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21.シャム=グレイシャル
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「え? やだよ? なんで、アタシがアンタ達と行かなきゃいけないんだい?」
『大旋風』と揶揄される、褐色の肌に紫色の髪、そして、白と赤のビキニアーマーを身にまとう女戦士『シャム=グレイシャル』は、正面に座るグレイとルナに対して、怪訝そうに答えた。
遡ること一時間前、グレイとルナはシャムの出待ちをするため、闘技場の選手出口にいた。
「本当にあの方をお誘いするのですか? 確かにすごい大きな斧を振り回していましたけど、相手にかすりもしなかった様でしたよ?」
シャムを仲間にすると言ったグレイに対して、ルナは不安そうに話しかける。そんなルナに対しグレイは答えた。
「理由は2つだ」
「2つ?」
「ああ……1つ目は、もちろんあの力だ」
「でもあの命中率では……」
「俺達は1対1で魔物と戦うわけじゃない。連携次第であの力を生かすことも殺すことも俺達次第だ」
確かに一理ある……とルナは思った。確かに銃でけん制した敵にあの一撃を加えてくれれば大抵の魔物は撃破出来そうな気がする。
「それじゃあもう一つは?」
「……それはアイツがこの闘技場の弱者だからだ。この闘技場で成功しているならまだしも、ああやって敗北を重ねているのであれば、闘技者をやめることに未練は少ないだろう」
グレイは胸を張って答える。
「人の弱みに付け込むなんて……。なんだか悪人みたいですね」
「交渉術だよ!……とにかく、俺達の立場を考えるとかなりの優良物件だ。あんたが声をかけてきた奴らよりかは話を聞いてくれると思うぜ」
『話を聞く』と控えめに言いながらもグレイは内心、シャムを仲間に出来ること半場確信していた。
時は再び現在。シャムに声をかけ、酒を奢るからとシャムを酒場に連れ込んだ二人は、早速、仲間になることを持ちかけた。その結果が冒頭の回答である。
「な、なんでだよ? そんなに闘技場が好きなのか?」
目算が狂ったグレイは焦って質問をする。
「いや、そもそも『渡り鳥』になるんだったら、今とそんなに変わらないじゃないか。それにアンタ達だって、そんなに強くないだろう? アタシがアンタ達と行って何のメリットがあるんだい?」
『おっしゃる通りだ』グレイは内心、痛いところを突かれたと思った。元々、心の奥底ではわかっていたのだ。今の自分たちの仲間になるメリットなどほとんどない。
シエルがいた頃とは違い、自分はただの『渡り鳥』。その日暮らしの放浪者だ。ルナも育ちはよさそうだが、今の状況ではそう変わらない。見ず知らずのただの渡り鳥に誰がついて来るのだろうか。
二つ返事で受ける者がいたら、それはよほど酔狂な者か、グレイ達を騙して利用するだめに近づく悪人に違いない。グレイはルナの交渉力を馬鹿にしていた自分を恥じた。そんなグレイを見てシャムは優しく語りかけてきた。
「ま、アンタ達、悪い奴らには見えそうも無いし、困ってそうだから、力になってやりたい気持ちはあるんだけどね。アタシもやらなきゃならないことがあるからね」
「やらなきゃならないこと?」
ルナがシャムに聞き返す。
「ああ。アタシには母親と弟達がいてね。ここから馬車で三日くらいのところにある村に住んでるんだ。闘技者は負け続きでも試合後に生きていたらある程度のファイトマネーが貰える。それで定期的に食い物を買って帰るのが、長女のアタシの役目さ」
グレイはよくある話だな。と思って聞いていた。大きな町から離れた村に住む者たちは大抵貧困に喘いでいる。そのため、このシャムの様に出稼ぎに来ている者は多い。シャムはその膂力があるだけまだましなのかもしれない。女であれば自身の体を売る者の方が圧倒的に多いはずだ。
「こ、このお金も足しにしてください!」
だが、ルナには違った様だ。シャムの話を聞いて、瞳の恥には涙を浮かべている。
(世間ずれにもほどがあるだろう……)
グレイはルナの行動に頭を抱えた。
「あッはッは! 大丈夫だよ。今回、持って帰る分の金はもう集まったからね。気持ちだけ受け取っておくよ。それに……」
シャムは言葉を止めると机にある酒の入っていたコップを掲げた。
「酒なんて久しぶりに飲んだからね。これだけでアタシには十分すぎるさ」
そう言ってコップをゆっくり卸し、立ち上がった。
「それじゃあ、ごちそうさん。明日は買い物をして村に帰る日だからね。ここらで失礼するよ」
出口に向かって数歩歩いたシャムは立ち止って振り返った。
「一緒には行けないけど、声をかけてくれたのは嬉しかったよ。アンタ達も頑張んな。それじゃあね」
それだけ言うとシャムは酒場を後にした。
「なんか、気持ちの良い人でしたね」
「そうだな」
断られはしたけど、悪い気はしなかった。
その後、食事を済ませたグレイとルナは酒場を後にして宿に向かって歩いていた。
「これからどうしましょうか?」
「そう……だな」
二人でまた雲海に出るのは無謀だ。だが、仲間の当ては無い。完全ではないが、詰みつつある状況だった。そう思案していたその時だった。
「きゃあ‼」
隣のルナが小さく叫ぶ。
「どうした⁉」
「ひ、人……」
通りの路地裏に人が倒れていた。大急ぎで近づき様子を確認する。
(どこかで見たことがある?)
倒れている女性の姿を確認し、グレイとルナは息を飲んだ。
「シャ、シャム⁈」
倒れていたのは、先ほど酒場で一緒だったシャム=グレイシャル、その人だった。
『大旋風』と揶揄される、褐色の肌に紫色の髪、そして、白と赤のビキニアーマーを身にまとう女戦士『シャム=グレイシャル』は、正面に座るグレイとルナに対して、怪訝そうに答えた。
遡ること一時間前、グレイとルナはシャムの出待ちをするため、闘技場の選手出口にいた。
「本当にあの方をお誘いするのですか? 確かにすごい大きな斧を振り回していましたけど、相手にかすりもしなかった様でしたよ?」
シャムを仲間にすると言ったグレイに対して、ルナは不安そうに話しかける。そんなルナに対しグレイは答えた。
「理由は2つだ」
「2つ?」
「ああ……1つ目は、もちろんあの力だ」
「でもあの命中率では……」
「俺達は1対1で魔物と戦うわけじゃない。連携次第であの力を生かすことも殺すことも俺達次第だ」
確かに一理ある……とルナは思った。確かに銃でけん制した敵にあの一撃を加えてくれれば大抵の魔物は撃破出来そうな気がする。
「それじゃあもう一つは?」
「……それはアイツがこの闘技場の弱者だからだ。この闘技場で成功しているならまだしも、ああやって敗北を重ねているのであれば、闘技者をやめることに未練は少ないだろう」
グレイは胸を張って答える。
「人の弱みに付け込むなんて……。なんだか悪人みたいですね」
「交渉術だよ!……とにかく、俺達の立場を考えるとかなりの優良物件だ。あんたが声をかけてきた奴らよりかは話を聞いてくれると思うぜ」
『話を聞く』と控えめに言いながらもグレイは内心、シャムを仲間に出来ること半場確信していた。
時は再び現在。シャムに声をかけ、酒を奢るからとシャムを酒場に連れ込んだ二人は、早速、仲間になることを持ちかけた。その結果が冒頭の回答である。
「な、なんでだよ? そんなに闘技場が好きなのか?」
目算が狂ったグレイは焦って質問をする。
「いや、そもそも『渡り鳥』になるんだったら、今とそんなに変わらないじゃないか。それにアンタ達だって、そんなに強くないだろう? アタシがアンタ達と行って何のメリットがあるんだい?」
『おっしゃる通りだ』グレイは内心、痛いところを突かれたと思った。元々、心の奥底ではわかっていたのだ。今の自分たちの仲間になるメリットなどほとんどない。
シエルがいた頃とは違い、自分はただの『渡り鳥』。その日暮らしの放浪者だ。ルナも育ちはよさそうだが、今の状況ではそう変わらない。見ず知らずのただの渡り鳥に誰がついて来るのだろうか。
二つ返事で受ける者がいたら、それはよほど酔狂な者か、グレイ達を騙して利用するだめに近づく悪人に違いない。グレイはルナの交渉力を馬鹿にしていた自分を恥じた。そんなグレイを見てシャムは優しく語りかけてきた。
「ま、アンタ達、悪い奴らには見えそうも無いし、困ってそうだから、力になってやりたい気持ちはあるんだけどね。アタシもやらなきゃならないことがあるからね」
「やらなきゃならないこと?」
ルナがシャムに聞き返す。
「ああ。アタシには母親と弟達がいてね。ここから馬車で三日くらいのところにある村に住んでるんだ。闘技者は負け続きでも試合後に生きていたらある程度のファイトマネーが貰える。それで定期的に食い物を買って帰るのが、長女のアタシの役目さ」
グレイはよくある話だな。と思って聞いていた。大きな町から離れた村に住む者たちは大抵貧困に喘いでいる。そのため、このシャムの様に出稼ぎに来ている者は多い。シャムはその膂力があるだけまだましなのかもしれない。女であれば自身の体を売る者の方が圧倒的に多いはずだ。
「こ、このお金も足しにしてください!」
だが、ルナには違った様だ。シャムの話を聞いて、瞳の恥には涙を浮かべている。
(世間ずれにもほどがあるだろう……)
グレイはルナの行動に頭を抱えた。
「あッはッは! 大丈夫だよ。今回、持って帰る分の金はもう集まったからね。気持ちだけ受け取っておくよ。それに……」
シャムは言葉を止めると机にある酒の入っていたコップを掲げた。
「酒なんて久しぶりに飲んだからね。これだけでアタシには十分すぎるさ」
そう言ってコップをゆっくり卸し、立ち上がった。
「それじゃあ、ごちそうさん。明日は買い物をして村に帰る日だからね。ここらで失礼するよ」
出口に向かって数歩歩いたシャムは立ち止って振り返った。
「一緒には行けないけど、声をかけてくれたのは嬉しかったよ。アンタ達も頑張んな。それじゃあね」
それだけ言うとシャムは酒場を後にした。
「なんか、気持ちの良い人でしたね」
「そうだな」
断られはしたけど、悪い気はしなかった。
その後、食事を済ませたグレイとルナは酒場を後にして宿に向かって歩いていた。
「これからどうしましょうか?」
「そう……だな」
二人でまた雲海に出るのは無謀だ。だが、仲間の当ては無い。完全ではないが、詰みつつある状況だった。そう思案していたその時だった。
「きゃあ‼」
隣のルナが小さく叫ぶ。
「どうした⁉」
「ひ、人……」
通りの路地裏に人が倒れていた。大急ぎで近づき様子を確認する。
(どこかで見たことがある?)
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