魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第1話】初めましてと懐かしのミルク粥

【1-2】

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 今まで対峙したことがないくらいの美形に真正面から見つめられて、ついたじろいでしまう。そんな僕の反応を怯えと捉えたのか、紅いイケメンは目に見えてしょんぼりと肩を落とした。僕は慌てて首を振る。

「いや、あの……、あなたを怖がっているわけじゃないんです。ただ、この状況が分からなくて戸惑っているというか……、僕は電車に轢かれるか飛ばされるかしたはずなんですけど、どうして此処に……?」
「……デンシャ?」

 イケメンは困ったように首を傾げた。

「ああ……、申し訳ありません。言葉の翻訳は完全ではなくて、双方が理解できないものもあるのです。その法則はよく分からないのですが、おそらくは片方の世界にしか存在していないものについては自動的に訳されないのではないか、と。まぁ、それも絶対というわけではないのですが」
「片方の世界? ……国が違う、ということですか?」
「いえ、国どころか、少なくとも星が違います。ともすれば、どの宇宙かも異なりますね。私の召喚が失敗していなければ、貴方は元々アースという星にいらしたのでは?」
「アース……、地球ってことなら、まぁ、確かに……?」
「チキュウ……、前任者もその前もアースと呼んでいたのですが、なるほど、貴方とは言語圏が異なるのでしょうか。同一の物に複数の呼称があるというのは、どの世界線で捉えても面白いものですね」

 ──何を言ってるんだろう、この人。
 冗談を言っているようにも、何かしらの台本を読み上げているようにも思えない。でも、彼が語る内容が現実的だとも思えない。

 どうしたらいいのか分からず黙りこくる僕を見て何を考えたのか、イケメンは唐突にパチンと指を鳴らした。すると、暗闇の奥から椅子がスライドして近づいてくる。──えっ? どういう仕組み? 紐がついているようには見えないけど、電動……?

「やはり、魔法は珍しいですか?」
「ま、魔法……?」
「主に会っていただく前に、少し話をしましょう。この世界の詳細は追々お話するとしても、まずは貴方に現状をご理解いただく必要がある」

 そう言って、彼は滑ってきた椅子へ優雅に腰掛け、驚くくらい長い脚をゆったりと組んだ。

「私は、カマルティユと申します」
「カ、カマゥ……?」
「カマルティユ。やはり、アース……、いえ、貴方はチキュウと呼んでいらっしゃるのでしたか。いずれにせよ、そちらの人々には馴染みのない名前なのでしょうね。どうぞ、カミュとお呼びください。前任者も、その前の方も、そのほうが馴染みのある響きで呼びやすいからとそう呼んでくださいました」
「カミュさん……」

 確かに、カマルなんとかという名前よりは耳馴染みが良いけれど、身近というわけでもない。カミュってフランス人に多い名前だった気がするけど、前任者とやらは、その辺の国の人だったのかな。地球をアースと呼んでいたらしいから、英語圏の人かもしれない。少なくとも、日本人じゃなさそうだ。そもそも、前任者って何の前任者なのかが謎だけれど。

「敬称はいりません。それに、丁寧にお話していただく必要もありません」
「えっ……、でも、相手が敬語なのに自分だけタメ口っていうのは……」
「タメグチ?」
「あっ、えぇと……、気安い間柄での話し方というか」
「ああ、素晴らしいですね! ぜひ、友人や家族と話すようにしてほしいです。今から説明しますが、これから長いお付き合いになりますので。ね?」
「は、はぁ……」

 ぎこちない返答になってしまったのは、相手の話に戸惑っているからじゃない。「友人や家族」という言葉に、少し微妙な心境になってしまっただけだ。
 そんな僕の態度をどう思ったのか、カミュは美麗な眉を心配そうに寄せる。奇抜な外見だけど、優しい人なんだろう。彼を安心させるためにも、僕は笑って首を振ってみせた。

「分かったよ、カミュ。……これでいい?」
「ええ、嬉しいです。ちなみに、私は相手が目上であっても目下であっても、どれだけ親しくとも、この話し方ですので」
「そうなんだ。うん、分かった」
「ありがとうございます。……ところで、貴方のお名前をお聞きしても?」
「あっ、うん。……中水上なかみかみ海風みか
「ん……? カミカミ……? 失礼ですが、もう一度お願いできますか」
「海風でいいよ」
「ミカさん……、でよろしいと?」
「うん」

 日本人同士でも、僕の名前は呼びにくいだろう。海風というのは元々、中水上という苗字に合わせるつもりでつけられたわけじゃない。紆余曲折あって、こんな妙な姓名になってしまったわけだけれど、この名は僕のせいじゃないというのに苛められたこともあったっけ。……まぁ、それももう何年も前のことだけど。

「ミカさん。早速、本題に入ります」
「う、うん」

 カミュの改まった声につられるように、僕も背筋を伸ばす。よく見れば、僕が寝かされているのは大きくて豪華なベッドで、布団も物凄くふかふかだから背を伸ばしたまま座り続けるのはちょっとしんどいかもしれない。
 体勢を気にしてもぞもぞする僕をまっすぐに見つめて、カミュは真剣に言った。

「ミカさん。貴方は、元の世界ではお亡くなりになりました。同じ頃、私は条件をつけて異世界の魂を探していて、その条件を持っていた貴方の魂を此方へ転生させたのです」
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