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〜必要と存在〜
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男は私の手を引いた。カウンターには1万円と300円が投げるように置かれた。
店の扉のベルが1番大きく響いた後、外のなんとも言えない空気が私達を包んだ。
店より綺麗な空気だが、思うように吸えない。
なぜか信じられる男の背中を見ながら、男の手の力が強くなるのを感じた。
ーーー ーーーーーー ー ー
しばらく歩いていた男が足を止めた。公園のベンチに座らせられる。
ベンチの後ろには一本の街灯が立っていた。店より彼の姿がよく分かる。
私は彼の瞳を見る。彼の瞳は当然のように私を捉えている。
彼が口を開いたと思うと、
「あなたの瞳にも俺が映っています。」 そうポツリと言う。
私はまた分かりやすく動揺する。 その間に、
「電話、鳴ってます。」と彼は私のカバンを瞳に映して、
またポツリと言うのだ。
彼は至って冷静で、思考の半分を彼に取られているのではと思う。
そう思いながら画面を触ると、久しぶりに見る彼氏の名前。ベンチから立って、男と距離をとる。
「もしもし、響? あ、どうしたの?こんな時間に、もう12時まわってるよ。めずら…え‥ひび、き?」
時間が止まるということはこういうことだ。
いつもは耳にも残らない街灯のジーと鳴るうなり音が耳の奥まで響いた。
耳を塞ぎたくなる内容と現実だと言わんばかりの彼氏の声が、うなり音から私を引き戻す。
「だから、別れようっていってんの。メールで終わらせようと思ったけど、
いつまでも既読、つかないから。 …ばいばい、有紀」
何かを失ったはずなのに、思考は止まったままで動けない。
私を必要としてくれる人がいなくなった。
それだけなのに。
それに、私は響を選んだ。代わりとして選んだ。
届かない思いも、承認欲求も、響が役割を果たしてくれるだろうと思った。
愛してはいなかった。
振られたうちにも入らないのに、どうしてこんなに動けないのだろうか。
私は、何に動けないのだろうか。
ー ーーー ーーー ー ーー ーー ー
鼻がツンとする匂いが微かにする。
後ろを振り返ると、ベンチであの男が煙草を吸っていた。
私は彼の元に戻った。
男は隣に座る私を見て、煙草の火を消そうとする。
私は、彼の腕を軽く掴んだ。
【火を消してしまったら、彼も消えるような気がしたから。】そんなドラマのようなことは思わなかった。
単純に、どうでも良くなったのだ。新しいことがしたくなった、ただそれだけ。
「そのまま、吸っててください。」
「煙草の煙は近くで吸い込むと健康に悪いですから。」
彼は、私の手をそっと離そうとする。 今度は本当に何かが消えるような気がした。失うような気がした。
「じゃあ、教えて下さい。タバコってどうやって吸うんですか?
もっと、健康に悪いことするから、大丈夫です。」
私はできるだけ微笑んで見せた。 彼の瞳が私を捉えたまま少し揺れた。
彼は少し困ったような顔をした後、
「俺は吸ってますけど、あなたはふかしてくださいね。 教えますから。」
スーツのポケットから箱を取り出し、体ごと私の方に向ける。
「肺まで届くように、吸ってはいけません。口に含むように軽く吸うんですよ。」
彼自身が吸っている煙草で実践してくれた。
私は素直に頷き、彼が差し出してくれたタバコを咥える。
彼は私のタバコに火をつけて、私が上手くふかせるようになるまで煙草を吸わなかった。
ようやく、彼が煙草を吸い始めた。彼の姿を横目で見ると、生身の人間だと深く感じた。
かっこよくもなんともなかった。
ただ、1人の人間の存在が、今の私にはとても重く、大きく感じた。
店の扉のベルが1番大きく響いた後、外のなんとも言えない空気が私達を包んだ。
店より綺麗な空気だが、思うように吸えない。
なぜか信じられる男の背中を見ながら、男の手の力が強くなるのを感じた。
ーーー ーーーーーー ー ー
しばらく歩いていた男が足を止めた。公園のベンチに座らせられる。
ベンチの後ろには一本の街灯が立っていた。店より彼の姿がよく分かる。
私は彼の瞳を見る。彼の瞳は当然のように私を捉えている。
彼が口を開いたと思うと、
「あなたの瞳にも俺が映っています。」 そうポツリと言う。
私はまた分かりやすく動揺する。 その間に、
「電話、鳴ってます。」と彼は私のカバンを瞳に映して、
またポツリと言うのだ。
彼は至って冷静で、思考の半分を彼に取られているのではと思う。
そう思いながら画面を触ると、久しぶりに見る彼氏の名前。ベンチから立って、男と距離をとる。
「もしもし、響? あ、どうしたの?こんな時間に、もう12時まわってるよ。めずら…え‥ひび、き?」
時間が止まるということはこういうことだ。
いつもは耳にも残らない街灯のジーと鳴るうなり音が耳の奥まで響いた。
耳を塞ぎたくなる内容と現実だと言わんばかりの彼氏の声が、うなり音から私を引き戻す。
「だから、別れようっていってんの。メールで終わらせようと思ったけど、
いつまでも既読、つかないから。 …ばいばい、有紀」
何かを失ったはずなのに、思考は止まったままで動けない。
私を必要としてくれる人がいなくなった。
それだけなのに。
それに、私は響を選んだ。代わりとして選んだ。
届かない思いも、承認欲求も、響が役割を果たしてくれるだろうと思った。
愛してはいなかった。
振られたうちにも入らないのに、どうしてこんなに動けないのだろうか。
私は、何に動けないのだろうか。
ー ーーー ーーー ー ーー ーー ー
鼻がツンとする匂いが微かにする。
後ろを振り返ると、ベンチであの男が煙草を吸っていた。
私は彼の元に戻った。
男は隣に座る私を見て、煙草の火を消そうとする。
私は、彼の腕を軽く掴んだ。
【火を消してしまったら、彼も消えるような気がしたから。】そんなドラマのようなことは思わなかった。
単純に、どうでも良くなったのだ。新しいことがしたくなった、ただそれだけ。
「そのまま、吸っててください。」
「煙草の煙は近くで吸い込むと健康に悪いですから。」
彼は、私の手をそっと離そうとする。 今度は本当に何かが消えるような気がした。失うような気がした。
「じゃあ、教えて下さい。タバコってどうやって吸うんですか?
もっと、健康に悪いことするから、大丈夫です。」
私はできるだけ微笑んで見せた。 彼の瞳が私を捉えたまま少し揺れた。
彼は少し困ったような顔をした後、
「俺は吸ってますけど、あなたはふかしてくださいね。 教えますから。」
スーツのポケットから箱を取り出し、体ごと私の方に向ける。
「肺まで届くように、吸ってはいけません。口に含むように軽く吸うんですよ。」
彼自身が吸っている煙草で実践してくれた。
私は素直に頷き、彼が差し出してくれたタバコを咥える。
彼は私のタバコに火をつけて、私が上手くふかせるようになるまで煙草を吸わなかった。
ようやく、彼が煙草を吸い始めた。彼の姿を横目で見ると、生身の人間だと深く感じた。
かっこよくもなんともなかった。
ただ、1人の人間の存在が、今の私にはとても重く、大きく感じた。
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