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【第1話】初めましてと懐かしのミルク粥
【1-4】
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僕の肯定を受けて、カミュは思いきり喜んで目を輝かせた。本当に、表情が豊かな悪魔だ。
「ああ、良かった! では、お体が大丈夫そうでしたら、早速、調理場へ移動してもよろしいでしょうか? 魔王があまりにも衰弱しておりまして、一刻も早く何かを召し上がっていただかなくてはならなくて……」
「えっ、ちょ、ちょっと待って」
「おや、お体にどこか不具合でも? 治癒魔法が効く類のものであればよいのですが……、お辛いのはどの辺りですか?」
「違うよ、そうじゃなくて……」
心配そうに僕の身体を眺めてくるカミュの視線を振り切るように、思いきり首を振る。
「魔王の食事係って、要はその……魔王様? にごはんを作るのが役目なんだよね? さっきも言ったかもしれないけど、僕は自分が食べるための質素な食事を作っていただけで、ごちそうを作ったことなんてないんだ。それに、宇宙規模で違う世界なんだったら食材とか調理法とか色々と違うでしょうし……、前任者の方が料理上手だった場合、僕の作った食事では満足してもらえないかも……」
異世界に召喚されて魔王の食事係を任命されたらしい事実を飲み込んだとしても、本格的に料理を勉強したことがない僕に務まるものかどうか不安が残る。
しかし、カミュはゆったりと穏やかに首を振った。
「問題ありません。前任者も、その前の方も、料理の達人だったというわけではありません。そして、今代の魔王は、豪奢な食事を好むわけではありません。ですから、作っていただいていたのも、転生前に親しみのあったごく普通の家庭料理ばかりです。確かに食材等はアースとは異なるようですが、共通点のあるものを見つけて上手く分類してくださっていました。調理場も馴染みのあるように整えてくださっていましたし、調理工程は私の魔法でお手伝い出来ることも多いです。そういった事情から、前々代以降は同じ世界の人の魂を召喚するようにしているのです」
「なるほど……」
前任者たちが地球に馴染みのある形に環境や情報を整えてくれていたのなら、それを引き継げそうな相手を後任に選ぶのは理に適っている。まぁ、地球にいたからといって、国や地域によって生活様式はだいぶ変わるわけだから、上手くいく可能性がどの程度なのかは分からないけれども。
「とにかく、ミカさん。お体に異常が無さそうであれば、一緒に調理場へ行っていただけますか? 食材はほぼ無いに等しいのですが、何か食べさせないと主は起き上がれないほど衰弱しています。前任者が亡くなってから一年が過ぎていますし、ここ二十日ほど何も召し上がっていないので」
「えっ、二十日も……? そ、それじゃあ、下手すると死んじゃうんじゃあ……」
「死にはしません。『その時期』が訪れない限り、魔王は死にませんし誰にも負けません。ただ、器は人間の肉体ですから、衰弱はしてしまいます」
「え……?」
「とにかく、魔王についての詳細は後ほどご説明しますので、どうか私と一緒に調理場へお願いします」
魔王の生命力は高そうだけど、流石にその長期間を絶食しているのは人間基準に置き換えてみると心配になってしまう。一日の長さが地球と同じなのかは不明だけれど、いずれにせよ長い間何も食べていないのは確かだ。
そわそわしているカミュを見返して、僕は頷いた。
「分かった。僕で力になれるか自信は無いけど、とりあえずどんな食材があるか見せてくれる?」
「ありがとうございます! ええ、勿論。すぐにご案内いたします。勝手ながら、ミカさんの靴は脱がせていただいて、ベッドの脇に置いてあります。この城は夜は本当に暗いですから、足元にお気をつけください」
そう言いながらカミュが宙に翳した手に、アンティークなデザインのカンテラがどこかから吸い寄せられる。彼が指揮者のように指を振ると、カンテラに橙の炎が灯った。あれも魔法なのかな。
布団を出て、ひんやりしている革靴を履く。ぐるりと室内を見てみると、中世ヨーロッパの城内を彷彿とさせる造りと調度品の部屋だった。
肌寒さを感じて小さくくしゃみをすると、カミュが毛皮のショールのようなものを肩に掛けてくれる。僕が小柄だというのを差し引いても、紅い悪魔はかなりの長身だった。
古城内を調理場へ向かって移動しながら、なぜ魔王が長期の絶食状態に陥ったかをカミュが説明してくれる。
召喚された者は転生後も人間にとって長めの寿命程度まで生きられるらしく、前任の食事係も九十歳を超える大往生で約一年前に亡くなったという。
カミュはすぐに次の食事係を見つける召喚に挑んだけれど、条件が厳しいが故になかなか後継者が見つからなかったらしい。人間のような食事が不要である悪魔のカミュにとっては料理のコツがいまいち掴めず魔法でも食事を作り上げられなくて、魔王自身は簡単な料理は出来るものの前任者の死にショックを受けて意気消沈してしまいそれどころではなかったとのこと。
暫くは貯蔵されていた干し肉を食べさせたり、焦がしながらも野菜を焼いて食べさせてみたりと、カミュなりに努力して魔王の食事をどうにかしようとしていたみたいだけれど、それにも限界があり、とうとう食材もほぼ尽きてしまったようだ。
「私は魔法が得意ですし、魔法で器用に料理を完成させる人もいますが、魔法は万能ではないですから調理過程などをきちんと理解していないと成功しません。魔の者はもともと料理とは無縁の種族ですので、私にはどうにも理解できず……。せめて、私が栽培を得手としていれば食料を絶やさずに済んだのでしょうが、悪魔のサガといいますか、残念ながら生命を作り出したり維持したりするのは不得意なのです」
「食材は全部、自給自足しているの?」
「いいえ。大半は城の周りの畑などで賄いますが、密かに定期的に物資を調達してくれる方々もいます。……ただ、ここ十日ほど酷い雨が続いておりまして、馬や馬車がこの城に辿り着くのは困難なのです。長距離飛行の魔法は人間には出来ませんしね。──さぁ、到着しました」
カミュは恭しく一礼し、到着した部屋の木扉を開けてくれた。
「ああ、良かった! では、お体が大丈夫そうでしたら、早速、調理場へ移動してもよろしいでしょうか? 魔王があまりにも衰弱しておりまして、一刻も早く何かを召し上がっていただかなくてはならなくて……」
「えっ、ちょ、ちょっと待って」
「おや、お体にどこか不具合でも? 治癒魔法が効く類のものであればよいのですが……、お辛いのはどの辺りですか?」
「違うよ、そうじゃなくて……」
心配そうに僕の身体を眺めてくるカミュの視線を振り切るように、思いきり首を振る。
「魔王の食事係って、要はその……魔王様? にごはんを作るのが役目なんだよね? さっきも言ったかもしれないけど、僕は自分が食べるための質素な食事を作っていただけで、ごちそうを作ったことなんてないんだ。それに、宇宙規模で違う世界なんだったら食材とか調理法とか色々と違うでしょうし……、前任者の方が料理上手だった場合、僕の作った食事では満足してもらえないかも……」
異世界に召喚されて魔王の食事係を任命されたらしい事実を飲み込んだとしても、本格的に料理を勉強したことがない僕に務まるものかどうか不安が残る。
しかし、カミュはゆったりと穏やかに首を振った。
「問題ありません。前任者も、その前の方も、料理の達人だったというわけではありません。そして、今代の魔王は、豪奢な食事を好むわけではありません。ですから、作っていただいていたのも、転生前に親しみのあったごく普通の家庭料理ばかりです。確かに食材等はアースとは異なるようですが、共通点のあるものを見つけて上手く分類してくださっていました。調理場も馴染みのあるように整えてくださっていましたし、調理工程は私の魔法でお手伝い出来ることも多いです。そういった事情から、前々代以降は同じ世界の人の魂を召喚するようにしているのです」
「なるほど……」
前任者たちが地球に馴染みのある形に環境や情報を整えてくれていたのなら、それを引き継げそうな相手を後任に選ぶのは理に適っている。まぁ、地球にいたからといって、国や地域によって生活様式はだいぶ変わるわけだから、上手くいく可能性がどの程度なのかは分からないけれども。
「とにかく、ミカさん。お体に異常が無さそうであれば、一緒に調理場へ行っていただけますか? 食材はほぼ無いに等しいのですが、何か食べさせないと主は起き上がれないほど衰弱しています。前任者が亡くなってから一年が過ぎていますし、ここ二十日ほど何も召し上がっていないので」
「えっ、二十日も……? そ、それじゃあ、下手すると死んじゃうんじゃあ……」
「死にはしません。『その時期』が訪れない限り、魔王は死にませんし誰にも負けません。ただ、器は人間の肉体ですから、衰弱はしてしまいます」
「え……?」
「とにかく、魔王についての詳細は後ほどご説明しますので、どうか私と一緒に調理場へお願いします」
魔王の生命力は高そうだけど、流石にその長期間を絶食しているのは人間基準に置き換えてみると心配になってしまう。一日の長さが地球と同じなのかは不明だけれど、いずれにせよ長い間何も食べていないのは確かだ。
そわそわしているカミュを見返して、僕は頷いた。
「分かった。僕で力になれるか自信は無いけど、とりあえずどんな食材があるか見せてくれる?」
「ありがとうございます! ええ、勿論。すぐにご案内いたします。勝手ながら、ミカさんの靴は脱がせていただいて、ベッドの脇に置いてあります。この城は夜は本当に暗いですから、足元にお気をつけください」
そう言いながらカミュが宙に翳した手に、アンティークなデザインのカンテラがどこかから吸い寄せられる。彼が指揮者のように指を振ると、カンテラに橙の炎が灯った。あれも魔法なのかな。
布団を出て、ひんやりしている革靴を履く。ぐるりと室内を見てみると、中世ヨーロッパの城内を彷彿とさせる造りと調度品の部屋だった。
肌寒さを感じて小さくくしゃみをすると、カミュが毛皮のショールのようなものを肩に掛けてくれる。僕が小柄だというのを差し引いても、紅い悪魔はかなりの長身だった。
古城内を調理場へ向かって移動しながら、なぜ魔王が長期の絶食状態に陥ったかをカミュが説明してくれる。
召喚された者は転生後も人間にとって長めの寿命程度まで生きられるらしく、前任の食事係も九十歳を超える大往生で約一年前に亡くなったという。
カミュはすぐに次の食事係を見つける召喚に挑んだけれど、条件が厳しいが故になかなか後継者が見つからなかったらしい。人間のような食事が不要である悪魔のカミュにとっては料理のコツがいまいち掴めず魔法でも食事を作り上げられなくて、魔王自身は簡単な料理は出来るものの前任者の死にショックを受けて意気消沈してしまいそれどころではなかったとのこと。
暫くは貯蔵されていた干し肉を食べさせたり、焦がしながらも野菜を焼いて食べさせてみたりと、カミュなりに努力して魔王の食事をどうにかしようとしていたみたいだけれど、それにも限界があり、とうとう食材もほぼ尽きてしまったようだ。
「私は魔法が得意ですし、魔法で器用に料理を完成させる人もいますが、魔法は万能ではないですから調理過程などをきちんと理解していないと成功しません。魔の者はもともと料理とは無縁の種族ですので、私にはどうにも理解できず……。せめて、私が栽培を得手としていれば食料を絶やさずに済んだのでしょうが、悪魔のサガといいますか、残念ながら生命を作り出したり維持したりするのは不得意なのです」
「食材は全部、自給自足しているの?」
「いいえ。大半は城の周りの畑などで賄いますが、密かに定期的に物資を調達してくれる方々もいます。……ただ、ここ十日ほど酷い雨が続いておりまして、馬や馬車がこの城に辿り着くのは困難なのです。長距離飛行の魔法は人間には出来ませんしね。──さぁ、到着しました」
カミュは恭しく一礼し、到着した部屋の木扉を開けてくれた。
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