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〜背負うモノ 尋問か優しさか、逃げる私〜
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愛し合っていたはずだった。
罪な関係でも、お互いの弱さが分かっていたはずだった。
だから、日常の悲しさも、虚しさも、ストレスも全てあの男と共有しているつもりだった。
あの男に彼女がいても、
時間も体も心も共有した。
あの男に私の全てを見せた。彼女持ちの幼馴染をずっと想っていることも、
過去の忌まわしい出来事も、誰にも知られてはいけない秘密も、全て吐き出した。
頼れるものがそれしかないように、
狂ったように、共有した。
『綺麗ですよ。有紀、さん、』いつまでも敬語のままの彼が愛おしくて、
『もう、いいです。 好きに、してください』恋人のように彼を求めた。
でも、
あの夜、一瞬全てを失った気がした。
穏やかだった男の声が、血がついたドロっとしたナイフのように私を刺した。
私を映した彼の瞳は、私を捕らえる瞳に変わった。
ー ーーー ーーーーーー ーー ー ーー ー
少し、遅い朝だと思われる。中途半端な陽の光で目が覚める。
薄っすらと目を開けると、ここは自分の家の部屋で、ベッドの上だ。
体は重くて、脈打つようにこめかみ辺りが痛む。
その感覚は、私が向き合いたくない現実を見せつけようとしてるようだ。
昨日の夜は、あの2人と呑んで、蓮の前で吐いて…
そこまで思い出して、私はベッドから飛び起きる。
私の予想とは反して、部屋には誰も居ない。
お酒の缶もお菓子の袋も焼き鳥の棒もティッシュも全て綺麗にされている。
綺麗な机を見て感心していると、付箋を見つける。
〈今日の仕事は14時からね。持ち物は特になし。〉 蓮らしい。
男の中では丁寧な字だなと思いながら、
ふぅっと息を吐いて、ベランダへ。
ベランダの机にあるはずのモノがなくて、頭をひねる。
煙草もライターも、酒の瓶もコップもどこにいったのだろう。
部屋の中に戻ると、
綺麗に洗われたコップがキッチンに、
ゴミ袋の近くにひっそりと立つ瓶が目に入った。
ー ーーーー
重い息を吐いて、シャワーを浴びる。
全部を洗い流してくれれば、いいのに。
どの現実も覆りそうになくて、熱いシャワーをいっぱいに浴びた。
お風呂の鏡に映る私の体を、私は怖くて見れなかった。
会社に着くと廊下で蓮と優とすれ違い、
「よ、おはよ」 「おはよ」
いつもの挨拶。蓮はチームを引っ張るリーダ。 蓮のちょっかいを冷たくあしらう優。
そして、1年前からのルールで私の携帯は震える。
2人の目を盗んで、そっと階段裏にまわる。
「今日は、なんにもありません。 夜のあの店で会いましょう。
23時、ぐらいに待ってます。」
あの夜以来の男の声。
あの声は幻だと思いたくなるような穏やかな声だ。
驚きと戸惑いを抑えて、
「はい、わかりました。」と言う。
私だけがいつもどおりにならなくて、そっと頭をかかえた。
「有紀ー、蓮が呼んでるよ。会議室にいるから。広い方じゃなくて、あっちの小さい方の会議室ね。」
「‥あ、分かった。ありがと。優。」
昨日は猫のようにすぐ寝てしまったくせに、みじんも感じさせない優を見て、
やっぱり好きだなぁなんてぬるいことを思う。
狭い会議室に、スーツからも分かるすらっとした、そして、しっかりした長い脚。
そんな180cm以上の男が壁に寄りかかって立っている。
それだけで、圧迫感がすごい。
「どうしたの、何?(笑)」緊張を隠すように口元を緩ませたのが自分でも分かる。
蓮ははっきりとした瞳で私をじっと見つめる。
次に聞かれることは、だいだい分かる。 それでも、
蓮から瞳をそらして、沈黙を生む。
「タバコ、いつから?びっくりなんだけど。 昨日、すごかったし。
なんか、あったでしょ?」
言葉と声は核心を突いているが、まだ蓮の表情は柔らかい。
蓮にどう言えばいいのか。隠すことしか考えていない私は、どう答えても醜い。
何を感じ取ったのか、
「まぁ、別にいいけど。 1人で片付けるの大変だっただけだし。」と
意味のない感想を添える。
蓮は、一瞬の私の肩の下がりを見たのだろうか。
「でも、ホントになんか、あったよね。言えないの? そんなもんだっけ、俺ら。」
瞳を鋭くし、語気を強める蓮がいる。
「いやっ、そういうわけじゃっ」
淀んだ雰囲気に近づきそうな時、
ガチャっと会議室の扉が開く。
罪な関係でも、お互いの弱さが分かっていたはずだった。
だから、日常の悲しさも、虚しさも、ストレスも全てあの男と共有しているつもりだった。
あの男に彼女がいても、
時間も体も心も共有した。
あの男に私の全てを見せた。彼女持ちの幼馴染をずっと想っていることも、
過去の忌まわしい出来事も、誰にも知られてはいけない秘密も、全て吐き出した。
頼れるものがそれしかないように、
狂ったように、共有した。
『綺麗ですよ。有紀、さん、』いつまでも敬語のままの彼が愛おしくて、
『もう、いいです。 好きに、してください』恋人のように彼を求めた。
でも、
あの夜、一瞬全てを失った気がした。
穏やかだった男の声が、血がついたドロっとしたナイフのように私を刺した。
私を映した彼の瞳は、私を捕らえる瞳に変わった。
ー ーーー ーーーーーー ーー ー ーー ー
少し、遅い朝だと思われる。中途半端な陽の光で目が覚める。
薄っすらと目を開けると、ここは自分の家の部屋で、ベッドの上だ。
体は重くて、脈打つようにこめかみ辺りが痛む。
その感覚は、私が向き合いたくない現実を見せつけようとしてるようだ。
昨日の夜は、あの2人と呑んで、蓮の前で吐いて…
そこまで思い出して、私はベッドから飛び起きる。
私の予想とは反して、部屋には誰も居ない。
お酒の缶もお菓子の袋も焼き鳥の棒もティッシュも全て綺麗にされている。
綺麗な机を見て感心していると、付箋を見つける。
〈今日の仕事は14時からね。持ち物は特になし。〉 蓮らしい。
男の中では丁寧な字だなと思いながら、
ふぅっと息を吐いて、ベランダへ。
ベランダの机にあるはずのモノがなくて、頭をひねる。
煙草もライターも、酒の瓶もコップもどこにいったのだろう。
部屋の中に戻ると、
綺麗に洗われたコップがキッチンに、
ゴミ袋の近くにひっそりと立つ瓶が目に入った。
ー ーーーー
重い息を吐いて、シャワーを浴びる。
全部を洗い流してくれれば、いいのに。
どの現実も覆りそうになくて、熱いシャワーをいっぱいに浴びた。
お風呂の鏡に映る私の体を、私は怖くて見れなかった。
会社に着くと廊下で蓮と優とすれ違い、
「よ、おはよ」 「おはよ」
いつもの挨拶。蓮はチームを引っ張るリーダ。 蓮のちょっかいを冷たくあしらう優。
そして、1年前からのルールで私の携帯は震える。
2人の目を盗んで、そっと階段裏にまわる。
「今日は、なんにもありません。 夜のあの店で会いましょう。
23時、ぐらいに待ってます。」
あの夜以来の男の声。
あの声は幻だと思いたくなるような穏やかな声だ。
驚きと戸惑いを抑えて、
「はい、わかりました。」と言う。
私だけがいつもどおりにならなくて、そっと頭をかかえた。
「有紀ー、蓮が呼んでるよ。会議室にいるから。広い方じゃなくて、あっちの小さい方の会議室ね。」
「‥あ、分かった。ありがと。優。」
昨日は猫のようにすぐ寝てしまったくせに、みじんも感じさせない優を見て、
やっぱり好きだなぁなんてぬるいことを思う。
狭い会議室に、スーツからも分かるすらっとした、そして、しっかりした長い脚。
そんな180cm以上の男が壁に寄りかかって立っている。
それだけで、圧迫感がすごい。
「どうしたの、何?(笑)」緊張を隠すように口元を緩ませたのが自分でも分かる。
蓮ははっきりとした瞳で私をじっと見つめる。
次に聞かれることは、だいだい分かる。 それでも、
蓮から瞳をそらして、沈黙を生む。
「タバコ、いつから?びっくりなんだけど。 昨日、すごかったし。
なんか、あったでしょ?」
言葉と声は核心を突いているが、まだ蓮の表情は柔らかい。
蓮にどう言えばいいのか。隠すことしか考えていない私は、どう答えても醜い。
何を感じ取ったのか、
「まぁ、別にいいけど。 1人で片付けるの大変だっただけだし。」と
意味のない感想を添える。
蓮は、一瞬の私の肩の下がりを見たのだろうか。
「でも、ホントになんか、あったよね。言えないの? そんなもんだっけ、俺ら。」
瞳を鋭くし、語気を強める蓮がいる。
「いやっ、そういうわけじゃっ」
淀んだ雰囲気に近づきそうな時、
ガチャっと会議室の扉が開く。
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