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「……はぁ。もう、人生の在庫をすべて使い果たした気分ですわ……」
ジュリアン殿下がフラフラと立ち去った後の客間で、私はソファに深々と沈み込みました。
隠し通すはずだった「真実」。
私が浮気者の悪女を演じ、泥を被ってまで二人を祝福しようとしたこと。
それが、よりによって当事者である殿下の前で、あんなにドラマチックに全暴露されてしまうなんて。
(これで殿下は、一生私への申し訳なさと後悔で、マリエル様とイチャイチャするたびに私の顔が脳裏をよぎるはず。……ふふ、これこそが最高の『復讐』……いいえ、ざまぁですわね!)
私は心の中で、黒い笑みを浮かべました。
不幸になれとは思いませんが、少しは「あんなに良い子を捨ててしまった!」と身悶えしてほしかったのです。
「……何を一人でニヤついている。よからぬことでも考えているのか?」
頭上から、低く心地よい声が降ってきました。
見上げれば、アッシュ様がいつのまにか私の隣に座り、私の髪を愛おしそうに指で弄っています。
「……アッシュ様。別に、何も考えておりませんわ。ただ、これでようやく厄介払いができたと思って、清々しただけですの」
「ほう。厄介払い、か。……君はあの男のために、自分の名誉も未来もすべて投げ打ったというのに。……本当に、欲がないな、君は」
アッシュ様の瞳が、ふっと熱を帯びました。
その視線が私の唇へと移動するのを見て、私は慌てて視線を逸らしました。
(まずいわ! この空気、また甘い展開になる予感ですわ!)
「……欲ならありますわ! 私は強欲な悪女ですのよ。アッシュ様、私を憐れまないでくださいまし。私は、あなたに同情されるなんて……っ」
(同情されるなんて、まっぴらごめんですわ! 私はあなたの同情が欲しくてこんなことを言ったんじゃないの!)
――ググッ。
喉の奥に、甘くとろけるような熱い何かが溢れ出しました。
チョーカーの紫色の宝石が、私の必死の抵抗を粉砕するように輝きます。
「……あなたに同情されるなんて、……なんて、本当は、あなたにだけは私の本当の姿を見てほしかったんですの! 世界中の誰が私を罵っても、あなただけが『お前は馬鹿だな』と言いながら、こうして私を抱きしめてくれるのを、ずっと夢見ていたんですのよ……!!」
「…………そうか。……夢、だったのか」
アッシュ様が、耐えきれないといった様子で私の肩に額を預けました。
彼の吐息が鎖骨のあたりを掠め、私の心臓が爆発しそうなほど跳ね上がります。
「な、何を言っているのかしら、私!? 今のは嘘です! 大嘘ですわ!!」
――ググッ。
「……大嘘ですわ! ……なんて、私の魂が、これこそが生きる目的だと言わんばかりに肯定していますわ! アッシュ様、私、あなたに愛されるためなら、もう一度悪女でも聖女でも何でも演じてみせますわ。だから……もっと、もっと私を見て……っ!!」
私は、自分の口を両手で塞ぎました。
ですが、もう遅いのです。
アッシュ様の顔が上がり、そこには見たこともないほど深く、蕩けるような「愛」が溢れていました。
「……クロエル。君がそこまで言うのなら、私も相応の報いを与えなければならないな」
「む、報い……? 私、何か悪いことをいたしましたか……っ(本当は:ひぃい、何をされるんですの!?)」
「……あんな男のために、君の大切な涙と時間を無駄にした罪だ。……これから一生をかけて、その不足分を私の愛で埋め合わせてもらう」
アッシュ様が、私の腰をグイと引き寄せました。
そのまま、逃げ場のないソファの背もたれに私を押し込みます。
「あ、アッシュ様! 昼間ですわよ! 使用人たちも見て……っ」
「セバス。全員を部屋から出せ。扉の鍵もかけろ」
「畏まりました、旦那様。お二人のお幸せな『報い』の時間、邪魔立てする者は誰一人おりませんよ」
セバスさんが、聖母のような微笑みを浮かべて、流れるような動作で他のメイドたちを連れ出し、パタンと扉を閉めました。
カチャリ、と鍵の閉まる非情な音が響きます。
「ちょ、ちょっと待ってください! セバスさん!? 見捨てないで!!」
「……無駄だ。彼は私の味方だからな」
アッシュ様の手が、私の頬をそっと包み込みました。
親指で私の下唇をなぞるその感触に、思考が真っ白に染まっていきます。
「……クロエル。君は、嘘で世界を救おうとした。……だが、私の前では、もうそんな必要はない。……君の、その正直すぎるほどに可愛い本音だけを、私に聞かせてくれ」
「……っ……。……や、……嫌です……」
――ググッ。
「……嫌です……、……なんて、……本当は、早くその唇で、私の思考を全部止めてほしいんですの……。……愛しています、アッシュ様……。……私を、あなたのものに……っ」
私の最後の抵抗は、この上なく甘い降伏の言葉へと変わり、アッシュ様の唇に吸い込まれていきました。
(あああああ! 私の『ざまぁ』の後の平穏な隠居計画が、公爵様の『終わらない溺愛』によって完全に上書きされてしまいましたわーーー!!)
客間の中に広がるのは、沈黙と、甘い吐息。
私の「嘘」の盾は、アッシュ様という最強の「真実」の前で、二度と立ち上がることはできないほど完膚なきまでに溶かされてしまったのでした。
ジュリアン殿下がフラフラと立ち去った後の客間で、私はソファに深々と沈み込みました。
隠し通すはずだった「真実」。
私が浮気者の悪女を演じ、泥を被ってまで二人を祝福しようとしたこと。
それが、よりによって当事者である殿下の前で、あんなにドラマチックに全暴露されてしまうなんて。
(これで殿下は、一生私への申し訳なさと後悔で、マリエル様とイチャイチャするたびに私の顔が脳裏をよぎるはず。……ふふ、これこそが最高の『復讐』……いいえ、ざまぁですわね!)
私は心の中で、黒い笑みを浮かべました。
不幸になれとは思いませんが、少しは「あんなに良い子を捨ててしまった!」と身悶えしてほしかったのです。
「……何を一人でニヤついている。よからぬことでも考えているのか?」
頭上から、低く心地よい声が降ってきました。
見上げれば、アッシュ様がいつのまにか私の隣に座り、私の髪を愛おしそうに指で弄っています。
「……アッシュ様。別に、何も考えておりませんわ。ただ、これでようやく厄介払いができたと思って、清々しただけですの」
「ほう。厄介払い、か。……君はあの男のために、自分の名誉も未来もすべて投げ打ったというのに。……本当に、欲がないな、君は」
アッシュ様の瞳が、ふっと熱を帯びました。
その視線が私の唇へと移動するのを見て、私は慌てて視線を逸らしました。
(まずいわ! この空気、また甘い展開になる予感ですわ!)
「……欲ならありますわ! 私は強欲な悪女ですのよ。アッシュ様、私を憐れまないでくださいまし。私は、あなたに同情されるなんて……っ」
(同情されるなんて、まっぴらごめんですわ! 私はあなたの同情が欲しくてこんなことを言ったんじゃないの!)
――ググッ。
喉の奥に、甘くとろけるような熱い何かが溢れ出しました。
チョーカーの紫色の宝石が、私の必死の抵抗を粉砕するように輝きます。
「……あなたに同情されるなんて、……なんて、本当は、あなたにだけは私の本当の姿を見てほしかったんですの! 世界中の誰が私を罵っても、あなただけが『お前は馬鹿だな』と言いながら、こうして私を抱きしめてくれるのを、ずっと夢見ていたんですのよ……!!」
「…………そうか。……夢、だったのか」
アッシュ様が、耐えきれないといった様子で私の肩に額を預けました。
彼の吐息が鎖骨のあたりを掠め、私の心臓が爆発しそうなほど跳ね上がります。
「な、何を言っているのかしら、私!? 今のは嘘です! 大嘘ですわ!!」
――ググッ。
「……大嘘ですわ! ……なんて、私の魂が、これこそが生きる目的だと言わんばかりに肯定していますわ! アッシュ様、私、あなたに愛されるためなら、もう一度悪女でも聖女でも何でも演じてみせますわ。だから……もっと、もっと私を見て……っ!!」
私は、自分の口を両手で塞ぎました。
ですが、もう遅いのです。
アッシュ様の顔が上がり、そこには見たこともないほど深く、蕩けるような「愛」が溢れていました。
「……クロエル。君がそこまで言うのなら、私も相応の報いを与えなければならないな」
「む、報い……? 私、何か悪いことをいたしましたか……っ(本当は:ひぃい、何をされるんですの!?)」
「……あんな男のために、君の大切な涙と時間を無駄にした罪だ。……これから一生をかけて、その不足分を私の愛で埋め合わせてもらう」
アッシュ様が、私の腰をグイと引き寄せました。
そのまま、逃げ場のないソファの背もたれに私を押し込みます。
「あ、アッシュ様! 昼間ですわよ! 使用人たちも見て……っ」
「セバス。全員を部屋から出せ。扉の鍵もかけろ」
「畏まりました、旦那様。お二人のお幸せな『報い』の時間、邪魔立てする者は誰一人おりませんよ」
セバスさんが、聖母のような微笑みを浮かべて、流れるような動作で他のメイドたちを連れ出し、パタンと扉を閉めました。
カチャリ、と鍵の閉まる非情な音が響きます。
「ちょ、ちょっと待ってください! セバスさん!? 見捨てないで!!」
「……無駄だ。彼は私の味方だからな」
アッシュ様の手が、私の頬をそっと包み込みました。
親指で私の下唇をなぞるその感触に、思考が真っ白に染まっていきます。
「……クロエル。君は、嘘で世界を救おうとした。……だが、私の前では、もうそんな必要はない。……君の、その正直すぎるほどに可愛い本音だけを、私に聞かせてくれ」
「……っ……。……や、……嫌です……」
――ググッ。
「……嫌です……、……なんて、……本当は、早くその唇で、私の思考を全部止めてほしいんですの……。……愛しています、アッシュ様……。……私を、あなたのものに……っ」
私の最後の抵抗は、この上なく甘い降伏の言葉へと変わり、アッシュ様の唇に吸い込まれていきました。
(あああああ! 私の『ざまぁ』の後の平穏な隠居計画が、公爵様の『終わらない溺愛』によって完全に上書きされてしまいましたわーーー!!)
客間の中に広がるのは、沈黙と、甘い吐息。
私の「嘘」の盾は、アッシュ様という最強の「真実」の前で、二度と立ち上がることはできないほど完膚なきまでに溶かされてしまったのでした。
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