菜の花は五分咲き

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!

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消えた咲耶

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 茂がすぐに思いついたのは、公園だった。
 まだ幼児になって間もない頃の咲耶。
 連れてたまに遊びに行った。
 覚えているかはわからないが、マンションにどうやってか辿り着いたくらいだ。行っている可能性はある。
 よって、茂は公園を目指した。
 急ぎ足だったが、すぐに駆け足になった。
 しかしそこで、ポケットのスマホが鳴った。
 杏子か、そちらのほうに帰ってきたのかもしれない。それならそちらのほうがいい。
 思って、スマホを取り出して見てみたのだけど、表示されていた名前は違うものだった。
 菜月からではないか。
 こんなことを思うのは申し訳ないが、今、この状況では呑気に話などできない。
 でも無視も出来ない。
 一言だけ応答して、あとで落ち着いたらかけ直そう。
 思って、走りつつ茂は応答ボタンを押した。
 すぐに菜月の声が流れ込んでくる。
「あ! 茂さん! 良かった……、実は困ったことが」
 なにか言いかけた菜月。
 だが茂にとっては、今、目の前の状況より『困ったこと』だなんて思いもしなかった。
「ごめん、今、緊急事態なんだ! あとでかける!」
 菜月の言うことをろくに聞かずに、それだけ電話に向かって言って、切った。
 乱暴にポケットに突っ込み直して、傘を持ち直して、足を速める。
 まさか、菜月からの着信が、別の方向からの情報だったなんて、思いもせずに。
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