許せなかった僕たちへ

古川ゆう

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一章

1.5 相違

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男がその場から居なくなった隙を見て
僕達は男に気付かれない様に森を降りている最中だった。

あの山へ着くまではきっと楽しい事が待っている。そう僕達は思っていた。

だが、現実は甘くなかった。

蓮と結人は、葵が男を見たことによる恐怖で脚が震え歩けないと言う為2人で葵の肩を抱え持つようにして僕達は必死に森の中を降りた。

後ろからあの男が追いかけてきていないか
警戒していたが大丈夫だった。

「葵、頑張れ。もうちょっとで下に着くぞ。」そう言って蓮は葵を励ました。

だが葵は
「うん…。」
と頷いただけで、ただ重い返事を返した。

3人共、あの現場を見てしまいこの先何が待ち受けているのだろうか、この先どうしようかと不安と恐怖が頭の中を張り巡らせていた。

無言で3人は森を抜け
山の麓まで降りる事ができた。

結人は山を降りた際、男が追ってきていないかを確認し、辺りを見渡した。

すると、丁度その時、自分達ぐらいの背丈の少年も山から降りてきたのだ。

この真夏に、長袖長ズボンを履いていて泥や木の葉が付いておりボロボロだった。

山の中で転んだのだろうか。

とても今の季節に似つかわしくない格好を
少年はしていた。

近所では見かけた事のない少年も山の左側から降りてきたのだ。

結人とはその少年と目が合った。

少年は目を真っ赤に腫らし泣いている様にも見えた。

だが、結人はその少年見てもとの面識はなかった。

その男の子は何も言わずこちらをじっと見ていた。

「蓮、あの子誰だろ、こっち見てる。」

「ん?」

蓮もその少年を見た。

「蓮の知ってる子?」

蓮は言葉を濁すように

「いや…知らね…。」

「見たことないな。」

そう言った。

結人は蓮の言葉を聞いて
「そっか。」
と返した。

結人は蓮が嘘をついた事はなんとなくだが
分かっていた。

あの少年のことを知っているのに何で知らないと言ったのか疑問に思った。

そう考えていると少年は何も言わずに
去っていった。

1人の少年が、山に1人で行くのもおかしな話しだが何か理由でもあったのだろうか。

「何だったんだろう。」

「さあな。」

蓮の態度は急に冷たくなった様に感じた。

3人で駄菓子屋まで帰る事にした。
荷物を取りに行かなくてはならないからだ。
本当は帰りたくなどなかった。

道中、3人は無言で歩いていた。

各々、山で見た悲惨な光景を智子に何て伝えたら良いのだろうか本当の事を言うべきか、悩んでいた。

もしくは、智子に嘘をつき平然と何もなかったと言うのが正しいのだろうか。

僕らの心の中では善と悪が交錯していた。

僕達は事件があった場所から20分かけて歩いた。

遠くには、いつも通っている駄菓子屋が見えたが3人の足には鉛が付いているかの様に足取りは重く感じた。

蓮は一度、深呼吸をし、隣を歩いている2人に無言で訴え駄菓子屋までの距離を歩いた。

駄菓子屋の入り口に着いたが
僕らは中に入れずにいた。

いつもなら直ぐにでも店に入り
美味しいお菓子を食べ智子の話しを聞いて
楽しいひと時を過ごしている筈なのだ。

でも今日は違う。

3人が中へ入るのを躊躇っていると
それに気づいた智子が中から出てきたのだ。

「案外早かったのねぇ。」智子は手を拭きながら僕達の元へと駆け寄ってきた。

最初に口を開いたのは蓮だ。

「ただいま。戻ったよ。」

蓮は冷静な態度を装った。

だが、智子は他の2人の顔を見るなり表情は一変した。

大人は思っている以上に感が鋭いのだ。

「あおいちゃん、ゆいくんどうしたの…?」

「何で泣いてるの?」

葵と結人の赤く腫れた目を見て智子は不安そうに聞いた。

だが、2人は何も言わずただ黙って泣いている。

それに見兼ねた智子は冷静沈着な蓮に尋ねた。

「なぁ、れんよ。何があったんだい?」

「山に行ったんだろ?」

そう智子は尋ねたが蓮は下を向き黙り込んだままだ。

葵は、智子の声を聞いて安心したのかヒクヒクと言わせ大量の涙が溢れ落ちている。

結人も必死に泣くのを堪えていたが
葵につられ涙を流した。

蓮はどこを見るわけでもなく
何も言わずにいた。

「れんよ、私は…。」

もう一度智子が蓮に尋ねようとした時
智子の話しを遮るように蓮は口を開いた。

「ばあちゃん、本当に何もなかったよ。」

「山にも行ったけど何もなかった。」

俯いていた顔を上げ智子の目を見てそう言った。

「じゃあ、何で葵ちゃんとゆいくんは泣いてるんだい?」
「それは…」蓮は何を言っていいか分からず言葉につまる。

するとさっきまで泣いていた結人は涙を拭きながら言った。

「おばあちゃん、心配させてごめんよ。」

「あのね、僕達が行ってた山の上から蓮が落ちそうになってそれを助けたんだ。」

結人は必死に手を動かしながら智子に話した。

「それで僕達は必死になってね。ね?葵?」

結人は葵に話しを振った。

葵はまだシクシクと泣いていたが
首を縦に振り小さく頷いた。

智子は3人に聞いても本当の事を言わない、
そう思ってこれ以上聞くのをやめた。

「そうかい。蓮が助かって良かったよ。2人共良く頑張って助けたね。ありがとう。本当に良かった。」

智子は立っている3人の頭を軽く撫でた。

「3人ともちょっとこっちにきなさい。」

智子は手招きして僕達を呼んだ。

3人は、智子に呼ばれて悟ったのだった。

本当は、嘘を見抜かれていて叱られると。
もうこのまま嘘をついたから嫌いだと言われてしまうのだと。
駄菓子屋にはもう来たらだめだと。

きっとそう言われるのだろうと。

3人は思った。

3人は智子の方を直視できず
その場から動けずに固まっていた。

それを見かねた智子は

「怒ったりしないよ。大丈夫。良い物あげるから。」

もう一度

「ここに来てみなさい。」

そう微笑みかけて僕達をもう一度呼んだ。


私は智子おばあちゃんの元へと歩みよった。

すると他の2人も私の後をついてくるようにして動いてた。

私が、おばあちゃんの前へ近づくと
おばあちゃんの手は私の目線の上へと振り上がった。

私は怖くなって目を閉じた。

目を閉じた途端、その手は私の背中に触れた気がした。

それと同様に私の身体はおばちゃんの痩せ細った身体で一生懸命に包まれたのだ。

おばあちゃんの温もりをも肌で感じた。

おばあちゃん私を抱きしめ
「あおいちゃん、無事で良かったよ。」
と一言だけ私にそう言ってくれた。

私は何故、おばあちゃんに嘘をついたのだろうか。そう思うと、悔しくて情けなくて
たまらなくなった。

また私の涙が溢れてきた。

今泣くくらいなら、おばあちゃんに本当の事を打ち明けたら良いのではないかと思った。

でも、私は結人と蓮がついた嘘に便乗したのは事実だ。

「私は言わなかったんだ。」

「ただ頷くだけで言わなかった。」

「蓮と結人はおばちゃんを心配させない為に、あの山での出来事を言わなかったのかな。」

葵は自分に対しての悔しさと
蓮と結人がおばあちゃんに嘘をついた事に
怒りを表していた。


僕は智子おばあちゃんが「ここに来てみなさい。」と言ったが本当は行きたくなかった。

僕みたいな奴が、おばあちゃんの元に行ってもいいのだろうか。

そう思った。

おばあちゃんは絶対に僕達の嘘に気づいている。

「何が。」とまでは分かっていないけれど

いずれこの事件が公に出た時に何故あの時に言わなかったんだと。

嘘をついたんだと。

そう言われるに決まっている。

後になればなる程、大変な事になるのが目に見えている。

もしもあの男が自分達の事をあの時見ていたとしたら?

あの山の下で見た少年も事件に関係していたとしたら?

いずれにせよ、事件の目撃者の僕達が1番関わっている事になる。

おばあちゃんは、後にこの事を知って
僕達の事をなんと思うだろう。

僕は、蓮を庇ってまでおばあちゃんに嘘を言ったんだ。

蓮は何を言おうとしていたのだろうか。

もう、今更蓮に聞く事はできない。

「間違っていたのは僕だ。」

「ごめんなさい。」


俺は、結人が自分のついた嘘に対して黙っていてくれるとは思っていなかった。

何で結人は嘘をついてまで俺の事を庇ったんだろうか。

正直、あの時ばあちゃんに何て言ったら良いのか、わからなかった。

「本当の事を言おうともしたが黙っていた方が良いのではないか。」
俺はそう思ったんだ。

俺はあの山で見た光景が今でも鮮明に蘇る。

人生で初めて人からあんなに流れる大量の血液をこの目で見た。

無惨に刺され流れている血。

俺ずっと見ていて思った。

「人は人を殺すんだと。」

あの男はなぜあの人を殺した?

何か恨みでもあったのだろうか。

恨みだけで人をあんな杜撰な姿にできるのだろうか。

何か理由があるに違いない。

「俺は、あの事件の真相を知りたい。」

「ばあちゃん、ごめんよ。」

「葵、結人、ありがとう。」

「もうおわりだな。」


涙を零し

「本当に無事で良かったよ。」

智子は3人を優しく抱きしめた。







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