。
私はわざとらしく首筋をさすり、不敵な笑みを浮かべました。
「いいわ、セバス。今度こそ、あの方の淡い期待を粉々に打ち砕いて差し上げますわ。私がどれほど『冷酷な女』か、思い知らせてあげるチャンスですもの!」
(そうよ! あの方がまだ私に罪悪感を持っているなら、それを『嫌悪』に変えてやるの。それが私の、最後の嘘つきとしての務めですわ!)
私は気合を入れて、客間へと向かいました。
扉を開けると、そこには先日よりもさらに顔色の悪い、ボロボロのジュリアン様が座っていました。
「……クロエル。急に来て、すまない」
「殿下。またいらしたの? 王太子としての公務はどうなさいましたの。私のような『不実な女』の顔を見る暇があるなら、もっと国民のために汗を流すべきですわ」
私は椅子に座るなり、足を組んで傲慢な態度を取りました。
さあ、怒りなさい! 私を罵りなさい!
「……クロエル。私は、あの日からずっと考えていたんだ。君がマリエルの前で吐いた『真実』。あれは……本当なのか?」
ジュリアン様が、震える声で問いかけてきました。
「本当、とは何のことかしら? 私があなたを愛していなかったこと? ええ、本当ですわ。私はあなたとの結婚なんて、義務でしかないと思っていたの。だから浮気だって……っ」
(だから浮気だって、平気でできたんですのよ!)
――ググッ。
喉の奥に、焼けた鉄のような真実がせり上がってきます。
チョーカーが、かつてないほど激しく、部屋を真昼のような光で満たしました。
「……だから浮気だって、……平気でできたんですのよ! ……なんて、本当は浮気なんて一度もしていませんわ! あの時見せた証拠も、全部私が雇った役者に頼んで捏造したデタラメですのよ!!」
「…………なんだと!?」
ジュリアン様が、ガバッと立ち上がりました。
(あああああ! 私のバカ! なんで今さらそんなことをバラしているのよ!!)
「……クロエル、それはどういう意味だ!? 君は浮気をしていなかったというのか!?」
「ち、違います! 今の言葉は、この呪いの首輪が勝手に物語を作っているだけですわ! 私は本当に、夜な夜な男たちと……っ」
(夜な夜な男たちと、密会を楽しんでいたんですのよ!)
――ググッ。
「……夜な夜な男たちと、……密会してアリバイ工作の打ち合わせをしていたんですのよ! 殿下がマリエル様と二人きりで会えるように、私がわざと自分が不潔な女に見えるように、必死で立ち回っていたんですのよ!!」
「…………っ!!」
ジュリアン様が、あまりの衝撃に膝から崩れ落ちました。
「……嘘だろ。……君は、マリエルと私のために……そこまで……」
「違います! 感謝なんてされたくありませんわ! 私はただ、あなたのような『恋愛に疎い残念な男』に付き合うのが面倒になったから、さっさと誰かに押し付けたかっただけ……っ」
(そうよ、面倒だったのよ! あなたの世話を焼くのが!)
――ググッ。
「……面倒になったから、……なんて、本当は、あなたの幸せを自分のこと以上に願っていたからこそ、あんなに苦労して嘘をついたのよ! あなたは昔から優しすぎて、婚約者の私に気を使ってばかりだった……。そんなあなたが、心から愛する女性と結ばれるなら、私の名誉なんてどうでもよかったんですのよ!!」
私はついに、涙目になりながら叫んでしまいました。
隠しておきたかった、私の「究極の自己犠牲」の全貌。
それが、本人の前で無残にも暴かれていきます。
「……ああ、私は……。私はなんて、なんて愚かだったんだ……!!」
ジュリアン様が、床を拳で叩いて慟哭し始めました。
「君のその、あまりにも深い愛に甘えて……。私は君を悪女だと信じ込み、罵倒し、首輪を嵌めて……。君が一人で、どんな思いであの夜会に立っていたのかも知らずに……っ!!」
(そうよ! あなたはバカよ! だから私が一生懸命お膳立てしてあげたのに、なんで今さらそんなに落ち込んでいるのよ!)
「……殿下、もういいですわ。……終わったことです。あなたはマリエル様と幸せに……っ」
(あなたはマリエル様と幸せになればいいの。それが私の望みだったんだから)
――ググッ。
「……あなたはマリエル様と幸せになればいいの。……なんて、本当は、あなたのその情けない顔を見ていると、私の努力が台無しになった気がして、悔しくてたまらないんですのよ! さっさと立ち上がって、私の分まで幸せになると誓いなさいな!!」
「…………クロエル……。君という女性は……」
ジュリアン様が、顔を上げて私を見つめました。
その瞳には、かつての「甘え」ではなく、自分の犯した罪の重さを噛みしめる「ざまぁ」な自責の念が、これ以上ないほど刻まれていました。
(……よし。これでようやく、あの方に『自分が何をしたか』を分からせることができましたわね……。私の望んでいた形とは少し違いますけれど)
そこへ、静かに扉が開きました。
現れたのは、冷徹な仮面をかなぐり捨て、怒りと独占欲に満ちたオーラを纏ったアッシュ様でした。
「……ジュリアン殿下。そろそろ、私の婚約者を解放していただきたい」
アッシュ様が私の背後に立ち、守るように肩を抱きました。
「ア、アッシュ……」
「彼女の『真実』をすべて聞いたのであれば、もう満足でしょう。……あなたのせいで、私のクロエルはひどく心を痛めている。これ以上の干渉は、公爵家として容赦いたしませんぞ」
「……分かっている。……ああ、分かった。……アッシュ、君に、彼女を託す。……私には、彼女を愛する資格すら、なかったのだから……」
ジュリアン様は、ふらふらとした足取りで客間を去っていきました。
その背中は、かつての王太子の威厳を失い、一人の「愚かな男」としての後悔に満ちていました。
一人残された私は、アッシュ様の腕の中で、ガックリと力を抜きました。
「……終わりましたわ。……全部、バレてしまいましたわ……」
「……ああ。おかげで私は、君がどれほど私の想像を超える『聖女』だったかを知ることができた」
アッシュ様が、私の耳元で低く囁きました。
「……殿下のためにそこまでした君が、……今、私の腕の中にいる。……それが、私にとって何よりの勝利だ」
「……勝手なことを……。私は……っ」
(私は、あなたのことも、いつか……っ)
――ググッ。
「……私は、あなたのことも、いつか……っ、……いつかじゃなくて、今この瞬間も、殿下への情けなんて吹き飛ぶくらい、あなたに夢中なんですのよ! 殿下の謝罪なんてどうでもいいわ。早く私を、あなたの愛で満たしてちょうだい……!!」
「…………。喜んで」
アッシュ様の瞳が、獲物を捕らえた喜びで怪しく光りました。
(あああああ! 私の『ざまぁ』計画が、またしても公爵様の『溺愛チャンス』に変換されてしまいましたわーーー!!)
元婚約者を完膚なきまでに絶望させた代償は、公爵様による逃げ場のない「深い愛」だったのでした。
私は窓の外、立派な紋章のついた馬車が正門をくぐるのを眺めながら、深いため息をつきました。
せっかくアッシュ様の「教育」という名の熱烈な甘やかしを逃れて、一人で静かに反省会をしようと思っていたのに。
現れたのは、先日お会いしたばかりの元婚約者、ジュリアン王太子殿下でした。
しかも今日はお一人。マリエル様を置いて、一体何の用ですの?
「お嬢様、殿下が『どうしても話したいことがある』と、かなり切羽詰まったご様子で客間にお通しいたしました」
セバスさんが困ったような顔で報告に来ました。
私はわざとらしく首筋をさすり、不敵な笑みを浮かべました。
「いいわ、セバス。今度こそ、あの方の淡い期待を粉々に打ち砕いて差し上げますわ。私がどれほど『冷酷な女』か、思い知らせてあげるチャンスですもの!」
(そうよ! あの方がまだ私に罪悪感を持っているなら、それを『嫌悪』に変えてやるの。それが私の、最後の嘘つきとしての務めですわ!)
私は気合を入れて、客間へと向かいました。
扉を開けると、そこには先日よりもさらに顔色の悪い、ボロボロのジュリアン様が座っていました。
「……クロエル。急に来て、すまない」
「殿下。またいらしたの? 王太子としての公務はどうなさいましたの。私のような『不実な女』の顔を見る暇があるなら、もっと国民のために汗を流すべきですわ」
私は椅子に座るなり、足を組んで傲慢な態度を取りました。
さあ、怒りなさい! 私を罵りなさい!
「……クロエル。私は、あの日からずっと考えていたんだ。君がマリエルの前で吐いた『真実』。あれは……本当なのか?」
ジュリアン様が、震える声で問いかけてきました。
「本当、とは何のことかしら? 私があなたを愛していなかったこと? ええ、本当ですわ。私はあなたとの結婚なんて、義務でしかないと思っていたの。だから浮気だって……っ」
(だから浮気だって、平気でできたんですのよ!)
――ググッ。
喉の奥に、焼けた鉄のような真実がせり上がってきます。
チョーカーが、かつてないほど激しく、部屋を真昼のような光で満たしました。
「……だから浮気だって、……平気でできたんですのよ! ……なんて、本当は浮気なんて一度もしていませんわ! あの時見せた証拠も、全部私が雇った役者に頼んで捏造したデタラメですのよ!!」
「…………なんだと!?」
ジュリアン様が、ガバッと立ち上がりました。
(あああああ! 私のバカ! なんで今さらそんなことをバラしているのよ!!)
「……クロエル、それはどういう意味だ!? 君は浮気をしていなかったというのか!?」
「ち、違います! 今の言葉は、この呪いの首輪が勝手に物語を作っているだけですわ! 私は本当に、夜な夜な男たちと……っ」
(夜な夜な男たちと、密会を楽しんでいたんですのよ!)
――ググッ。
「……夜な夜な男たちと、……密会してアリバイ工作の打ち合わせをしていたんですのよ! 殿下がマリエル様と二人きりで会えるように、私がわざと自分が不潔な女に見えるように、必死で立ち回っていたんですのよ!!」
「…………っ!!」
ジュリアン様が、あまりの衝撃に膝から崩れ落ちました。
「……嘘だろ。……君は、マリエルと私のために……そこまで……」
「違います! 感謝なんてされたくありませんわ! 私はただ、あなたのような『恋愛に疎い残念な男』に付き合うのが面倒になったから、さっさと誰かに押し付けたかっただけ……っ」
(そうよ、面倒だったのよ! あなたの世話を焼くのが!)
――ググッ。
「……面倒になったから、……なんて、本当は、あなたの幸せを自分のこと以上に願っていたからこそ、あんなに苦労して嘘をついたのよ! あなたは昔から優しすぎて、婚約者の私に気を使ってばかりだった……。そんなあなたが、心から愛する女性と結ばれるなら、私の名誉なんてどうでもよかったんですのよ!!」
私はついに、涙目になりながら叫んでしまいました。
隠しておきたかった、私の「究極の自己犠牲」の全貌。
それが、本人の前で無残にも暴かれていきます。
「……ああ、私は……。私はなんて、なんて愚かだったんだ……!!」
ジュリアン様が、床を拳で叩いて慟哭し始めました。
「君のその、あまりにも深い愛に甘えて……。私は君を悪女だと信じ込み、罵倒し、首輪を嵌めて……。君が一人で、どんな思いであの夜会に立っていたのかも知らずに……っ!!」
(そうよ! あなたはバカよ! だから私が一生懸命お膳立てしてあげたのに、なんで今さらそんなに落ち込んでいるのよ!)
「……殿下、もういいですわ。……終わったことです。あなたはマリエル様と幸せに……っ」
(あなたはマリエル様と幸せになればいいの。それが私の望みだったんだから)
――ググッ。
「……あなたはマリエル様と幸せになればいいの。……なんて、本当は、あなたのその情けない顔を見ていると、私の努力が台無しになった気がして、悔しくてたまらないんですのよ! さっさと立ち上がって、私の分まで幸せになると誓いなさいな!!」
「…………クロエル……。君という女性は……」
ジュリアン様が、顔を上げて私を見つめました。
その瞳には、かつての「甘え」ではなく、自分の犯した罪の重さを噛みしめる「ざまぁ」な自責の念が、これ以上ないほど刻まれていました。
(……よし。これでようやく、あの方に『自分が何をしたか』を分からせることができましたわね……。私の望んでいた形とは少し違いますけれど)
そこへ、静かに扉が開きました。
現れたのは、冷徹な仮面をかなぐり捨て、怒りと独占欲に満ちたオーラを纏ったアッシュ様でした。
「……ジュリアン殿下。そろそろ、私の婚約者を解放していただきたい」
アッシュ様が私の背後に立ち、守るように肩を抱きました。
「ア、アッシュ……」
「彼女の『真実』をすべて聞いたのであれば、もう満足でしょう。……あなたのせいで、私のクロエルはひどく心を痛めている。これ以上の干渉は、公爵家として容赦いたしませんぞ」
「……分かっている。……ああ、分かった。……アッシュ、君に、彼女を託す。……私には、彼女を愛する資格すら、なかったのだから……」
ジュリアン様は、ふらふらとした足取りで客間を去っていきました。
その背中は、かつての王太子の威厳を失い、一人の「愚かな男」としての後悔に満ちていました。
一人残された私は、アッシュ様の腕の中で、ガックリと力を抜きました。
「……終わりましたわ。……全部、バレてしまいましたわ……」
「……ああ。おかげで私は、君がどれほど私の想像を超える『聖女』だったかを知ることができた」
アッシュ様が、私の耳元で低く囁きました。
「……殿下のためにそこまでした君が、……今、私の腕の中にいる。……それが、私にとって何よりの勝利だ」
「……勝手なことを……。私は……っ」
(私は、あなたのことも、いつか……っ)
――ググッ。
「……私は、あなたのことも、いつか……っ、……いつかじゃなくて、今この瞬間も、殿下への情けなんて吹き飛ぶくらい、あなたに夢中なんですのよ! 殿下の謝罪なんてどうでもいいわ。早く私を、あなたの愛で満たしてちょうだい……!!」
「…………。喜んで」
アッシュ様の瞳が、獲物を捕らえた喜びで怪しく光りました。
(あああああ! 私の『ざまぁ』計画が、またしても公爵様の『溺愛チャンス』に変換されてしまいましたわーーー!!)
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