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ギニョール帝国の玉座の間。
本来、軍事報告や外交交渉が行われる峻厳な場に、甘いバニラの香りが漂っていた。
アラルは玉座に座ることなく、その一段下の階段に腰を下ろし、レティシアに熱い視線を送っていた。
彼の手元には、真紅のベルベットに包まれた黄金の印章がある。
「レティシア、改めて私から申し入れたい。……帝国の『特別顧問』という肩書きは、やはり君には不十分だ」
レティシアは、アラルが特別に用意させた「雪解けショコラ」を口に運びながら、不思議そうに瞬きをした。
「あら、不十分でしょうか? お給料として毎日違うお菓子をいただけて、私はとても満足しておりますけれど」
「私が満足していないのだ。君がどこか遠くへ行ってしまうのではないか、誰かに連れ去られるのではないか……。そう考えると、夜も眠れん」
「アラル様、それは単なる不眠症では……」
「君が私の隣に永久に留まるという法的な、そして魂の拘束が必要だ。……レティシア、私の正妃……皇帝妃になってくれないか?」
アラルの真っ直ぐな、そしてどこか必死な言葉に、レティシアはショコラを飲み込んでふぅと息をついた。
帝国最強の男が、一人の少女の返答を待って、指先を微かに震わせている。
「皇帝妃、ですか。……それになると、何か生活に変化はありますの?」
「まず、帝国中の菓子職人を君の直属にする。君が望むなら、隣国の果樹園を丸ごと買い取ってもいい。……あと、私の愛を朝から晩まで注ぎ続ける」
「……。最後の条件は今とあまり変わらない気がいたしますけれど、職人さんを独占できるのは魅力的ですわね」
レティシアは少し考え込み、それから悪戯っぽく微笑んだ。
「アラル様。私、こう見えてわがままですわよ? 三食お菓子でも文句を言わないと誓えますか?」
「三食と言わず、十食でも構わない。君が幸せそうに食べている姿こそ、我が帝国の平和の象徴だ」
「……。そこまで言われては、お断りする理由がありませんわね。謹んでお受けいたしますわ、アラル様」
レティシアが手を差し出すと、アラルは雷に打たれたような衝撃を受けた後、その手を両手で包み込み、何度も何度も口づけを落とした。
「あ、ありがとう、レティシア……。明日、いや、今すぐ建国以来最大の祝典を準備させる! 全領民に菓子を配り、一ヶ月間は祭りだ!」
「落ち着いてください、アラル様。そんなことをしたら、また書類が山積みになってしまいますわ」
二人がそんな睦まじい会話を交わしている頃。
エストニア王国のカイルは、ついに自室から引きずり出されていた。
「離せ! 私は王子だぞ! レティシア、レティシアさえいれば、お前たちなど……!」
「往往しいですよ、殿下。レティシア様は今、帝国の皇帝妃になられるそうです。……あなたを助けに来るはずがないでしょう」
兵士たちの冷淡な声。
カイルが見上げた窓の外には、かつての婚約者の幸せを祝うかのような、帝国の方角から上がる盛大な祝砲の光が見えた。
「……嘘だ。あいつは、私の便利な道具だったはずなのに……っ!」
彼の後悔は、もう誰にも届かない。
甘い香りに包まれた帝国の離宮で、レティシアは新しい人生の、最高に甘い一頁を捲っていた。
本来、軍事報告や外交交渉が行われる峻厳な場に、甘いバニラの香りが漂っていた。
アラルは玉座に座ることなく、その一段下の階段に腰を下ろし、レティシアに熱い視線を送っていた。
彼の手元には、真紅のベルベットに包まれた黄金の印章がある。
「レティシア、改めて私から申し入れたい。……帝国の『特別顧問』という肩書きは、やはり君には不十分だ」
レティシアは、アラルが特別に用意させた「雪解けショコラ」を口に運びながら、不思議そうに瞬きをした。
「あら、不十分でしょうか? お給料として毎日違うお菓子をいただけて、私はとても満足しておりますけれど」
「私が満足していないのだ。君がどこか遠くへ行ってしまうのではないか、誰かに連れ去られるのではないか……。そう考えると、夜も眠れん」
「アラル様、それは単なる不眠症では……」
「君が私の隣に永久に留まるという法的な、そして魂の拘束が必要だ。……レティシア、私の正妃……皇帝妃になってくれないか?」
アラルの真っ直ぐな、そしてどこか必死な言葉に、レティシアはショコラを飲み込んでふぅと息をついた。
帝国最強の男が、一人の少女の返答を待って、指先を微かに震わせている。
「皇帝妃、ですか。……それになると、何か生活に変化はありますの?」
「まず、帝国中の菓子職人を君の直属にする。君が望むなら、隣国の果樹園を丸ごと買い取ってもいい。……あと、私の愛を朝から晩まで注ぎ続ける」
「……。最後の条件は今とあまり変わらない気がいたしますけれど、職人さんを独占できるのは魅力的ですわね」
レティシアは少し考え込み、それから悪戯っぽく微笑んだ。
「アラル様。私、こう見えてわがままですわよ? 三食お菓子でも文句を言わないと誓えますか?」
「三食と言わず、十食でも構わない。君が幸せそうに食べている姿こそ、我が帝国の平和の象徴だ」
「……。そこまで言われては、お断りする理由がありませんわね。謹んでお受けいたしますわ、アラル様」
レティシアが手を差し出すと、アラルは雷に打たれたような衝撃を受けた後、その手を両手で包み込み、何度も何度も口づけを落とした。
「あ、ありがとう、レティシア……。明日、いや、今すぐ建国以来最大の祝典を準備させる! 全領民に菓子を配り、一ヶ月間は祭りだ!」
「落ち着いてください、アラル様。そんなことをしたら、また書類が山積みになってしまいますわ」
二人がそんな睦まじい会話を交わしている頃。
エストニア王国のカイルは、ついに自室から引きずり出されていた。
「離せ! 私は王子だぞ! レティシア、レティシアさえいれば、お前たちなど……!」
「往往しいですよ、殿下。レティシア様は今、帝国の皇帝妃になられるそうです。……あなたを助けに来るはずがないでしょう」
兵士たちの冷淡な声。
カイルが見上げた窓の外には、かつての婚約者の幸せを祝うかのような、帝国の方角から上がる盛大な祝砲の光が見えた。
「……嘘だ。あいつは、私の便利な道具だったはずなのに……っ!」
彼の後悔は、もう誰にも届かない。
甘い香りに包まれた帝国の離宮で、レティシアは新しい人生の、最高に甘い一頁を捲っていた。
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