菜の花は五分咲き

白妙スイ@1/9新刊発売

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貴方を独りにしないから

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 どきりと茂の胸が高鳴った。
 隠さなくてもいいくらい。
 それはずっと、茂が恐れ、嫌だと思っていたことだ。
 この子にそこまでは話していない。
 なのにどうしてわかるというのか。
 見抜いたように、その嫌悪を抱いてしまう事項から守ると言ってくれるように、伝えられた。
 どくどくと心臓の鼓動が速くなる。
 触れ合っている、包まれている手を通して菜月にも伝わってしまったかもしれない。
 それを恥ずかしいとは思ったけれど、何故か、嫌だとか困るとか。
 そうは思わなかったのだ。
「……難しいと、思うが」
 やっと言った。
 受け入れるような返事になった。
 でもここまできても、それは曖昧であった。
 本当に、自分の悪いところを思い知らせられるような言い方。
 なのに、菜月はその言葉で顔を上げた。
 今度こそ視線が合う。
 今の菜月の目。
 はっきり大人のものではなかった。
 それどころか、あどけなさもだいぶ含まれた色であった。
 菜月も自分でわかっているのだろう。
 自分はまだ大人になりかけなのだと。
 常に大人の顔ができないくらいには、子供でもあるのだと。
 それでも今の菜月の気持ちで伝えてくれるし、伝えたいと思ってくれている。
 それが一番の誠意であった。
「やってみせますよ。今日、レースで勝てたのと同じです」
「人生はレースじゃないだろう」
 まただ、と思いつつ茂は言った。
 そして思った途端、ほわっと体があたたかくなった。
 まるで包んでくれている菜月の手の温度が移ったように。
 きっとそうだった。
 菜月の手から、言葉から、視線から。
 茂の心の中にまで、入ってきてくれた。
 だからこれ以上は必要なかった。
 菜月はもう一度、笑みを寄越してくれて、そしてそっと手を離した。
 特になにも言わなかった。
 オレンジ色が消えて、藍色だけの空になって、ようやく河川敷から上の道へ戻って。
 駅へ向かう間も、手は繋がなかった。
 まだ早いから。
 いつかは菜月が手を取って、そのあと繋いで歩けるようになるのだと思う。
 でも今はまだ。
 だけど今はこれでいいと思ってしまう。
 だって、この先は確かにあるのだから。
 不安も包み込んでくれるあのあたたかな手が、横にある。
 それだけではっきり感じられて、やはり言葉は要らなかった。
 三度目の告白の言葉も要らなかった。
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