菜の花は五分咲き

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!

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約束

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「そうだ、茂さん。冷たい飲み物がありますよ。レモネード」
 菜月はスマホをぽいっと放り出して、キッチンへ向かった。冷蔵庫を開ける。
「お? そんなもん、だいぶ久しぶりだよ」
 苦言を呈した上に、ツッコミまでした直後だというのに、そんなものはすぐ消えてしまった。
 諦めもあるけれど、それは諦念ではない。
 ただ、菜月の行動力や積極性に対する、少々の呆れと、それから言葉には出さないけれど、愛おしさ、なのだから。
 菜月はすっかり茂の家の台所番になってしまって、今では茂一人のときでも食べるに困らないような食料をちょくちょく入れていってくれる。
 高校生にそんなことをさせて申し訳ない、と思う気持ちはあれど、そこは多分、甘えていいのだ。
 菜月はそのクチで、レモネードだという瓶を取り出して、氷と一緒にグラスに注いだ。
 ソファに腰掛けて待っていた茂の元へ持ってきて、手渡してくれる。そして自分も隣に座った。
「え、これ絞ったのか?」
 渡されたレモネードは明らかに買ったものではなかった。
 だって、レモンの果肉がチラチラ見えるのだから。
 買ったものでこんなもの、そうそうあるものか。
「ええ。そんな難しくないんですよ」
 菜月はにこっと笑って、「どうぞ」と勧めてきた。
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