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エストニア王国との国境を越え、馬車はギニョール帝国の帝都へと足を踏み入れた。
車窓から見える景色は、レティシアの故郷とはまるで別世界だった。
整然と並ぶ石造りの建物、活気に満ちた市場、そして何より、行き交う人々が皆、活き活きとしている。
やがて馬車が巨大な城門を潜ると、そこには天を突くような白亜の城がそびえ立っていた。
「……大きいですね。カイル様の王宮が、まるでおもちゃに見えますわ」
「そうか? これでも、君を迎えるには少し手狭だと思っていたのだが」
アラルは真顔でとんでもないことを口にする。
彼にとって、この巨大な城すらレティシアという「至宝」を置くための箱に過ぎないらしい。
馬車が正面玄関に停まると、そこには数百人の近衛騎士と侍女たちが、一糸乱れぬ動きで整列していた。
レティシアが馬車から降りた瞬間、地を揺らすような声が響く。
「「「レティシア様、ようこそギニョール帝国へ!!」」」
「……。アラル様、これはいったい?」
「歓迎の挨拶だ。声が小さすぎたか? やり直させようか」
「いえ、十分すぎます。鼓膜が震えるほどですわ」
レティシアは圧倒されつつも、赤い絨毯が敷かれた大階段を上っていく。
城内に入ると、そこにはさらに驚くべき光景が広がっていた。
広大なホールの中心に、長さ十メートルはあろうかという長いテーブルが置かれ、その上には山のような料理と、見たこともない色鮮やかなスイーツが並べられている。
「旅の疲れを癒やすには、まず栄養が必要だ。とりあえず、今用意できる限りの菓子を並べさせた」
「……とりあえず、の量ではありませんわね」
レティシアの目が、キラキラと輝き始めた。
飴細工が施された巨大なケーキ、溢れんばかりのベリーが乗ったタルト、金粉が舞うチョコレートの噴水。
「アラル様、これ、本当に私が全部食べてよろしいのですか?」
「ああ。毒見は済ませてある。君の好きなものから口にするといい」
アラルは満足そうに頷き、彼女のために椅子を引いた。
レティシアは吸い寄せられるように席に着くと、まずは一番手前にあった、真珠のように輝くムースにスプーンを入れた。
「んんっ……! 美味しいです! 口の中で雪のように溶けて……」
「それは北方の稀少なミルクを使ったムースだ。気に入ったなら、毎日でも運ばせよう」
「毎日……。天国でしょうか、ここは」
幸せそうに頬を押さえるレティシアを見て、アラルは不器用な指先で、彼女の髪を一房、愛おしそうに撫でた。
「天国にするのはこれからだ。レティシア、私は君を、世界で一番甘やかされる女性にすると誓ったからな」
その言葉は、戦場を統べる皇帝としての宣言ではなく、一人の男としての切実な願いのように聞こえた。
一方、レティシアを追い出したエストニア王国では。
カイル王子は、深夜になっても終わらない書類の山を前に、髪を掻きむしっていた。
「……おい、この『近隣諸国への外交贈答品の選定』とは何だ? なぜ私が、他国の王妃の好みを調べなければならん!」
「レティシア様は、すべて把握しておられましたよ。各国との関係性を考慮し、最適な品を、最適なタイミングで送っておられました」
執事の冷静な言葉が、カイルの胸に突き刺さる。
隣ではエレナが、「カイル様、私、お腹が空きましたわ……」と甘えた声を出すが、今のカイルにはそれに応える余裕など微塵もなかった。
「黙れ! 今、計算を間違えただろうが! ……くそっ、レティシア。あいつ、一体どうやってこんな量をこなしていたんだ……!」
カイルがようやく気づき始めた「日常」の正体。
それは、レティシアという少女が、一欠片の文句も言わずに積み上げてきた献身の結晶だった。
車窓から見える景色は、レティシアの故郷とはまるで別世界だった。
整然と並ぶ石造りの建物、活気に満ちた市場、そして何より、行き交う人々が皆、活き活きとしている。
やがて馬車が巨大な城門を潜ると、そこには天を突くような白亜の城がそびえ立っていた。
「……大きいですね。カイル様の王宮が、まるでおもちゃに見えますわ」
「そうか? これでも、君を迎えるには少し手狭だと思っていたのだが」
アラルは真顔でとんでもないことを口にする。
彼にとって、この巨大な城すらレティシアという「至宝」を置くための箱に過ぎないらしい。
馬車が正面玄関に停まると、そこには数百人の近衛騎士と侍女たちが、一糸乱れぬ動きで整列していた。
レティシアが馬車から降りた瞬間、地を揺らすような声が響く。
「「「レティシア様、ようこそギニョール帝国へ!!」」」
「……。アラル様、これはいったい?」
「歓迎の挨拶だ。声が小さすぎたか? やり直させようか」
「いえ、十分すぎます。鼓膜が震えるほどですわ」
レティシアは圧倒されつつも、赤い絨毯が敷かれた大階段を上っていく。
城内に入ると、そこにはさらに驚くべき光景が広がっていた。
広大なホールの中心に、長さ十メートルはあろうかという長いテーブルが置かれ、その上には山のような料理と、見たこともない色鮮やかなスイーツが並べられている。
「旅の疲れを癒やすには、まず栄養が必要だ。とりあえず、今用意できる限りの菓子を並べさせた」
「……とりあえず、の量ではありませんわね」
レティシアの目が、キラキラと輝き始めた。
飴細工が施された巨大なケーキ、溢れんばかりのベリーが乗ったタルト、金粉が舞うチョコレートの噴水。
「アラル様、これ、本当に私が全部食べてよろしいのですか?」
「ああ。毒見は済ませてある。君の好きなものから口にするといい」
アラルは満足そうに頷き、彼女のために椅子を引いた。
レティシアは吸い寄せられるように席に着くと、まずは一番手前にあった、真珠のように輝くムースにスプーンを入れた。
「んんっ……! 美味しいです! 口の中で雪のように溶けて……」
「それは北方の稀少なミルクを使ったムースだ。気に入ったなら、毎日でも運ばせよう」
「毎日……。天国でしょうか、ここは」
幸せそうに頬を押さえるレティシアを見て、アラルは不器用な指先で、彼女の髪を一房、愛おしそうに撫でた。
「天国にするのはこれからだ。レティシア、私は君を、世界で一番甘やかされる女性にすると誓ったからな」
その言葉は、戦場を統べる皇帝としての宣言ではなく、一人の男としての切実な願いのように聞こえた。
一方、レティシアを追い出したエストニア王国では。
カイル王子は、深夜になっても終わらない書類の山を前に、髪を掻きむしっていた。
「……おい、この『近隣諸国への外交贈答品の選定』とは何だ? なぜ私が、他国の王妃の好みを調べなければならん!」
「レティシア様は、すべて把握しておられましたよ。各国との関係性を考慮し、最適な品を、最適なタイミングで送っておられました」
執事の冷静な言葉が、カイルの胸に突き刺さる。
隣ではエレナが、「カイル様、私、お腹が空きましたわ……」と甘えた声を出すが、今のカイルにはそれに応える余裕など微塵もなかった。
「黙れ! 今、計算を間違えただろうが! ……くそっ、レティシア。あいつ、一体どうやってこんな量をこなしていたんだ……!」
カイルがようやく気づき始めた「日常」の正体。
それは、レティシアという少女が、一欠片の文句も言わずに積み上げてきた献身の結晶だった。
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