魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
43 / 246
【第3話】親交を深める鍋パーティー

【3-7】

しおりを挟む
「……ごめんね」

 ジルにとっては友人に匹敵する相手を、会ってもいないうちから敵視されてしまったら、嫌な気持ちになるだろうな。そう思って謝ったのだけれど、ジルは慌てたように首を振った。

「いや、謝る必要はない、……というか、どうして謝ったんだ?」
「僕のせいでジルが嫌な気持ちになったんじゃないかと思って」
「なぜ?」
「僕が、マティアス様を警戒しているから。……大事な人を変な目で見られたら、嫌な気持ちになるでしょ?」
「それは少し違うな」

 もう一度、溜息をついたジルは、手を伸ばして僕の頭を撫でてくる。

「確かに、マティアスは大切な人間だ。だが、それはミカだって同じこと。俺は嫌な気持ちになったわけじゃない。……ただ、大事な者たちが仲良くしてくれたら嬉しいんだが、と思ったまで」
「……うん」
「ただ、カミュの心配も分からないでもない。マティアスは少々不器用なところがあるし、言い方がきついこともある。本人にそのつもりが無くとも、傷つけられたように感じることもあるかもしれない」

 ──それだけ?
 ジルはジルで心配しているようだけれど、カミュのそれとは随分と温度差があるような気がする。
 魔王やこの世界に関するアレコレを変な形で僕が知った場合の弊害は、当然、魔王であるジルも懸念してるんじゃないかと思ったのだけれど。

 そんな疑問が顔に浮かんでいたのか、ジルは先を促すかのように首を傾ける。僕は思い切って、カミュから聞いたことも含めて疑問を素直に打ち明けてみた。ジルは静かに最後まで耳を傾けてから、わずかに口角を上げて微笑んだ。

「──なるほどな。まぁ、思いきり見当違いというわけでもないが、カミュは心配しすぎているな」
「そうなの? でも、僕はまだ色々と恐ろしい事実を知らないんじゃ……」
「まぁ、否定はしない。ミカが知ればそれなりに衝撃を受けたり、悲しんだりする可能性はある。だが、だからといってミカの精神がおかしくなるとは思っていない。お前は、そんなに弱い奴じゃない。そうだろう?」
「うん……!」

 ジルの言葉は僕を安心させてくれるものだったし、信頼してくれているのも嬉しい。……でも、カミュが嘘をついているというか、大げさに騒いでいるとも思えない。
 真っ黒な瞳は、そんな僕の戸惑いも見抜いたのか、ぽんぽんと頭を撫でてきた。

「カミュは、魔の者だ。それも、とびきり変わり者の」
「変わり者……?」
「ああ。通常、魔の者は人間に好意的に接したりはしない。床に散っている塵のような存在で、風で吹き飛ぼうが、どこかへ消えようが、気にしない。それこそ、こき使われていようが、殺されていようが、全く動じない。──カミュのように人間を慈しむ魔の者は、極めて異質だ」

 確かに、カミュは「悪魔」とは思えない。魔の者が悪魔と呼ばれているのは、人間に害なす存在だからだという。でも、カミュは人間に対しての存在がとても丁寧だ。

「ただ、カミュがあからさまに異質になったのは、彼にしては割と最近のことらしい。俺が魔王に選ばれる、少し前からだという。──その前は、いかにも魔の者らしかったようだな」
「魔の者らしい……、というと」
「人間のことなど、どうでもいい。そういう魔の者だったんだ。俺の前の魔王たちは各々、人間を傷めつけていたようだが、当然、以前のカミュは気にせずに眺めていた。……だが、そのときの記憶はあいつの中に残っている」
「記憶が……?」
「そう。そして、その記憶が残っているからこそ、ミカに対して過保護になるんだろう。……罵られ、痛めつけられている人間を、あまりにも多く見てきたからだ」

 そういえば、カミュもそんなようなことを言っていた。酷い目に遭ってきた人間をたくさん見てきたからこそ、僕を心配してくれているんだ、というようなことを。

「魔の者の能力に対し、人間はあまりにも貧弱だ。だから、どの程度の攻撃を受けたら人間がどうなるという感覚が、カミュにはよく分からない。人間のことを気にし始めたのが最近なのだから、余計にそうなんだろう」
「そっか……、だから、たくさん心配してくれるんだね」
「ああ。だからといって、カミュの心配を全て過剰だと一蹴したいわけじゃないんだが。……そうだ、これをポケットにでも入れておけ」

 自分の懐を探ったジルが、そこから取り出した透明なベルのようなものを手渡してくる。ガラスのようにも見えるけれど、ちょっと違う素材のような気がした。ポケットに入れたままでも、うっかり壊れたりはしないと思う。

「もしかしたら、マティアスと二人きりで話す場面があるかもしれない。そのときに、カミュの心配が的中するかもしれない。そんなときは、これを振って鳴らしてくれ」
「これを……?」
「ああ。そうしたら、俺がすぐに駆けつけて守ろう。どんな状況であれ、ミカの味方になり、力になると約束しよう。……それなら、安心だろう?」

 なんだかんだいって、ジルも過保護なんだよね。でも、それはとてもありがたいことだし、実際、彼と話したことでさっきまでの変な緊張感というか闘争心というか、そういうものは薄れた気がする。
 ……うん。余計なことは考えず、でも、自分には大切な仲間がついていてくれるということも忘れず、変な先入観は捨てて、とにかくお客様をお迎えしよう。ジルにとって大事な存在であるお客様を、きちんとおもてなし出来るように頑張ろう。

「ありがとう、ジル」

 もらった小さなベルを両手で握りながらお礼を言うと、優しい魔王は安堵したように頷いてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...