2 / 246
【第1話】初めましてと懐かしのミルク粥
【1-2】
しおりを挟む
今まで対峙したことがないくらいの美形に真正面から見つめられて、ついたじろいでしまう。そんな僕の反応を怯えと捉えたのか、紅いイケメンは目に見えてしょんぼりと肩を落とした。僕は慌てて首を振る。
「いや、あの……、あなたを怖がっているわけじゃないんです。ただ、この状況が分からなくて戸惑っているというか……、僕は電車に轢かれるか飛ばされるかしたはずなんですけど、どうして此処に……?」
「……デンシャ?」
イケメンは困ったように首を傾げた。
「ああ……、申し訳ありません。言葉の翻訳は完全ではなくて、双方が理解できないものもあるのです。その法則はよく分からないのですが、おそらくは片方の世界にしか存在していないものについては自動的に訳されないのではないか、と。まぁ、それも絶対というわけではないのですが」
「片方の世界? ……国が違う、ということですか?」
「いえ、国どころか、少なくとも星が違います。ともすれば、どの宇宙かも異なりますね。私の召喚が失敗していなければ、貴方は元々アースという星にいらしたのでは?」
「アース……、地球ってことなら、まぁ、確かに……?」
「チキュウ……、前任者もその前もアースと呼んでいたのですが、なるほど、貴方とは言語圏が異なるのでしょうか。同一の物に複数の呼称があるというのは、どの世界線で捉えても面白いものですね」
──何を言ってるんだろう、この人。
冗談を言っているようにも、何かしらの台本を読み上げているようにも思えない。でも、彼が語る内容が現実的だとも思えない。
どうしたらいいのか分からず黙りこくる僕を見て何を考えたのか、イケメンは唐突にパチンと指を鳴らした。すると、暗闇の奥から椅子がスライドして近づいてくる。──えっ? どういう仕組み? 紐がついているようには見えないけど、電動……?
「やはり、魔法は珍しいですか?」
「ま、魔法……?」
「主に会っていただく前に、少し話をしましょう。この世界の詳細は追々お話するとしても、まずは貴方に現状をご理解いただく必要がある」
そう言って、彼は滑ってきた椅子へ優雅に腰掛け、驚くくらい長い脚をゆったりと組んだ。
「私は、カマルティユと申します」
「カ、カマゥ……?」
「カマルティユ。やはり、アース……、いえ、貴方はチキュウと呼んでいらっしゃるのでしたか。いずれにせよ、そちらの人々には馴染みのない名前なのでしょうね。どうぞ、カミュとお呼びください。前任者も、その前の方も、そのほうが馴染みのある響きで呼びやすいからとそう呼んでくださいました」
「カミュさん……」
確かに、カマルなんとかという名前よりは耳馴染みが良いけれど、身近というわけでもない。カミュってフランス人に多い名前だった気がするけど、前任者とやらは、その辺の国の人だったのかな。地球をアースと呼んでいたらしいから、英語圏の人かもしれない。少なくとも、日本人じゃなさそうだ。そもそも、前任者って何の前任者なのかが謎だけれど。
「敬称はいりません。それに、丁寧にお話していただく必要もありません」
「えっ……、でも、相手が敬語なのに自分だけタメ口っていうのは……」
「タメグチ?」
「あっ、えぇと……、気安い間柄での話し方というか」
「ああ、素晴らしいですね! ぜひ、友人や家族と話すようにしてほしいです。今から説明しますが、これから長いお付き合いになりますので。ね?」
「は、はぁ……」
ぎこちない返答になってしまったのは、相手の話に戸惑っているからじゃない。「友人や家族」という言葉に、少し微妙な心境になってしまっただけだ。
そんな僕の態度をどう思ったのか、カミュは美麗な眉を心配そうに寄せる。奇抜な外見だけど、優しい人なんだろう。彼を安心させるためにも、僕は笑って首を振ってみせた。
「分かったよ、カミュ。……これでいい?」
「ええ、嬉しいです。ちなみに、私は相手が目上であっても目下であっても、どれだけ親しくとも、この話し方ですので」
「そうなんだ。うん、分かった」
「ありがとうございます。……ところで、貴方のお名前をお聞きしても?」
「あっ、うん。……中水上海風」
「ん……? カミカミ……? 失礼ですが、もう一度お願いできますか」
「海風でいいよ」
「ミカさん……、でよろしいと?」
「うん」
日本人同士でも、僕の名前は呼びにくいだろう。海風というのは元々、中水上という苗字に合わせるつもりでつけられたわけじゃない。紆余曲折あって、こんな妙な姓名になってしまったわけだけれど、この名は僕のせいじゃないというのに苛められたこともあったっけ。……まぁ、それももう何年も前のことだけど。
「ミカさん。早速、本題に入ります」
「う、うん」
カミュの改まった声につられるように、僕も背筋を伸ばす。よく見れば、僕が寝かされているのは大きくて豪華なベッドで、布団も物凄くふかふかだから背を伸ばしたまま座り続けるのはちょっとしんどいかもしれない。
体勢を気にしてもぞもぞする僕をまっすぐに見つめて、カミュは真剣に言った。
「ミカさん。貴方は、元の世界ではお亡くなりになりました。同じ頃、私は条件をつけて異世界の魂を探していて、その条件を持っていた貴方の魂を此方へ転生させたのです」
「いや、あの……、あなたを怖がっているわけじゃないんです。ただ、この状況が分からなくて戸惑っているというか……、僕は電車に轢かれるか飛ばされるかしたはずなんですけど、どうして此処に……?」
「……デンシャ?」
イケメンは困ったように首を傾げた。
「ああ……、申し訳ありません。言葉の翻訳は完全ではなくて、双方が理解できないものもあるのです。その法則はよく分からないのですが、おそらくは片方の世界にしか存在していないものについては自動的に訳されないのではないか、と。まぁ、それも絶対というわけではないのですが」
「片方の世界? ……国が違う、ということですか?」
「いえ、国どころか、少なくとも星が違います。ともすれば、どの宇宙かも異なりますね。私の召喚が失敗していなければ、貴方は元々アースという星にいらしたのでは?」
「アース……、地球ってことなら、まぁ、確かに……?」
「チキュウ……、前任者もその前もアースと呼んでいたのですが、なるほど、貴方とは言語圏が異なるのでしょうか。同一の物に複数の呼称があるというのは、どの世界線で捉えても面白いものですね」
──何を言ってるんだろう、この人。
冗談を言っているようにも、何かしらの台本を読み上げているようにも思えない。でも、彼が語る内容が現実的だとも思えない。
どうしたらいいのか分からず黙りこくる僕を見て何を考えたのか、イケメンは唐突にパチンと指を鳴らした。すると、暗闇の奥から椅子がスライドして近づいてくる。──えっ? どういう仕組み? 紐がついているようには見えないけど、電動……?
「やはり、魔法は珍しいですか?」
「ま、魔法……?」
「主に会っていただく前に、少し話をしましょう。この世界の詳細は追々お話するとしても、まずは貴方に現状をご理解いただく必要がある」
そう言って、彼は滑ってきた椅子へ優雅に腰掛け、驚くくらい長い脚をゆったりと組んだ。
「私は、カマルティユと申します」
「カ、カマゥ……?」
「カマルティユ。やはり、アース……、いえ、貴方はチキュウと呼んでいらっしゃるのでしたか。いずれにせよ、そちらの人々には馴染みのない名前なのでしょうね。どうぞ、カミュとお呼びください。前任者も、その前の方も、そのほうが馴染みのある響きで呼びやすいからとそう呼んでくださいました」
「カミュさん……」
確かに、カマルなんとかという名前よりは耳馴染みが良いけれど、身近というわけでもない。カミュってフランス人に多い名前だった気がするけど、前任者とやらは、その辺の国の人だったのかな。地球をアースと呼んでいたらしいから、英語圏の人かもしれない。少なくとも、日本人じゃなさそうだ。そもそも、前任者って何の前任者なのかが謎だけれど。
「敬称はいりません。それに、丁寧にお話していただく必要もありません」
「えっ……、でも、相手が敬語なのに自分だけタメ口っていうのは……」
「タメグチ?」
「あっ、えぇと……、気安い間柄での話し方というか」
「ああ、素晴らしいですね! ぜひ、友人や家族と話すようにしてほしいです。今から説明しますが、これから長いお付き合いになりますので。ね?」
「は、はぁ……」
ぎこちない返答になってしまったのは、相手の話に戸惑っているからじゃない。「友人や家族」という言葉に、少し微妙な心境になってしまっただけだ。
そんな僕の態度をどう思ったのか、カミュは美麗な眉を心配そうに寄せる。奇抜な外見だけど、優しい人なんだろう。彼を安心させるためにも、僕は笑って首を振ってみせた。
「分かったよ、カミュ。……これでいい?」
「ええ、嬉しいです。ちなみに、私は相手が目上であっても目下であっても、どれだけ親しくとも、この話し方ですので」
「そうなんだ。うん、分かった」
「ありがとうございます。……ところで、貴方のお名前をお聞きしても?」
「あっ、うん。……中水上海風」
「ん……? カミカミ……? 失礼ですが、もう一度お願いできますか」
「海風でいいよ」
「ミカさん……、でよろしいと?」
「うん」
日本人同士でも、僕の名前は呼びにくいだろう。海風というのは元々、中水上という苗字に合わせるつもりでつけられたわけじゃない。紆余曲折あって、こんな妙な姓名になってしまったわけだけれど、この名は僕のせいじゃないというのに苛められたこともあったっけ。……まぁ、それももう何年も前のことだけど。
「ミカさん。早速、本題に入ります」
「う、うん」
カミュの改まった声につられるように、僕も背筋を伸ばす。よく見れば、僕が寝かされているのは大きくて豪華なベッドで、布団も物凄くふかふかだから背を伸ばしたまま座り続けるのはちょっとしんどいかもしれない。
体勢を気にしてもぞもぞする僕をまっすぐに見つめて、カミュは真剣に言った。
「ミカさん。貴方は、元の世界ではお亡くなりになりました。同じ頃、私は条件をつけて異世界の魂を探していて、その条件を持っていた貴方の魂を此方へ転生させたのです」
2
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる