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翌朝、レティシアが目を覚ますと、そこは雲の上にいるような心地よさのベッドの中だった。
最高級のシルクのシーツが肌に吸い付き、窓からは柔らかな陽光が差し込んでいる。
「……夢では、なかったのですね」
レティシアが小さく呟くと、部屋の隅に控えていた数人の侍女たちが、一斉に音もなく跪いた。
「おはようございます、レティシア様。お目覚めのお手伝いをさせていただきます」
「あ、ありがとうございます。でも、着替えくらいは自分でも……」
「滅相もございません! 陛下より『レティシア様に指一本動かさせてはならぬ』と厳命されております!」
侍女たちの目は、なぜか崇拝に近い熱を帯びていた。
彼女たちにとって、あの冷徹な「戦場の死神」アラル皇帝を骨抜きにしたレティシアは、まさに伝説の聖女か何かに見えているらしい。
手際よく着替えと身支度を整えられ、レティシアがテラスへと案内されると、そこにはすでにアラルが待っていた。
テーブルの上には、朝食とは思えない豪華な皿が並んでいる。
「よく眠れたか、レティシア」
「はい、とても。アラル様も、お早いですね」
「君と朝食を共にするために、公務を半分片付けてきた。……さあ、座ってくれ。今日は帝都で一番人気のパン屋から、焼き立てのクロワッサンを取り寄せた」
アラルが自ら椅子を引く。
レティシアが席に着くと、芳醇なバターの香りが鼻をくすぐった。
「美味しそう……。あ、アラル様、その手元にある書類は何ですか?」
「ん? ああ、これは交易ギルドからの陳情書だ。気にしないで食べてくれ」
アラルが何気なく置いた書類を、レティシアはパンを齧りながらチラリと盗み見た。
そこには、関税の計算ミスと思われる数字の羅列が並んでいた。
「……アラル様、その三枚目の計算、たぶん五パーセントほど合っていませんわ」
「……何?」
「ええと、ここと、ここの数字を合わせると……。ほら、端数が合いませんでしょう? 十万ギルほど、向こうが多めに請求していますわね」
レティシアがジャムを口に運びながら淡々と指摘すると、アラルは目を見開いて書類と彼女を交互に見た。
「……おい、財務官を呼べ! 今すぐだ!」
アラルが叫ぶと、控えていた文官が飛んできた。
数分後、レティシアの指摘が完全に正しいことが証明され、文官たちは戦慄した。
「そ、そんな……。我々が三日かけて計算したものを、レティシア様は朝食を摂りながら一瞬で……!」
「レティシア、君は……やはり天才なのか?」
アラルの問いに、レティシアは小首を傾げた。
「いえ、ただの暇つぶしですわ。エストニア王宮では、これくらいのミスを見逃すと、カイル殿下の夜食の予算がなくなってしまいましたから」
「……。あのアホ王子は、本当に君をただの飾りだと思っていたのか」
アラルの瞳に、再び静かな怒りが宿る。
同時に、彼は決意した。
この至宝を、二度とあのような無能な男のもとへは返さないと。
「レティシア。今日から君を、帝国の『特別顧問』として正式に招聘したい。もちろん、報酬は望むだけのお菓子と……私の愛だ」
「お菓子がいただけるなら、喜んでお引き受けいたします」
「……愛の方はどうした」
「それは、お菓子の次くらいに考えておきますわね」
レティシアのマイペースな返答に、アラルは「先は長そうだな」と苦笑しながらも、彼女のために新しい紅茶を淹れるのだった。
最高級のシルクのシーツが肌に吸い付き、窓からは柔らかな陽光が差し込んでいる。
「……夢では、なかったのですね」
レティシアが小さく呟くと、部屋の隅に控えていた数人の侍女たちが、一斉に音もなく跪いた。
「おはようございます、レティシア様。お目覚めのお手伝いをさせていただきます」
「あ、ありがとうございます。でも、着替えくらいは自分でも……」
「滅相もございません! 陛下より『レティシア様に指一本動かさせてはならぬ』と厳命されております!」
侍女たちの目は、なぜか崇拝に近い熱を帯びていた。
彼女たちにとって、あの冷徹な「戦場の死神」アラル皇帝を骨抜きにしたレティシアは、まさに伝説の聖女か何かに見えているらしい。
手際よく着替えと身支度を整えられ、レティシアがテラスへと案内されると、そこにはすでにアラルが待っていた。
テーブルの上には、朝食とは思えない豪華な皿が並んでいる。
「よく眠れたか、レティシア」
「はい、とても。アラル様も、お早いですね」
「君と朝食を共にするために、公務を半分片付けてきた。……さあ、座ってくれ。今日は帝都で一番人気のパン屋から、焼き立てのクロワッサンを取り寄せた」
アラルが自ら椅子を引く。
レティシアが席に着くと、芳醇なバターの香りが鼻をくすぐった。
「美味しそう……。あ、アラル様、その手元にある書類は何ですか?」
「ん? ああ、これは交易ギルドからの陳情書だ。気にしないで食べてくれ」
アラルが何気なく置いた書類を、レティシアはパンを齧りながらチラリと盗み見た。
そこには、関税の計算ミスと思われる数字の羅列が並んでいた。
「……アラル様、その三枚目の計算、たぶん五パーセントほど合っていませんわ」
「……何?」
「ええと、ここと、ここの数字を合わせると……。ほら、端数が合いませんでしょう? 十万ギルほど、向こうが多めに請求していますわね」
レティシアがジャムを口に運びながら淡々と指摘すると、アラルは目を見開いて書類と彼女を交互に見た。
「……おい、財務官を呼べ! 今すぐだ!」
アラルが叫ぶと、控えていた文官が飛んできた。
数分後、レティシアの指摘が完全に正しいことが証明され、文官たちは戦慄した。
「そ、そんな……。我々が三日かけて計算したものを、レティシア様は朝食を摂りながら一瞬で……!」
「レティシア、君は……やはり天才なのか?」
アラルの問いに、レティシアは小首を傾げた。
「いえ、ただの暇つぶしですわ。エストニア王宮では、これくらいのミスを見逃すと、カイル殿下の夜食の予算がなくなってしまいましたから」
「……。あのアホ王子は、本当に君をただの飾りだと思っていたのか」
アラルの瞳に、再び静かな怒りが宿る。
同時に、彼は決意した。
この至宝を、二度とあのような無能な男のもとへは返さないと。
「レティシア。今日から君を、帝国の『特別顧問』として正式に招聘したい。もちろん、報酬は望むだけのお菓子と……私の愛だ」
「お菓子がいただけるなら、喜んでお引き受けいたします」
「……愛の方はどうした」
「それは、お菓子の次くらいに考えておきますわね」
レティシアのマイペースな返答に、アラルは「先は長そうだな」と苦笑しながらも、彼女のために新しい紅茶を淹れるのだった。
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