『「嘘つき令嬢」と婚約破棄された私、真実しか言えない「呪いの首輪」のせいで聖女だとバレて冷徹公爵に執着されています』

恋守あい

文字の大きさ
31 / 38

31

しおりを挟む
「……ふふ、ふふふ。リタ、覚悟なさい。今日こそ私は、この屋敷の全使用人が逃げ出したくなるような『恐怖の独裁者』として、その牙を剥きますわ!」


私は朝食後のティータイム、鏡の前で過去最高に凶悪な(自称)微笑みを浮かべていました。


これまでの失敗は、すべて「対外的」な活動だったからに違いありません。
ならば、今度はこの屋敷の「内部」ですわ!
私が日々、身の回りの世話をしてくれる使用人たちを、過酷な労働と理不尽な命令で徹底的にこき使えば、流石のアッシュ様も「彼女は屋敷を切り盛りする器ではない」と呆れ果てるはずです!


「お嬢様、またその『悪い子』のお顔……。今度は何をなさるおつもりですか?」


リタがいつものように呆れ顔で紅茶を注ぎますが、今日ばかりはその余裕もこれまでですわよ!


「リタ! 今すぐ屋敷中の使用人、そして騎士団の面々を庭園に集めなさい! 私の『地獄の命令』を言い渡してやりますわ!」


私は鼻息荒く、庭園に整列した数十人の使用人と騎士たちの前に立ちました。
アッシュ様も、何事かと心配そうに傍らで見守っています。


「いいですか、皆さん! 私はとても、とーっても気が短くて我儘な女ですの。これから私の言うことに一つでも不満を漏らしたら、即刻クビ……いえ、極寒の地へ追放ですわよ!」


(よし、いい緊張感ですわ! ここで『今日から全員、不眠不休で屋敷の壁を爪で磨きなさい!』と言ってやるのよ!)


「まず、騎士団の皆さん! あなたたちは……っ」


喉の奥が、カッと熱くなりました。
首元のチョーカーが、庭園の緑を背景に、かつてないほど激しく紫色の光を放ちます。


「……あなたたちは、……なんて、なんて毎日過酷な訓練に耐え、泥にまみれてこの屋敷を守ってくれているのかしら! 私、あなたたちの筋肉の疲れが自分のことのように痛々しいんですの……! だから今日から一週間、全員に『特別有給休暇』と、王都最高級の温泉旅館への招待状を差し上げますわ!! 全員、私の命令として、一切の武器を置いて骨の髄まで癒されてきなさい!!」


「「「…………っ!?」」」


整列していた騎士たちが、一斉に腰を抜かしました。


(違う! 違うのよ! 『一万回素振りをしろ』と言いたかったのに、なんで『温泉旅行』をプレゼントしているのよ!!)


「次よ! メイドや料理人の皆さん! あなたたちは……っ」


(あなたたちは、今日から私の食事を一粒残らず毒見しなさい! 倒れるまで食べ続けるのよ!)


――ググッ。


「……あなたたちは、……私なんかのために、毎日美味しい食事を作り、屋敷をピカピカにして、本当にお疲れ様ですわ……! あなたたちのその荒れた手こそ、私の誇り。今日から三日間、屋敷は閉鎖します! 全員に特別ボーナスを支給しますから、家族の元へ帰って、私の代わりに美味しいものをたくさん食べて、幸せな時間を過ごしてちょうだい!! 私、あなたたちが笑っていないと、ご飯も喉を通らないんですのよ!!」


「「「お嬢様ぁああああああ!!!」」」


庭園に、割れんばかりの号泣の嵐が吹き荒れました。
屈強な騎士たちは男泣きし、メイドたちはハンカチを噛み締め、料理長は「お嬢様のために、一生包丁を振るいますぜ!」と地面を叩いて泣いています。


(終わりましたわ……。私の『地獄の命令』、またしても『伝説のホワイト経営』に昇華されてしまいましたわーーー!!)


私は、天を仰いで白旗を上げました。


「……クロエル。君という女性は、どこまで私の懐を温かく……いや、使用人たちの心を掌握すれば気が済むんだ」


アッシュ様が、背後から私を優しく抱きしめました。
その瞳には、もはや尊敬を通り越して、神を拝むような深い、深い信仰心にも似た愛が宿っています。


「……君のその『冷酷な支配』……。愛によって人を動かす、真の女主人の姿だ。……ああ、君を私の妻にできる幸せを、今ほど噛み締めたことはない」


「ア、アッシュ様……。違いますの。私は彼らを苦しめたくて……っ」


(彼らを苦しめて、あなたを困らせたくて……っ!)


――ググッ。


「……彼らを苦しめて……っ、……なんて、本当は、彼らがいないと私、寂しくて死んでしまうんですの! みんなが大好きだから、みんなに幸せになってほしいだけなんですのよ!! ああ、もう、アッシュ様! 私、みんなの笑顔が見られて、最高にハッピーですわ!!」


「…………っ、……よし。セバス、全員にボーナスを三倍にしろ。……私の愛しい聖女が、これほどまでに皆を愛しているのだ。主(あるじ)として、その想いに応えねばならんだろう」


「畏まりました、旦那様。お嬢様の『地獄の慈悲』、完璧に遂行いたしましょう」


(あああああ! 私の『屋敷崩壊計画』、またしても『公爵家の団結力を盤石にする』結果になってしまいましたわーーー!!)


私の悪女への返り咲きは、またしても華麗な「博愛」によって阻止され。
代償として、アッシュ様という名の「甘すぎる溺愛の檻」で、一週間、二人きりの(使用人がいない間の)濃密な時間を過ごすことになったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

君が幸せになりたくなくても

あんど もあ
ファンタジー
来年には王立学園を卒業する伯爵家嫡男のライアンは、いい加減に婚約者を見つけないといけない。そんなライアンが新入生のクリスティナを好きになって婚約するのだが、実はクリスティナは過去の罪の贖罪のために生きていた。決して喜びや楽しさを求めず、後ろ向きに全力疾走しているクリスティナにライアンは……。

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界恋愛33位) ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。

処理中です...