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エストニア王国の王宮、その豪華だったはずの会議室は、今や阿鼻叫喚の地獄と化していた。
「殿下! 騎士団の三割が離脱しました! 給与の未払いが二ヶ月続いております!」
「食料庫も空です! レティシア様が契約していた商会が、一斉に取引を停止しました!」
次々と報告される絶望的な数字に、カイル王子は青白い顔で机を叩いた。
「黙れ! あんな女一人いなくなっただけで、我が国が傾くはずがないだろう! エレナ、お前の実家の男爵家から金を融通させろ!」
名指しされたエレナは、かつての可憐な笑みなど微塵もなく、ヒステリックな声を上げた。
「無理に決まっていますわ! うちは借金まみれで、レティシア様からの援助でようやく形を保っていたのですから! それよりカイル様、私のティータイムのお菓子が昨日からランクダウンしているのはどういうことですの!?」
「お菓子の心配をしている場合か! この無能な女が!」
「無能!? ひどい、私を愛しているとおっしゃったのはカイル様ではありませんか!」
かつての「真実の愛」は、金と心の余裕が消えた瞬間に、醜い罵り合いへと変貌を遂げていた。
そこに、年老いた内政官が震える手で一枚の報告書を差し出した。
「殿下……。ギニョール帝国に送った親書ですが、焼き捨てられたとの報告が入りました。……それどころか、帝国側から『我が国の特別顧問を侮辱した罪』として、多額の賠償金か、あるいは国境付近の鉱山の割譲を要求されております」
「……は?」
カイルの思考が停止する。
彼にとってレティシアは、ただの「地味で便利な道具」だった。
その道具が、今や世界最強の帝国の「至宝」として、自分たちの首を絞める側に回っている。
「ありえない……。あんな、お菓子のことしか考えていないような女が……!」
一方その頃、ギニョール帝国の帝都。
レティシアは、アラルと共に約束のクレープ屋のテラス席にいた。
「アラル様、見てください! この『全部乗せクレープ』、顔よりも大きいですわ!」
「……。ああ、素晴らしいな(君の笑顔が)。レティシア、生クリームが鼻の先についているぞ。取ってやろう」
「あ、ありがとうございます……」
アラルが指先で優しく拭い、そのまま自分の口へ運ぶ。
その仕草に、周囲の護衛騎士たちが「陛下が……あの陛下が甘いものを……!」と静かに衝撃を受けていた。
「レティシア。先ほどエストニア王国から賠償金の請求に対する泣き言が届いたが……。どう思う?」
「そうですね。あの国の鉱山からは、美味しいお菓子作りに欠かせない『良質な岩塩』が採れます。賠償金の代わりに、あの塩の採掘権をすべて帝国が管理するというのはいかがでしょうか」
「……岩塩か。なるほど、経済を握るだけでなく、食の流通も支配するわけか。実に合理的だ」
アラルは感心して頷くが、レティシアの本音は少し違った。
(あの塩で作る塩キャラメル、絶品ですのよね……。帝国で独占できれば、毎日食べられますわ)
彼女の「食いしん坊」という名の経済政策は、今日も着実にエストニア王国を追い詰めていく。
「アラル様。私、あのお菓子を食べるために、もっと頑張って仕事をいたしますわ」
「ああ。君の望みはすべて叶えよう。……たとえ、あの国を干上がらせることになってもな」
幸せそうにクレープを頬張るレティシアと、その横顔を慈しむアラル。
二人の背後には、滅びゆく王国と、これから栄華を極める帝国の明暗がくっきりと浮かび上がっていた。
「殿下! 騎士団の三割が離脱しました! 給与の未払いが二ヶ月続いております!」
「食料庫も空です! レティシア様が契約していた商会が、一斉に取引を停止しました!」
次々と報告される絶望的な数字に、カイル王子は青白い顔で机を叩いた。
「黙れ! あんな女一人いなくなっただけで、我が国が傾くはずがないだろう! エレナ、お前の実家の男爵家から金を融通させろ!」
名指しされたエレナは、かつての可憐な笑みなど微塵もなく、ヒステリックな声を上げた。
「無理に決まっていますわ! うちは借金まみれで、レティシア様からの援助でようやく形を保っていたのですから! それよりカイル様、私のティータイムのお菓子が昨日からランクダウンしているのはどういうことですの!?」
「お菓子の心配をしている場合か! この無能な女が!」
「無能!? ひどい、私を愛しているとおっしゃったのはカイル様ではありませんか!」
かつての「真実の愛」は、金と心の余裕が消えた瞬間に、醜い罵り合いへと変貌を遂げていた。
そこに、年老いた内政官が震える手で一枚の報告書を差し出した。
「殿下……。ギニョール帝国に送った親書ですが、焼き捨てられたとの報告が入りました。……それどころか、帝国側から『我が国の特別顧問を侮辱した罪』として、多額の賠償金か、あるいは国境付近の鉱山の割譲を要求されております」
「……は?」
カイルの思考が停止する。
彼にとってレティシアは、ただの「地味で便利な道具」だった。
その道具が、今や世界最強の帝国の「至宝」として、自分たちの首を絞める側に回っている。
「ありえない……。あんな、お菓子のことしか考えていないような女が……!」
一方その頃、ギニョール帝国の帝都。
レティシアは、アラルと共に約束のクレープ屋のテラス席にいた。
「アラル様、見てください! この『全部乗せクレープ』、顔よりも大きいですわ!」
「……。ああ、素晴らしいな(君の笑顔が)。レティシア、生クリームが鼻の先についているぞ。取ってやろう」
「あ、ありがとうございます……」
アラルが指先で優しく拭い、そのまま自分の口へ運ぶ。
その仕草に、周囲の護衛騎士たちが「陛下が……あの陛下が甘いものを……!」と静かに衝撃を受けていた。
「レティシア。先ほどエストニア王国から賠償金の請求に対する泣き言が届いたが……。どう思う?」
「そうですね。あの国の鉱山からは、美味しいお菓子作りに欠かせない『良質な岩塩』が採れます。賠償金の代わりに、あの塩の採掘権をすべて帝国が管理するというのはいかがでしょうか」
「……岩塩か。なるほど、経済を握るだけでなく、食の流通も支配するわけか。実に合理的だ」
アラルは感心して頷くが、レティシアの本音は少し違った。
(あの塩で作る塩キャラメル、絶品ですのよね……。帝国で独占できれば、毎日食べられますわ)
彼女の「食いしん坊」という名の経済政策は、今日も着実にエストニア王国を追い詰めていく。
「アラル様。私、あのお菓子を食べるために、もっと頑張って仕事をいたしますわ」
「ああ。君の望みはすべて叶えよう。……たとえ、あの国を干上がらせることになってもな」
幸せそうにクレープを頬張るレティシアと、その横顔を慈しむアラル。
二人の背後には、滅びゆく王国と、これから栄華を極める帝国の明暗がくっきりと浮かび上がっていた。
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