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【第2話】焼き立てパンは仲直りの味
【2-5】
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◆◆◆
初めて間近で見た馬は、思っていたよりも小柄だった。馬といえば馬だけど……、ポニー? どちらにしても、自分が前から知っている動物を見られたことに、なんだかほっとした。
ちなみに、猫と犬、あとはクジラも、共通している
そして、ファンタジーとか海外歴史系の映画でよく見かけるような小ぢんまりとした馬車から降りてきたのは、僕より少し年上と思われる女性だった。背丈も、僕よりわずかに高い。白に近い明るい色味の長い金髪をきゅっとポニーテールにしている彼女は、ちょっと吊り気味で快活な瞳をしている。彼女は僕を見て、驚いたように目を見開いた。
「あら! 子どもがいるじゃない。どうしたの? またジルが助けた子?」
「キカさん、違いますよ。この方は、ミカさん。この城にお迎えした新しい食事係です」
「……この子が?」
「子どもではないですよ。二十年を生き抜かれた、立派な方です」
立派ではないだろうけれど、子どもではないのは確かだ。僕は軽く頭を下げて、初対面の彼女に自己紹介をした。
「初めまして。海風といいます。ここではまだ十五日程度しか過ごしていませんが、一応は魔王の食事係です」
「こんにちは! あたしは、マレシスカ。キカでいいわ。よろしくね、ミカ!」
さっぱりとした口調で元気に挨拶をしてくれたキカさんは、にっこりと笑ってから荷台へ向かう。
「さぁ、話したいことは色々とあるけど、まずは荷物を運んじゃおう! 新しい食事係さんに食材の紹介もしたいしね」
「あ、荷物を運ぶなら僕も……、」
「あぁ、いいのいいの。ミカもマリオと同じで魔法は使えないんでしょ? あたしたちは重い荷物は魔法で運べちゃうから、全然平気。なんだったら、カミュにも運んでもらえるし」
「ええ。私が運びましょう。キカさんは長旅でお疲れでしょうし、ミカさんと一緒にのんびりと歩いていらしてください」
やっぱり、この世界では魔法を使えることが当たり前なんだなぁ。改めて驚いている間に、カミュはさっさと宙で手を動かしながら、魔法で次々に木箱や麻袋を取り出していく。それを空中で器用に纏めた彼は、僕たちを振り向いて柔らかく微笑んでから、ゆったりと歩き始めた。僕とキカさんも彼の背を追う。
「参りましょうか。ジル様も待っていらっしゃいます。みんなでお茶にしましょう。……お茶、持って来ていただいてますよね?」
「あるある。ごめんねー、来るのが遅くなっちゃって。だいぶ食材も無くなっちゃってるでしょ。どーせカミュには使えないしと思ってあんまり備蓄してなかったけど、新しい食事係が来るならもっと用意しておけばよかったね」
「いえいえ、いつ召喚に成功するか分からない状況でしたから。ミカさんに来ていただけたのは、本当に奇跡です」
「やたらと厳しい条件を付けて召喚しようとするから、そうなるのよ。他国の魔王たちに比べて、うちの魔王様はあまりにも魔王らしくないわ。まぁ、それでこそジルって感じもするけど」
「……ええ、そうですね」
カミュは複雑そうな苦笑いを浮かべる。
僕も常々、ジルは魔王っぽくないと思っているけれど、現地の人でも同じように考えるものなんだな。この世界には七人の魔王がいるみたいだし、他の六人はもっと残虐な言動をしていたりするのだろうか。
そもそも、食事係が必要だったとしても、異世界から召喚しなければならない理由って、何なんだろう。同じ世界で生きてきた人にお願いするほうが、色々と不都合も無いだろうに。
「でも、お茶ができるってことは、ジルも起き上がって行動できるようになったってことだよね。それは良かった。ずっと欝々と寝込んでるんだもん、あたしだってそれなりに心配していたのよ」
「そうですね、キカさんにも随分とご心配をおかけいたしましたが、ジル様はすっかりお元気になられています。ミカさんが来てくださったおかげですね」
キカさんの翠色の瞳が、ちらりと僕を見下ろしてくる。
「ミカが、ジルを元気にしてくれたのね。彼の花嫁候補として、お礼を言うわ。ありがとう!」
「えっ? いえ、僕はそんな……」
「大した食材も無かったのに、よく頑張ったわね。今日からは食材の幅が広がるから、料理をする楽しみも少しは増えるはずよ。あたしも時間が許す限り色々と教えていくからね」
「はい。よろしくお願いします」
「そんな丁寧に話さなくていいよ。親戚のお姉ちゃんだと思って、気軽に話してちょうだい」
「あっ、はい……、いや、ううん。ありがとう、キカさん」
親戚のお姉さんっていうのがよく分からないけれど、彼女が親切で言ってくれているのは理解できるし、良い人なんだろうとも思う。だから、素直にお礼を伝えて頷いた。
「ふふっ、かーわいい。本当にあたしにもこんな弟がいたらいいのになぁ! ジルと結婚できたとしても、ミカが義弟になるわけじゃないもんね」
「う、うん……、キカさんは本当にジルと結婚したいの? 結婚して、この城に住みたい?」
キカさんは優しく目を細めて、小さく首を振った。
「うん、ジルと結婚したいし、ここにも住みたいけど、それは出来ないんだ。この世界の人間が魔王の城に住むことは許されてないからさ、お嫁さんになれたとしても通い妻になっちゃうな」
「えっ……?」
異世界の人間しか魔王の城には住めないってこと? ……どうして?
疑問が増えたところで、調理場に着いてしまった。
初めて間近で見た馬は、思っていたよりも小柄だった。馬といえば馬だけど……、ポニー? どちらにしても、自分が前から知っている動物を見られたことに、なんだかほっとした。
ちなみに、猫と犬、あとはクジラも、共通している
そして、ファンタジーとか海外歴史系の映画でよく見かけるような小ぢんまりとした馬車から降りてきたのは、僕より少し年上と思われる女性だった。背丈も、僕よりわずかに高い。白に近い明るい色味の長い金髪をきゅっとポニーテールにしている彼女は、ちょっと吊り気味で快活な瞳をしている。彼女は僕を見て、驚いたように目を見開いた。
「あら! 子どもがいるじゃない。どうしたの? またジルが助けた子?」
「キカさん、違いますよ。この方は、ミカさん。この城にお迎えした新しい食事係です」
「……この子が?」
「子どもではないですよ。二十年を生き抜かれた、立派な方です」
立派ではないだろうけれど、子どもではないのは確かだ。僕は軽く頭を下げて、初対面の彼女に自己紹介をした。
「初めまして。海風といいます。ここではまだ十五日程度しか過ごしていませんが、一応は魔王の食事係です」
「こんにちは! あたしは、マレシスカ。キカでいいわ。よろしくね、ミカ!」
さっぱりとした口調で元気に挨拶をしてくれたキカさんは、にっこりと笑ってから荷台へ向かう。
「さぁ、話したいことは色々とあるけど、まずは荷物を運んじゃおう! 新しい食事係さんに食材の紹介もしたいしね」
「あ、荷物を運ぶなら僕も……、」
「あぁ、いいのいいの。ミカもマリオと同じで魔法は使えないんでしょ? あたしたちは重い荷物は魔法で運べちゃうから、全然平気。なんだったら、カミュにも運んでもらえるし」
「ええ。私が運びましょう。キカさんは長旅でお疲れでしょうし、ミカさんと一緒にのんびりと歩いていらしてください」
やっぱり、この世界では魔法を使えることが当たり前なんだなぁ。改めて驚いている間に、カミュはさっさと宙で手を動かしながら、魔法で次々に木箱や麻袋を取り出していく。それを空中で器用に纏めた彼は、僕たちを振り向いて柔らかく微笑んでから、ゆったりと歩き始めた。僕とキカさんも彼の背を追う。
「参りましょうか。ジル様も待っていらっしゃいます。みんなでお茶にしましょう。……お茶、持って来ていただいてますよね?」
「あるある。ごめんねー、来るのが遅くなっちゃって。だいぶ食材も無くなっちゃってるでしょ。どーせカミュには使えないしと思ってあんまり備蓄してなかったけど、新しい食事係が来るならもっと用意しておけばよかったね」
「いえいえ、いつ召喚に成功するか分からない状況でしたから。ミカさんに来ていただけたのは、本当に奇跡です」
「やたらと厳しい条件を付けて召喚しようとするから、そうなるのよ。他国の魔王たちに比べて、うちの魔王様はあまりにも魔王らしくないわ。まぁ、それでこそジルって感じもするけど」
「……ええ、そうですね」
カミュは複雑そうな苦笑いを浮かべる。
僕も常々、ジルは魔王っぽくないと思っているけれど、現地の人でも同じように考えるものなんだな。この世界には七人の魔王がいるみたいだし、他の六人はもっと残虐な言動をしていたりするのだろうか。
そもそも、食事係が必要だったとしても、異世界から召喚しなければならない理由って、何なんだろう。同じ世界で生きてきた人にお願いするほうが、色々と不都合も無いだろうに。
「でも、お茶ができるってことは、ジルも起き上がって行動できるようになったってことだよね。それは良かった。ずっと欝々と寝込んでるんだもん、あたしだってそれなりに心配していたのよ」
「そうですね、キカさんにも随分とご心配をおかけいたしましたが、ジル様はすっかりお元気になられています。ミカさんが来てくださったおかげですね」
キカさんの翠色の瞳が、ちらりと僕を見下ろしてくる。
「ミカが、ジルを元気にしてくれたのね。彼の花嫁候補として、お礼を言うわ。ありがとう!」
「えっ? いえ、僕はそんな……」
「大した食材も無かったのに、よく頑張ったわね。今日からは食材の幅が広がるから、料理をする楽しみも少しは増えるはずよ。あたしも時間が許す限り色々と教えていくからね」
「はい。よろしくお願いします」
「そんな丁寧に話さなくていいよ。親戚のお姉ちゃんだと思って、気軽に話してちょうだい」
「あっ、はい……、いや、ううん。ありがとう、キカさん」
親戚のお姉さんっていうのがよく分からないけれど、彼女が親切で言ってくれているのは理解できるし、良い人なんだろうとも思う。だから、素直にお礼を伝えて頷いた。
「ふふっ、かーわいい。本当にあたしにもこんな弟がいたらいいのになぁ! ジルと結婚できたとしても、ミカが義弟になるわけじゃないもんね」
「う、うん……、キカさんは本当にジルと結婚したいの? 結婚して、この城に住みたい?」
キカさんは優しく目を細めて、小さく首を振った。
「うん、ジルと結婚したいし、ここにも住みたいけど、それは出来ないんだ。この世界の人間が魔王の城に住むことは許されてないからさ、お嫁さんになれたとしても通い妻になっちゃうな」
「えっ……?」
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疑問が増えたところで、調理場に着いてしまった。
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