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第五夜 恐竜の世界
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俺の前世の最後の記憶は、五日徹夜したあと、仕事から帰って倒れるように玄関で寝てしまった記憶が最後だった。
死んだら神様を名乗る存在が現れて「あまりにも気の毒だから次の転生先の希望があるなら聞いてあげよう」 と言われた。まあ、当時の俺の状況を考えても「もうブラックな会社で働かなくていい世界がいい」 一択だよな。
けどそれで誰が恐竜のいる世界に転生すると思うだろうか。そりゃブラック会社の概念自体がないだろうけどさ。
◇
不思議なことにそこは恐竜と人間が共存する世界だった。深い森の奥に恐竜は棲み、人間は海辺や草原で生きている。その風貌は教科書でも見たいかにもな原始人。
言語はほとんど片言だけどそれで不自由することはない。何故なら伝えることなんてそう多くはないから。
正直記憶残ったまま原始人生活とかむしろ罰ゲームだろと思わないでもなかったが、毎日パワハラ上司に怒鳴られる生活よりはやっぱりマシだった。
そしてなにより神様のお詫びなのか、指を掲げるとステータスウィンドウオープン。簡単な呪文を作って頭でイメージすると火の魔法やら水の魔法やら使い放題。たちまち俺は一族の希望として崇められることになった。
食べるために毎日狩りをしなくてはいけないのだが、運が悪ければ一日かかっても何も得られない。それが魔法を使えばかなりの時間短縮になったし、量もかなりの獲物が取れた。
そのお陰か、俺の一族はかなり裕福になった。近くの村の人とは石のお金でやり取りするのだが、これが物凄い溜まってきている。石だからいまいち実感ないけど。
働かなくていい時間が増えると、転生した若い身体にむくむくと冒険心が沸き起こる。恐竜。化石しか見たことない恐竜が、生きた恐竜が森にいる。目視できるほど近くに行くなんて普通なら自殺行為だが、俺には魔法というチートがあった。
「どこ、行く?」
そう聞いてきたのは俺の婚約者の女の子だった。この時代にも一応結婚という概念はあり、近親を避けて同じ一族からでなく他所の一族から相手を迎えるのが習わしだ。ちなみに、女の子の名前はハナという。植物の花かなと思ったけど、生まれた時に鼻が詰まってたからハナだそうだ。この時代のネーミングって……。
「森。恐竜、見る」
「恐竜! 危ない! 死ぬ!」
「死ぬ、ない。俺、強い。ハナも来い」
ハナは戸惑っていたようだが、俺の強さを知っているから最後には承諾した。
◇
森に足を踏み入れて何分経っただろう。恐竜の痕跡はあっという間に見つかった。
巨大な足跡。巨大な糞。大木に残る爪痕。ハナはそれらを見るたび怯えているようだったが、その度に抱きしめて落ち着かせた。
しかし恐竜は何故草原や海辺には来ないのだろう。ハナにも聞いたが、いわくご先祖様が火を駆使して追い払ったとか退治したとか。なるほど、恐竜の弱点は火……。かといって森の中で火は使えない。森林火災なんて起きたら最悪土壌も海も生命が死ぬ。なら出会った時どうするのか?
瞬間、辺りに鳥のような、猛獣の唸り声のような声が響き渡る。
視線の先にはティラノサウルスと思われる恐竜がいた。俺が死んだくらいの時の研究では走り回って獲物を捕るより待ち伏せして捕らえていたのではないかと言われていたが、確かにその通りであったようだ。あと毛がふさふさしている。これはこれで可愛い気もする。
小さい頃のロマンだったティラノサウルスに会えた感動は一割。実際に遭遇したら恐怖が九割。突撃してくるティラノサウルスを前に俺は呪文を唱えた。
『地下!』
ティラノサウルスから見たら何が起きたか分からなかっただろう。一瞬で人間二人が消えたのだから。
――実際は、魔法で地下に空間を作って、そこに移動しただけなんだけどな。天井はマジックミラーになっており、外からは地面にしか見えないが、こちらからは上がどうなっているかよく見える。
どすんどすんと地面に隠れているのではと思って地ならしするティラノサウルスが見える。
ハナは恐竜と出会った時点で恐怖のあまり放心状態だ。すぐ頭上で恐竜が暴れているのを見て、今にもここに落ちて来るのではないか怖がり必死で俺にしがみついている。
獲物に逃げられたティラノサウルスが暴れるのを見ながら、俺は冷静に観察していた。恐竜……捕らえたとしても持って帰るのが面倒だな。仲間が連れ去られたと思われて村にまで恐竜がやってきたら嫌だし。うんやっぱり今まで通り相互不可侵だな。実際に見られただけで満足しよう。
いまだに震えるハナを連れて森を出る。古代からある広大な森。この中には今どれくらいの種類の恐竜がいるのだろう。
知りたい気持ちはあったが、やはり魔法が使えても危険だ。魔法発動前に噛みつかれたら一巻の終わりだし。
可愛がってくれる今の両親を悲しませてまで知りたいことではない。
村に戻るまでの道のり。最後にもう一回だけ森を振り返る。
人間と恐竜が同時代に生きるという奇跡の環境の異世界。
けれど、いつか人間によって狩りつくされて絶滅する日が訪れるのだろうか。地球で人間が何種類もの動植物を絶滅させたように。
少しでも恐竜が長くありますように、とかつての恐竜ファンとして祈らずにいられなかった。
死んだら神様を名乗る存在が現れて「あまりにも気の毒だから次の転生先の希望があるなら聞いてあげよう」 と言われた。まあ、当時の俺の状況を考えても「もうブラックな会社で働かなくていい世界がいい」 一択だよな。
けどそれで誰が恐竜のいる世界に転生すると思うだろうか。そりゃブラック会社の概念自体がないだろうけどさ。
◇
不思議なことにそこは恐竜と人間が共存する世界だった。深い森の奥に恐竜は棲み、人間は海辺や草原で生きている。その風貌は教科書でも見たいかにもな原始人。
言語はほとんど片言だけどそれで不自由することはない。何故なら伝えることなんてそう多くはないから。
正直記憶残ったまま原始人生活とかむしろ罰ゲームだろと思わないでもなかったが、毎日パワハラ上司に怒鳴られる生活よりはやっぱりマシだった。
そしてなにより神様のお詫びなのか、指を掲げるとステータスウィンドウオープン。簡単な呪文を作って頭でイメージすると火の魔法やら水の魔法やら使い放題。たちまち俺は一族の希望として崇められることになった。
食べるために毎日狩りをしなくてはいけないのだが、運が悪ければ一日かかっても何も得られない。それが魔法を使えばかなりの時間短縮になったし、量もかなりの獲物が取れた。
そのお陰か、俺の一族はかなり裕福になった。近くの村の人とは石のお金でやり取りするのだが、これが物凄い溜まってきている。石だからいまいち実感ないけど。
働かなくていい時間が増えると、転生した若い身体にむくむくと冒険心が沸き起こる。恐竜。化石しか見たことない恐竜が、生きた恐竜が森にいる。目視できるほど近くに行くなんて普通なら自殺行為だが、俺には魔法というチートがあった。
「どこ、行く?」
そう聞いてきたのは俺の婚約者の女の子だった。この時代にも一応結婚という概念はあり、近親を避けて同じ一族からでなく他所の一族から相手を迎えるのが習わしだ。ちなみに、女の子の名前はハナという。植物の花かなと思ったけど、生まれた時に鼻が詰まってたからハナだそうだ。この時代のネーミングって……。
「森。恐竜、見る」
「恐竜! 危ない! 死ぬ!」
「死ぬ、ない。俺、強い。ハナも来い」
ハナは戸惑っていたようだが、俺の強さを知っているから最後には承諾した。
◇
森に足を踏み入れて何分経っただろう。恐竜の痕跡はあっという間に見つかった。
巨大な足跡。巨大な糞。大木に残る爪痕。ハナはそれらを見るたび怯えているようだったが、その度に抱きしめて落ち着かせた。
しかし恐竜は何故草原や海辺には来ないのだろう。ハナにも聞いたが、いわくご先祖様が火を駆使して追い払ったとか退治したとか。なるほど、恐竜の弱点は火……。かといって森の中で火は使えない。森林火災なんて起きたら最悪土壌も海も生命が死ぬ。なら出会った時どうするのか?
瞬間、辺りに鳥のような、猛獣の唸り声のような声が響き渡る。
視線の先にはティラノサウルスと思われる恐竜がいた。俺が死んだくらいの時の研究では走り回って獲物を捕るより待ち伏せして捕らえていたのではないかと言われていたが、確かにその通りであったようだ。あと毛がふさふさしている。これはこれで可愛い気もする。
小さい頃のロマンだったティラノサウルスに会えた感動は一割。実際に遭遇したら恐怖が九割。突撃してくるティラノサウルスを前に俺は呪文を唱えた。
『地下!』
ティラノサウルスから見たら何が起きたか分からなかっただろう。一瞬で人間二人が消えたのだから。
――実際は、魔法で地下に空間を作って、そこに移動しただけなんだけどな。天井はマジックミラーになっており、外からは地面にしか見えないが、こちらからは上がどうなっているかよく見える。
どすんどすんと地面に隠れているのではと思って地ならしするティラノサウルスが見える。
ハナは恐竜と出会った時点で恐怖のあまり放心状態だ。すぐ頭上で恐竜が暴れているのを見て、今にもここに落ちて来るのではないか怖がり必死で俺にしがみついている。
獲物に逃げられたティラノサウルスが暴れるのを見ながら、俺は冷静に観察していた。恐竜……捕らえたとしても持って帰るのが面倒だな。仲間が連れ去られたと思われて村にまで恐竜がやってきたら嫌だし。うんやっぱり今まで通り相互不可侵だな。実際に見られただけで満足しよう。
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