魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
3 / 246
【第1話】初めましてと懐かしのミルク粥

【1-3】

しおりを挟む
 ──転生?
 生まれ変わり、っていうことだろうか。

「やはり、アースことチキュウの方々は、自分たちの星にしか生命体は存在しないと思っておられるのですね。──宇宙の造りは複雑でしてね、宇宙自体がいくつもありますし、生命体が存在している星が複数ある宇宙もいくつかあります。それぞれの星の住人同士で交流がある場合も、無い場合もある。そして、それぞれ生命体の交流がある範囲をひとつの『世界』とみなしています。星ひとつで『世界』のこともあれば、複数の星あるいは宇宙規模で『世界』となることもあります。そして、貴方が生きていたチキュウと、此処は異なる世界です。……お分かりいただけていますでしょうか?」
「地球と、僕が今いる此処は、少なくとも違う星……ということだよね?」
「ええ、素晴らしい! ミカさんは理解力が高いのですね。話が早くて、助かります。ちなみに、此処はディデーレという星のプレカシオン王国の中にある魔王の城です」
「……なんだって?」

 異世界がどうのという話だって、思考が追い付くかどうか怪しいのに、「魔王」という単語が飛び出てますます混乱してくる。あまりにもファンタジーすぎないか?

「貴方にとって突飛な話であることは、私も理解しています。ですが、端的に事実だけを述べれば、私は異世界で死んだばかりの貴方の魂を此処へ転生させました。魔王の食事係として」
「……魔王の食事係?」
「はい。私が転生させる魂を選別するための条件として設定したのは、亡くなった時点で生前の人生に未練が無く、天涯孤独で、料理が好きなアースの人の魂。……ミカさんは、この条件枠に当てはまりますか?」
「まぁ、当てはまるかな……、ただ、料理が好きって言っても、凝ったものは作れないけど」
「いえ、そこは問題ではありません。……そうですか。当てはまるのですね」

 カミュは哀しげに目を伏せた後、慈愛に満ちた眼差しを僕へ向けてきた。

「ミカさんは、大変お若いとお見受けしますが、何年生きていらしたんですか?」
「二十年だよ」
「おや……、思っていたより長い。けれど、やはり大変お若いですね。それで、何の未練も無くお亡くなりになったと? ……本当に?」

 「食事係」と自身の料理スキルの釣り合いが気になる僕とは違い、カミュは僕が彼の条件枠に本当に収まっているのかが引っ掛かっているらしい。

「未練は無かったよ、本当に。僕は訳あって天涯孤独の身だったし、将来の夢とか目標も特に無かったし。……まぁ、流石に知らない人から突き飛ばされて巻き込まれた事故で死ぬことになるとは思わなかったし、死ぬ直前に自分の手作りのごはんを誰かに食べてみてほしかったな、くらいは考えたけど」
「……手料理を振る舞う相手がいらっしゃらなかった、と?」
「うん。友達も恋人もいなかったし、家族もいなかったから。ごはんを作るのは好きだったけど、いつもそれを自分で食べるだけ。いつか誰かに食べてもらえる機会があればいいな、ってぼんやり考えることはあったかな。でも、それだって未練と言うほどじゃないから」

 特殊な環境で生きてきた僕は人と繋がるのが下手で、家に誰かを招いたり招かれたりする機会なんか無かった。いつか誰かと温かい家庭を作れたらいいなとぼんやり夢見つつ、だからといって恋愛したいって強く考えたこともないから結婚とは縁遠そうな気がしていた。その程度の、未練にもならないくらいの気持ちだ。

「なるほど……、だから私は、貴方の魂を呼び寄せてしまったのですね」
「……やっぱり、転生っていうのは本当のことなの?」
「はい。信じがたいでしょうが、貴方は魔の者である私がこの世界に転生させたのです。魔王の食事を用意するしもべとして」
「しもべ……。というか、しもべは分かるけど、まのものって何?」
「種族です。……まぁ、人間からは悪魔と呼ばれておりますが」

 悪魔。──そう聞かされて、つい彼の翼を見てしまう。確かに、この黒い蝙蝠羽は、僕が持つ悪魔というイメージ通りと云えなくもないかもしれない。
 カミュの言葉を信じるなら此処は魔王の居城らしいし、悪魔がいてもおかしくはないのかな。非現実的だけれど。ただ、目の前にいる紅髪の美男がいかにも悪魔らしいかと問われれば、首を傾げるしかない。
 僕の視線をどう捉えたのか、カミュはしゅんと項垂れた。

「人間にとって悪魔が悪い印象の存在であると理解しています。……ミカさんも、お嫌い?」
「うーん……、好き嫌いで考えたことはないからなぁ……、悪魔なんて架空の存在だと思ってたし」
「アースもといチキュウでは、悪魔は空想上の生物だそうですね。けれど、人間を悪しき道へ誘惑したり、災いを招く存在と言われているのでしょう? 魔の者は、まさにそういった存在です。人間にとっては恐ろしい相手でしょうね」
「……カミュも、そういうことをするの?」
「今はしていません。誓って、ミカさんへ手を出したりしませんし、主へ危害を加えようとする相手以外を返り討ちにしたりもいたしません。……ただ、大昔は私もただの『魔の者』でしたから。恥ではありますが、汚点となる行為が多々あったことは認めます」

 つまり、過去には悪魔らしい行為をしていたけれど、今は足を洗った──ってことなのかな。
 悔しそうに俯いていたカミュは、再び僕をまっすぐに見つめてくる。

「ミカさん、話を戻します。貴方は、魔王の食事を用意する係として、悪魔である私が魂を召喚し、この世界へ転生していただきました。……まず、ここまでの話を信じていただけますか?」
「えっ、……えぇと」

 魔王だの悪魔だのにわかには信じられない話だけれど、死後の世界だと思えなくもない……かもしれない。いずれにせよ、電車が到着する直前の線路内へ突き飛ばされた僕が助かったとは考えにくい。そして、一命を取り留めて昏睡状態になってこんな夢を見ているとも、本当に転生したのだとも、どうとでも考えられるし、少なくともこの場でこれ以上反論をする必要は感じられなかった。

「うん。……とりあえず、カミュの言うことを信じるよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...