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「レティシア、数日ほど城を空ける。……寂しいとは思うが、我慢してくれ」
婚礼を間近に控えたある日、アラルは軍装に身を包み、真剣な面持ちでそう告げた。
その背後には、精鋭中の精鋭である第一騎士団が、これから戦争にでも向かうような殺気を放って待機している。
レティシアは、新作のキャラメル・クッキーをサクリと齧り、不思議そうに小首を傾げた。
「あら、お仕事ですか? 隣国との小競り合いなら、昨日アラル様が睨みつけただけで解決したと伺いましたけれど」
「……仕事ではない。君に贈る『真の婚礼デザート』に必要な、最後のピースを取りに行くだけだ」
「最後のピース?」
「北の最果て、永久凍土の崖にのみ実るという伝説の果実『星屑の雫』だ。十年に一度、この時期にしか熟さない。それを君のウェディングケーキの頂点に飾りたいのだ」
レティシアの手から、食べかけのクッキーがポロリと落ちた。
星屑の雫。それは、あまりの美味しさに食べた者が一生他のものを食べられなくなると言われる、幻の果実。
そして、その採取難易度は「国家転覆より難しい」とされる代物だ。
「アラル様、お待ちください! そんな危険な場所、わざわざ陛下が行く必要はありませんわ! 私は今のままでも十分に幸せ……」
「いや、私が行く。……君に世界で一番甘い瞬間を教えるのは、私でなければならない」
アラルはレティシアの額に、誓いのような熱い口づけを落とすと、翻るマントと共に疾風のごとく去っていった。
三日後。
帝都の人々が「陛下が伝説の果実を求めて北へ向かった」という噂に沸き立つ中、ボロボロの軍装を纏ったアラルが帰還した。
その手には、冷気を放つ魔法銀の箱が大切そうに握られている。
「……レティシア、待たせたな」
「アラル様! その顔の傷……! なんて無茶を……!」
レティシアが駆け寄ると、アラルは少しだけ誇らしげに、しかしひどく不器用な笑みを浮かべた。
彼は箱を開け、中から水晶のように透き通った、青白く輝く果実を取り出した。
「さあ、食べてくれ。……新鮮なうちに」
レティシアは、震える手でその果実を受け取った。
口に含んだ瞬間、脳を突き抜けるような清涼感と、言葉では言い表せないほど濃厚な甘みが全身を駆け巡る。
「……っ。美味しい……。でも、アラル様。これ、すごく、温かい味がしますわ」
「温かい? それは凍土で冷え切っているはずだが」
「いいえ。アラル様が私のために、命がけで持ってきてくださった想いの味がしますの。……こんなに美味しいものは、初めてですわ」
レティシアの目から、一筋の涙が溢れた。
それは「食欲」による感動ではなく、初めて「愛」という名の隠し味に気づいた瞬間だった。
アラルは驚いたように目を見開いた後、彼女を壊れ物を扱うように抱きしめた。
「……そうか。ならば、一生かけてその味を更新し続けよう。……愛している、レティシア」
「……私も。お菓子と同じくらい、アラル様が大好きですわ」
二人が抱き合う背景で、侍従たちが「お菓子と同等までランクが上がったぞ!」と静かに歓喜の涙を流していた。
一方、エストニア王国の辺境。
追放されたカイルは、雪が舞う中で、凍った野いちごを必死に探していた。
「……『星屑の雫』? ふん、そんなもの、かつての私なら金でいくらでも買えたはずだ……。なぜ、あんな死神皇帝が……。なぜ、あいつが私のレティシアと……っ!」
彼の独り言を拾う者は、もう誰もいない。
かつて彼が「当たり前」に享受していた、レティシアの献身という名の伝説の果実。
それを自ら捨てた男には、ただ冷たい雪の味だけが残されていた。
婚礼を間近に控えたある日、アラルは軍装に身を包み、真剣な面持ちでそう告げた。
その背後には、精鋭中の精鋭である第一騎士団が、これから戦争にでも向かうような殺気を放って待機している。
レティシアは、新作のキャラメル・クッキーをサクリと齧り、不思議そうに小首を傾げた。
「あら、お仕事ですか? 隣国との小競り合いなら、昨日アラル様が睨みつけただけで解決したと伺いましたけれど」
「……仕事ではない。君に贈る『真の婚礼デザート』に必要な、最後のピースを取りに行くだけだ」
「最後のピース?」
「北の最果て、永久凍土の崖にのみ実るという伝説の果実『星屑の雫』だ。十年に一度、この時期にしか熟さない。それを君のウェディングケーキの頂点に飾りたいのだ」
レティシアの手から、食べかけのクッキーがポロリと落ちた。
星屑の雫。それは、あまりの美味しさに食べた者が一生他のものを食べられなくなると言われる、幻の果実。
そして、その採取難易度は「国家転覆より難しい」とされる代物だ。
「アラル様、お待ちください! そんな危険な場所、わざわざ陛下が行く必要はありませんわ! 私は今のままでも十分に幸せ……」
「いや、私が行く。……君に世界で一番甘い瞬間を教えるのは、私でなければならない」
アラルはレティシアの額に、誓いのような熱い口づけを落とすと、翻るマントと共に疾風のごとく去っていった。
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その手には、冷気を放つ魔法銀の箱が大切そうに握られている。
「……レティシア、待たせたな」
「アラル様! その顔の傷……! なんて無茶を……!」
レティシアが駆け寄ると、アラルは少しだけ誇らしげに、しかしひどく不器用な笑みを浮かべた。
彼は箱を開け、中から水晶のように透き通った、青白く輝く果実を取り出した。
「さあ、食べてくれ。……新鮮なうちに」
レティシアは、震える手でその果実を受け取った。
口に含んだ瞬間、脳を突き抜けるような清涼感と、言葉では言い表せないほど濃厚な甘みが全身を駆け巡る。
「……っ。美味しい……。でも、アラル様。これ、すごく、温かい味がしますわ」
「温かい? それは凍土で冷え切っているはずだが」
「いいえ。アラル様が私のために、命がけで持ってきてくださった想いの味がしますの。……こんなに美味しいものは、初めてですわ」
レティシアの目から、一筋の涙が溢れた。
それは「食欲」による感動ではなく、初めて「愛」という名の隠し味に気づいた瞬間だった。
アラルは驚いたように目を見開いた後、彼女を壊れ物を扱うように抱きしめた。
「……そうか。ならば、一生かけてその味を更新し続けよう。……愛している、レティシア」
「……私も。お菓子と同じくらい、アラル様が大好きですわ」
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一方、エストニア王国の辺境。
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「……『星屑の雫』? ふん、そんなもの、かつての私なら金でいくらでも買えたはずだ……。なぜ、あんな死神皇帝が……。なぜ、あいつが私のレティシアと……っ!」
彼の独り言を拾う者は、もう誰もいない。
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