魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第3話】親交を深める鍋パーティー

【3-4】

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「……気が狂いそうな何かが、あるの?」

 カミュの深刻そうな表情から察するに、僕にまだ明かされていない情報はよほど重大なことで、ものすごくショックなものなんじゃないかと思う。
 でも、少しだけ考え込んだカミュは、小さく首を振った。

「いえ……、どうでしょう。伝える時機にもよるのかもしれません」
「……今の僕には、まだ早い?」
「ええ、まぁ……、その、ミカさんはお若いですから」
「……若いと、ダメ?」
「いえいえ、駄目というわけではないのですが……」

 カミュは明らかに困っている。──やっぱり、ここに来るには僕は若すぎたのだろうか。
 今思えば、召喚されたばかりの初対面時、目を開けた僕を見ているカミュは戸惑っているようだった。そのときにも、確か「若い」って気にしていたような……。ジルに至っては子どもって言ってきたし、そういえばキカさんにも子どもって言われたっけ。
 アビーさんは召喚時に既におばあちゃん、マリオさんも中年だったというし、ある程度の人生経験が無いと魔王の食事係には不向きということなのだろうか……?

「ミカさん。誤解してほしくないのですが、それが悪いというわけではなく……、ただ、貴方は召喚対象として想定していたよりもずっと年若いのは事実です。──情報を噛み砕くには、人生経験が足りないかもしれないと、それを懸念しています」
「ああ……、そういうことか」

 確かに、僕には人生経験が足りない。年齢と経験を積み重ねれば受け流せることを、重く受け止めすぎて思い悩む可能性もある。その結果、気が狂ってしまうこともあるのかもしれない。──それを心配していると言われれば、否定することはできない。
 僕が人生の酸いも甘いも分かっている大人であれば、マティアス様のご訪問に対してカミュたちが過敏に構える必要も無かったのだろう。そもそも、先代までのようにしっかりした人が召喚されていたなら、食事係に対して過保護に接する必要もなかったはずだ。そう考えると、なんだか申し訳なくなってくる。

「……ここに来たのが僕で、ごめんね」

 いたたまれなくなって謝った僕を驚いたように凝視したカミュは、片膝をついたままの姿勢で僕の右手を掴んできた。

「謝らないでください! ミカさんとの出会いに、私は感謝しています。ジル様も同じはずです」
「……でも、僕のせいで悩ませちゃってるでしょ。僕がもっと大人だったら……、それか、もっとしっかりした性格だったら、君たちに余計な心配や気遣いをさせることもなかったのに」
「いいえ、いいえ! 貴方に問題があるというわけではないのです。そんなことを言わせてしまって、申し訳ない。本当に、すみません」

 僕の手をそっと離しながら、カミュは項垂れる。落ち込ませてしまったのだろうか。余計なことをしてしまったな、と僕の気分も沈んでいく。

「ミカさん、信じてください。貴方が来てくださって、私は本当に嬉しいです。おそらくは、ジル様も同感でしょう。貴方が大切だからこそ、なるべく傷つけたくないですし、負担も軽くしたいのです」
「ありがとう。……でも、僕もカミュたちに余計な心配をかけたり負担をかけたりしたくないよ」
「私たちは、負担に思っているわけではないのです。ジル様ももうご自分のお立場を受け入れておられますし、もう諦めておられます。──ただ、魔王になったばかりの頃の、ちょうど今のミカさんと同じ年頃だったときのジル様は、心が壊れそうでした。ここは、そういう世界です」

 カミュは、再び僕の手を取る。彼から伝わるひんやりとした体温は、優しくも寂しくも感じられた。

「ジル様の前にも、たくさんの魔王がいました。そして、召喚されてきた異世界の人々もたくさんいました。絶対にと言い切るわけではありませんが、己の置かれた現状への理解が追い付かず、元の世界へ戻れない絶望感に苛まれるのは若い人が多かったのです。精神がおかしくなって、自ら命を絶っていった異世界の若者をたくさん見ました」
「……僕も、そうなるかもしれない?」
「そうさせないために、我々は情報開示を制限しているのです。──でも、それが正解なのかどうか分かりません。何せ、私は無論のこと、ジル様も随分と年齢を重ねていらっしゃいますから。若者との接し方がよく分からなくて」

 最後に冗談めかして言ったカミュは、祈りを捧げるように僕の手を握り、言葉を続ける。

「マティアス様は、嘘をつかれる方ではありません。ミカさんに何を告げられたとしても、それは本当のことでしょう。ただ、真実とは限りません。──私もジル様も、ミカさんをとても大切に想っています。それだけは、忘れないでいてください」
「うん、忘れないよ。ちゃんと覚えておくね。だから、カミュも覚えておいて。僕はとても頼りなく見えるかもしれないけど、カミュとジルが僕を大事にしてくれているのはちゃんと分かっているし、その気持ちに報いたいといつも思っているんだってこと」
「はい。……ありがとうございます、ミカさん」

 互いに微笑み合う視線には、双方に遠慮が滲んでいた。これが、今の僕たちの距離間だ。同じ時間を刻んでいくうちに、もっと信頼感を積み上げていけるはずだ。
 カミュもそう考えたのか、立ち上がり、僕の両肩を軽く叩いてきた。

「──さて。身支度をして、ジル様お手製の朝食をいただきましょうか。きっと、元気が出ますよ」
「うん、楽しみ。きっと、今日を乗り切れるだけの元気を貰えると思うよ」
「……ええ、そうですね」

 カミュに笑いかけてから、僕は鏡の中の自分をじっと見据える。

 ──不安そうな顔をしては駄目だ。しっかりするんだ。

 そう自分を叱咤して、冷たい水で顔を洗った。
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