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「……素晴らしい。これこそ、我が帝国の至宝にふさわしい輝きだ」
帝都最高の仕立て屋のサロンで、アラルは満足げに深く頷いた。
目の前には、完成したばかりのドレスを身に纏ったレティシアが立っている。
それは、深い夜空を切り取ったような紺青のシルクに、数千粒の小粒のダイヤモンドが散りばめられた逸品。
彼女が動くたびに、まるで星々が瞬いているかのように光り輝く。
「あの、アラル様。……綺麗だとは思うのですが、少し、重くありませんか?」
レティシアが困ったように肩をすくめると、ダイヤモンド同士が擦れて微かな音を立てた。
「重い? 当然だ。それは北方の鉱山で採れた最高級の原石を、そのまま縫い込ませたからな。君の価値に比べれば、石ころのようなものだが」
「物理的に肩が凝りますわ。それに……このウエストの締め付け、これでは舞踏会で何も食べられませんわよ?」
レティシアの切実な訴えに、アラルはハッとした表情で仕立て屋を睨みつけた。
「おい、聞いただろう。今すぐウエストをあと三センチ……いや、五センチ余裕を持たせろ。レティシアがケーキを三つ食べても苦しくないようにだ!」
「は、ははっ! ただちに作り直します!」
怯える仕立て屋を横目に、レティシアはふう、と息をついた。
彼女にとって舞踏会とは、社交の場ではなく「普段食べられない豪華な料理が並ぶ大型ビュッフェ」に他ならない。
「アラル様、当日のメニューはもうお決まりになりましたの?」
「ああ。君のために、西方の王国から魚介の専門シェフを、南方の部族から香辛料の達人を招いた。メインは子羊のロースト、デザートには高さ二メートルのクロカンブッシュを用意させる」
「二メートル……! 素晴らしいですわ、アラル様!」
レティシアの瞳が、ダイヤモンドよりも眩しく輝く。
アラルはその様子を愛おしそうに見つめていたが、ふと、表情を曇らせた。
「……だが、一つ問題がある。当日、そのドレスを着た君を、他の男たちが放っておくはずがない。不快だ。非常に不快だ」
「あら、そんなことはありませんわよ。皆様、皇帝陛下であるアラル様が隣にいらっしゃれば、近寄る勇気なんてないはずですわ」
「そうだろうか? もし一瞬でも目を離して、虫けらが君に触れようものなら……。やはり、舞踏会は中止にして、二人だけでお茶会にしないか?」
「……。アラル様、それは流石に、準備してくださった皆様に失礼ですわ」
レティシアが苦笑しながらアラルの手を握ると、彼は子供のようにしゅんとした様子で彼女の手の甲に口づけた。
「わかった。……ただし、私の隣から一歩も離れないと約束してくれ。いいな?」
「ええ。食べ物がある場所なら、どこへでもついていきますわ」
「……。相変わらず、食欲が勝っているな」
そんな甘い空気が流れる一方で、エストニア王国のカイル王子は、自室で頭を抱えていた。
「おい……。このドレス、いくらで売れると思う?」
カイルが震える手で差し出したのは、王家に代々伝わる儀礼用の重厚なドレスだった。
「殿下! それは建国記念祭で王妃が着るべき神聖な品ですよ! 売るなんて……!」
「うるさい! これを売らなければ、明日のパンも買えんのだ! レティシアがいれば……あいつがいれば、今頃、帝国の舞踏会にも招待されていたはずなのに……!」
カイルは、自分が捨てた「便利な道具」が、今や世界で最も豪華なドレスを着て、最も強大な男に愛されていることなど、想像もしていなかった。
彼の手元に残ったのは、埃を被った古いドレスと、愛想を尽かしかけているエレナの不満だけだった。
帝都最高の仕立て屋のサロンで、アラルは満足げに深く頷いた。
目の前には、完成したばかりのドレスを身に纏ったレティシアが立っている。
それは、深い夜空を切り取ったような紺青のシルクに、数千粒の小粒のダイヤモンドが散りばめられた逸品。
彼女が動くたびに、まるで星々が瞬いているかのように光り輝く。
「あの、アラル様。……綺麗だとは思うのですが、少し、重くありませんか?」
レティシアが困ったように肩をすくめると、ダイヤモンド同士が擦れて微かな音を立てた。
「重い? 当然だ。それは北方の鉱山で採れた最高級の原石を、そのまま縫い込ませたからな。君の価値に比べれば、石ころのようなものだが」
「物理的に肩が凝りますわ。それに……このウエストの締め付け、これでは舞踏会で何も食べられませんわよ?」
レティシアの切実な訴えに、アラルはハッとした表情で仕立て屋を睨みつけた。
「おい、聞いただろう。今すぐウエストをあと三センチ……いや、五センチ余裕を持たせろ。レティシアがケーキを三つ食べても苦しくないようにだ!」
「は、ははっ! ただちに作り直します!」
怯える仕立て屋を横目に、レティシアはふう、と息をついた。
彼女にとって舞踏会とは、社交の場ではなく「普段食べられない豪華な料理が並ぶ大型ビュッフェ」に他ならない。
「アラル様、当日のメニューはもうお決まりになりましたの?」
「ああ。君のために、西方の王国から魚介の専門シェフを、南方の部族から香辛料の達人を招いた。メインは子羊のロースト、デザートには高さ二メートルのクロカンブッシュを用意させる」
「二メートル……! 素晴らしいですわ、アラル様!」
レティシアの瞳が、ダイヤモンドよりも眩しく輝く。
アラルはその様子を愛おしそうに見つめていたが、ふと、表情を曇らせた。
「……だが、一つ問題がある。当日、そのドレスを着た君を、他の男たちが放っておくはずがない。不快だ。非常に不快だ」
「あら、そんなことはありませんわよ。皆様、皇帝陛下であるアラル様が隣にいらっしゃれば、近寄る勇気なんてないはずですわ」
「そうだろうか? もし一瞬でも目を離して、虫けらが君に触れようものなら……。やはり、舞踏会は中止にして、二人だけでお茶会にしないか?」
「……。アラル様、それは流石に、準備してくださった皆様に失礼ですわ」
レティシアが苦笑しながらアラルの手を握ると、彼は子供のようにしゅんとした様子で彼女の手の甲に口づけた。
「わかった。……ただし、私の隣から一歩も離れないと約束してくれ。いいな?」
「ええ。食べ物がある場所なら、どこへでもついていきますわ」
「……。相変わらず、食欲が勝っているな」
そんな甘い空気が流れる一方で、エストニア王国のカイル王子は、自室で頭を抱えていた。
「おい……。このドレス、いくらで売れると思う?」
カイルが震える手で差し出したのは、王家に代々伝わる儀礼用の重厚なドレスだった。
「殿下! それは建国記念祭で王妃が着るべき神聖な品ですよ! 売るなんて……!」
「うるさい! これを売らなければ、明日のパンも買えんのだ! レティシアがいれば……あいつがいれば、今頃、帝国の舞踏会にも招待されていたはずなのに……!」
カイルは、自分が捨てた「便利な道具」が、今や世界で最も豪華なドレスを着て、最も強大な男に愛されていることなど、想像もしていなかった。
彼の手元に残ったのは、埃を被った古いドレスと、愛想を尽かしかけているエレナの不満だけだった。
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