渦の中

古川ゆう

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第一章

1.2 後悔を期待へ

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何層をも渦を巻く螺旋階段を上がって来る最中、少女は決して後ろを振り返りはしなかった。

渇ききった下唇を甘く噛み

「こんな真夜中にさ私だけだよね。」

「何してんだろうなわたし。」

どこか悔しげな表情で俯き呟く。


全ての階段を上がり切った少女は黒で覆われた視界の先をスマホのライトで照らした。

すると、涅色をした扉が現れ再び少女の行手を阻んだ。

扉の上に視線を移すと長方形の白板に黒文字で「この先出口」と丁寧に記されていた。

結衣は扉を見るや否や

「やっと着いた。屋上だよね。」

そう言うと躊躇なく扉を開けた。


途端、強烈な雪風が少女の華奢な体を激しく突き抜け後ろへと反らした。

「うっ。寒い。」

「さっきまではこんなに風強くなかったのにな。」

激しく吹き抜けた風は自然の摂理でそうなったのか片や何者かが少女に対し「こっちに来るな。」とそう忠告しているようにもみえた。

結衣は体勢を立て直し屋上を見渡す。

周りには結衣の胸下程ある高さで雪化粧を施された鉄柵のフェンスが的確に打ち込まれているだけで何ら面白味の無い殺風景な屋上だった。

寒さで両腕を摩りながら歩みを進めた。

街を見渡せる所まで歩いた結衣はフェンスに手を掛け街を眺めた。

綺麗きれい

結衣はただ一言そう言った。

自然と結衣の口からその言葉が出たようにも見えた。

暫くの間、無言で街を眺めていた結衣だったが何かを決心した様子で閉ざしていた口を開く。

「ふぅ…。よし。」

「もう充分。」

そう言って結衣はフェンスに手を掛けたまま地面を両足で飛び蹴ってフェンスを越えた。

フェンスを越えた先は足場はほとんど無く柵を掴んでいないと落ちてしまう程のスペースしかなかった。

結衣は両手を後ろに回し柵を掴んだまま下を見下ろした。

「人いっぱいいるなぁ。」

「皆、上から人が落ちてきたらびっくりするよね。」

「高いなぁ…落ちたら確実死ねるよね。」

「まぁ、死ぬからここまで来たんだし。」

結衣は続けて口を開いた。

「私さ、もう耐えられないんだよ。」

「毎日、毎日あいつが私の事を娘として見てなくて、1人の女として見てて。」

「性的な目で見ててさ。」

「小学生の時くらいだよ。私が物心ついた時には遅かった。」

「普通じゃないって気づいたけど。」

「もう遅かったんだよ。」

「今じゃお母さんが居ない時には襲ってきて。」

「こんなこと誰にも言える訳ないよね。」

「はぁ…。」

結衣の瞳からは自然と涙が溢れ落ちる。

「あいつが死ぬか、私が死ぬか。」

「なら私が死ぬよ。」

「お母さんありがとう。」

「でも、産んでくれなくて良かったよ。」

「このまま生きてても良い事一つもないしさ。」

「もしも死んで生まれ変われるなら…。」

結衣は真っ暗な空を見上げながら


「死んでから考えよう。」


そう言ってフェンスから両手を放した。

「………。」

体は屋上から瞬く間に下へと落下していく。

手を放した際
何か聞こえてきた気がしたが
気のせいだと思った。

結衣の体は地面に酷く打ち付けられ生暖かい血がアスファルトへと広がり尋常ではない痛みが襲ってきた。

幾多の悲鳴が聞こえる。

徐々に視界は狭まっていき

そこで結衣の意識は途絶えた。










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