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消えた咲耶
⑥
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茂がすぐに思いついたのは、公園だった。
まだ幼児になって間もない頃の咲耶。
連れてたまに遊びに行った。
覚えているかはわからないが、マンションにどうやってか辿り着いたくらいだ。行っている可能性はある。
よって、茂は公園を目指した。
急ぎ足だったが、すぐに駆け足になった。
しかしそこで、ポケットのスマホが鳴った。
杏子か、そちらのほうに帰ってきたのかもしれない。それならそちらのほうがいい。
思って、スマホを取り出して見てみたのだけど、表示されていた名前は違うものだった。
菜月からではないか。
こんなことを思うのは申し訳ないが、今、この状況では呑気に話などできない。
でも無視も出来ない。
一言だけ応答して、あとで落ち着いたらかけ直そう。
思って、走りつつ茂は応答ボタンを押した。
すぐに菜月の声が流れ込んでくる。
「あ! 茂さん! 良かった……、実は困ったことが」
なにか言いかけた菜月。
だが茂にとっては、今、目の前の状況より『困ったこと』だなんて思いもしなかった。
「ごめん、今、緊急事態なんだ! あとでかける!」
菜月の言うことをろくに聞かずに、それだけ電話に向かって言って、切った。
乱暴にポケットに突っ込み直して、傘を持ち直して、足を速める。
まさか、菜月からの着信が、別の方向からの情報だったなんて、思いもせずに。
まだ幼児になって間もない頃の咲耶。
連れてたまに遊びに行った。
覚えているかはわからないが、マンションにどうやってか辿り着いたくらいだ。行っている可能性はある。
よって、茂は公園を目指した。
急ぎ足だったが、すぐに駆け足になった。
しかしそこで、ポケットのスマホが鳴った。
杏子か、そちらのほうに帰ってきたのかもしれない。それならそちらのほうがいい。
思って、スマホを取り出して見てみたのだけど、表示されていた名前は違うものだった。
菜月からではないか。
こんなことを思うのは申し訳ないが、今、この状況では呑気に話などできない。
でも無視も出来ない。
一言だけ応答して、あとで落ち着いたらかけ直そう。
思って、走りつつ茂は応答ボタンを押した。
すぐに菜月の声が流れ込んでくる。
「あ! 茂さん! 良かった……、実は困ったことが」
なにか言いかけた菜月。
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「ごめん、今、緊急事態なんだ! あとでかける!」
菜月の言うことをろくに聞かずに、それだけ電話に向かって言って、切った。
乱暴にポケットに突っ込み直して、傘を持ち直して、足を速める。
まさか、菜月からの着信が、別の方向からの情報だったなんて、思いもせずに。
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