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手がかり
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悲痛な声だった。
梓の胸にも突き刺さる。
美穂が穂住に見せている顔についてはわからない。
けれど、悪い顔ばかりは見せていなかったのは、この言葉でなんとなく感じられた。
身内にはきっと優しいのだろう。
今の梓にそれをしっかり考える余裕はなかったが。
なにより大切な和を連れ去ったようなのだから、同情どころか怒りと苦しさしかない。
でも穂住にぶつけることではない。
子を持つ親として、してはいけないことだ。
必死にそれを押し殺した。
和臣の声はやはり落ち着いていた。
もはや怖いほどだった。
「わかった。俺から美穂に話をするよ。どっちに行ったかわかるか?」
穂住を落ち着かせるためにそうしたのだ、と梓はぼんやり思った。
穂住はまだぐすぐすしていたけれど、すっと一方を示した。
そちらになにがあるかは知っている。
公園だ。
和を連れて遊びに来たこともある。
「ありがとう。悪いな、ちょっと我慢してくれよ! 美穂のところまで行くぞ!」
不意に和臣が穂住の体を持ち上げた。
ひょいと抱っこする。
予想外だっただろう、穂住は目を丸くした。
目を白黒させながら、それでも和臣にしがみついた。
「すまん、梓! 先に行く! ひとまず公園を目指してくれ!」
すごい勢いで走り出しながら、和臣は一瞬だけ梓を振り返った。
「う、うん!」
あまりに急な展開に、梓も穂住と同じで目を白黒させてしまったけれど、それでも頷いた。
和臣はこわばった顔であったが、それでも梓を安心させるかのように、笑みを浮かべた。
そして穂住を抱えたまま走り走っていった。
梓の胸にも突き刺さる。
美穂が穂住に見せている顔についてはわからない。
けれど、悪い顔ばかりは見せていなかったのは、この言葉でなんとなく感じられた。
身内にはきっと優しいのだろう。
今の梓にそれをしっかり考える余裕はなかったが。
なにより大切な和を連れ去ったようなのだから、同情どころか怒りと苦しさしかない。
でも穂住にぶつけることではない。
子を持つ親として、してはいけないことだ。
必死にそれを押し殺した。
和臣の声はやはり落ち着いていた。
もはや怖いほどだった。
「わかった。俺から美穂に話をするよ。どっちに行ったかわかるか?」
穂住を落ち着かせるためにそうしたのだ、と梓はぼんやり思った。
穂住はまだぐすぐすしていたけれど、すっと一方を示した。
そちらになにがあるかは知っている。
公園だ。
和を連れて遊びに来たこともある。
「ありがとう。悪いな、ちょっと我慢してくれよ! 美穂のところまで行くぞ!」
不意に和臣が穂住の体を持ち上げた。
ひょいと抱っこする。
予想外だっただろう、穂住は目を丸くした。
目を白黒させながら、それでも和臣にしがみついた。
「すまん、梓! 先に行く! ひとまず公園を目指してくれ!」
すごい勢いで走り出しながら、和臣は一瞬だけ梓を振り返った。
「う、うん!」
あまりに急な展開に、梓も穂住と同じで目を白黒させてしまったけれど、それでも頷いた。
和臣はこわばった顔であったが、それでも梓を安心させるかのように、笑みを浮かべた。
そして穂住を抱えたまま走り走っていった。
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