菜の花は五分咲き

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!

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隠し事は呆気なく

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「はーい! みんな、静かにしてくださいねー! 今日はみんなのパパやお兄ちゃんが来てくれてますね」
 幼稚園の入り口で参加手続きを済ませ、中に入る。
 小さな教室の一室。
 保育士の女性が、席に着いた園児たちに話をしている。
 幼稚園という場所は慣れない。なにもかも小さく作られていて、どうもむずむずしてしまう。
「今日はせっかく来てもらってますから、パパやお兄ちゃんの似顔絵を描きましょう!」
 内容は知らされていなかったけれど、どうもそういう計画だったらしい。
 杏子のやつ、教えてくれてても良かったのに、と思っても、今更である。
 茂は「ではパパ達はお子さんの席へ来てください」という保育士の先生の指示に従って、移動した。
「パパー!」
 茂が近付いていくと、咲耶はぱぁっと顔を輝かせた。
 懐かしさでいっぱいになってしまう。
 大きくなったもんだ、と実感もした。
 前に会ったのは四月だった。あれから二ヵ月近く経とうとしているのだ、子供の成長は早いもの。
「やぁ、咲耶。久しぶり」
 茂は咲耶の近くに膝をつき、頭を撫でた。
 短い二つ結びにした黒髪は茂譲り。
 ふわふわとやわらかな髪をそっと撫でる。
「わたしね! 昨日、なかなか眠れなかったの! パパが来てくれるから!」
「そっか。ありがとな」
 咲耶は茂に抱きつかんばかりであったが、まだこれから授業なのである。似顔絵とやらの。
 あとでたくさん抱っこしてやらないとな、と思いつつ、茂は「お子さんの向かいに座ってくださいね」という指示に従って、場所を移動したのだけど。
「…………桜庭、さん……!?」
 聞こえるはずのない声がした。
 呼ばれるはずもない呼ばれ方でもあった。
 茂はぎくっとしてしまう。
 この声。
 誰なのか。
 どうしてここで聞こえるのかわからずとも、まずいことくらいはわかる。
「……空条くん?」
 そこにいたのは菜月であった。
 いつも通り、高校の制服を着て、女の子のそばに立っている。
 もしや、あれは前に話を聞いた妹……。
 ぼんやりとそんなことを思ってしまった。
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