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【第3話】親交を深める鍋パーティー
【3-8】
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◇
話を終えてジルが立ち去り、焼き菓子の生地作りが終了したところで、タイミングよくカミュが調理場へやって来た。
カミュの魔法で二つのオーブンを熱してもらい、サブレとパウンドケーキをそれぞれ焼きながら、僕はジルからもらった小さなベルのことを話した。カミュは穏やかな表情で最後まで聞き、柔らかく微笑む。
「そうでしたか。ジル様にとって、約束は絶対的なものです。決して違えたりはなさらないでしょう」
「うん。……カミュも、安心した?」
僕が魔王の加護を得たと知れば、カミュの心配も薄れるかもしれない。ただそう思っただけの質問だったけれど、カミュはもう少し複雑な受け取り方をしたらしい。温和な悪魔は、バツが悪そうに苦笑した。
「……私は、大げさでしたでしょうか。ジル様にもミカさんにも呆れられてしまったかもしれませんね」
「そんなことはないよ。カミュの心配も分かるってジルは言ってたし、僕だってカミュの話を聞いてから『負けるもんか!』って意気込んでいたんだから。……でも、ジルが絶対に味方になってくれるって言ってくれて、そんなに肩肘張らなくてもいいのかもって思えたら、僕は少し安心したんだ。だから、カミュにも安心してもらえたらいいなって思った。それだけなんだよ」
カミュの心配を馬鹿にするはずないし、そんな風に勘違いされるのは嫌だ。そう思ったから、僕は本心を打ち明けた。カミュが大げさなのだとしたら、僕だって過剰に警戒していたことになる。同じなんだよ、と伝わるように。
その気持ちが届いたのか、カミュは肩の力を抜いて、ほんのり笑ってくれた。少し強ばっていた表情がほろほろと解けて微笑になっていく変化が、彼の美貌も相まって、とても綺麗に感じて見とれてしまう。それを知ってか知らずか、美しい悪魔は、はにかんだ。
「ありがとうございます、ミカさん。色々な意味で安心いたしました」
「そう? それなら、よかった」
「私は勿論ミカさんに味方する所存ですが、万が一、ジル様が反勢力になられるようであれば、私はどうしたものかと思っていたのです。ジル様が絶対的にミカさんに味方されるのであれば、何も憂うことはありません」
「……マティアス様って、カミュから見たら怖い人なの?」
ジルにとっては友人でも、カミュから見たらまた印象が違うのかもしれない。立場も種族も違う彼から見たマティアス様について知りたくて投げかけた質問に対し、カミュは緩やかに首を振る。
「いえ、基本的にはお優しい方かと。王子自ら支援物資を運搬してくださいますし、愛想はありませんが権力を振りかざして偉ぶることもございませんし」
「そうなんだ。……でも、『基本的には』ってことは、例外もあるんじゃない?」
「……ええ、まぁ」
紅い瞳を伏せて口ごもったものの、カミュはすぐに言葉を続けた。
「マティアス様は人間の王子ではありますが、魔王に心酔しておられるといいますか……、ジル様にご執心といいますか……、いえ、これだと誤解を招く言い方ですね。核心を避けて説明するのは難しいです」
「そっか、ジルと王子様の間のことは、カミュに言えないこともあるんだもんね。とりあえず、マティアス様はジルに対して何か強い気持ちを抱いているのかな?」
「そうですね……、とても強い願い、でしょうか」
──願い?
魔王に叶えてほしいことでもあるのだろうか。気になるけれど、カミュの口からはそれ以上の詳細を語れないのだろうし、とりあえず頭の隅に追いやっておこう。
「とにかく、マティアス様はジル様にとってよくないと思われるものを排除されようとする傾向があります」
「ジルにとってよくないもの……?」
「ええ。その基準はマティアス様次第なので、よく分からないのですが……、おそらく、ジル様の未練に繋がるような若い人間、も対象になるのではないかと思われます」
ジルの未練、ってどういうことだろう。でも、いちいち疑問を挟んでいたら話が進まない。明確な説明が出来るなら、カミュは最初からそうしているはずだ。つまり、突っ込んで尋ねるべきところは、他の部分だ。
「カミュがそう考えるような何かがあったの?」
「ええ、そうですね。ありました。……うーん、これくらいはお話しても大丈夫でしょうか。あれは、何年か前……、マティアス様がジル様と出会われたのは七、八年前のことでしたから、それ以降の……四、五年前くらいの出来事です」
カミュは自身のこめかみに指を当てて記憶を辿りながら、言葉を紡いでゆく。
「そう、四、五年前──、マティアス様のご訪問時に、偶然キカさんがいらしたことがありました。そのときの出来事をきっかけに、彼女はしばらくこの城を訪れなくなってしまったのです」
話を終えてジルが立ち去り、焼き菓子の生地作りが終了したところで、タイミングよくカミュが調理場へやって来た。
カミュの魔法で二つのオーブンを熱してもらい、サブレとパウンドケーキをそれぞれ焼きながら、僕はジルからもらった小さなベルのことを話した。カミュは穏やかな表情で最後まで聞き、柔らかく微笑む。
「そうでしたか。ジル様にとって、約束は絶対的なものです。決して違えたりはなさらないでしょう」
「うん。……カミュも、安心した?」
僕が魔王の加護を得たと知れば、カミュの心配も薄れるかもしれない。ただそう思っただけの質問だったけれど、カミュはもう少し複雑な受け取り方をしたらしい。温和な悪魔は、バツが悪そうに苦笑した。
「……私は、大げさでしたでしょうか。ジル様にもミカさんにも呆れられてしまったかもしれませんね」
「そんなことはないよ。カミュの心配も分かるってジルは言ってたし、僕だってカミュの話を聞いてから『負けるもんか!』って意気込んでいたんだから。……でも、ジルが絶対に味方になってくれるって言ってくれて、そんなに肩肘張らなくてもいいのかもって思えたら、僕は少し安心したんだ。だから、カミュにも安心してもらえたらいいなって思った。それだけなんだよ」
カミュの心配を馬鹿にするはずないし、そんな風に勘違いされるのは嫌だ。そう思ったから、僕は本心を打ち明けた。カミュが大げさなのだとしたら、僕だって過剰に警戒していたことになる。同じなんだよ、と伝わるように。
その気持ちが届いたのか、カミュは肩の力を抜いて、ほんのり笑ってくれた。少し強ばっていた表情がほろほろと解けて微笑になっていく変化が、彼の美貌も相まって、とても綺麗に感じて見とれてしまう。それを知ってか知らずか、美しい悪魔は、はにかんだ。
「ありがとうございます、ミカさん。色々な意味で安心いたしました」
「そう? それなら、よかった」
「私は勿論ミカさんに味方する所存ですが、万が一、ジル様が反勢力になられるようであれば、私はどうしたものかと思っていたのです。ジル様が絶対的にミカさんに味方されるのであれば、何も憂うことはありません」
「……マティアス様って、カミュから見たら怖い人なの?」
ジルにとっては友人でも、カミュから見たらまた印象が違うのかもしれない。立場も種族も違う彼から見たマティアス様について知りたくて投げかけた質問に対し、カミュは緩やかに首を振る。
「いえ、基本的にはお優しい方かと。王子自ら支援物資を運搬してくださいますし、愛想はありませんが権力を振りかざして偉ぶることもございませんし」
「そうなんだ。……でも、『基本的には』ってことは、例外もあるんじゃない?」
「……ええ、まぁ」
紅い瞳を伏せて口ごもったものの、カミュはすぐに言葉を続けた。
「マティアス様は人間の王子ではありますが、魔王に心酔しておられるといいますか……、ジル様にご執心といいますか……、いえ、これだと誤解を招く言い方ですね。核心を避けて説明するのは難しいです」
「そっか、ジルと王子様の間のことは、カミュに言えないこともあるんだもんね。とりあえず、マティアス様はジルに対して何か強い気持ちを抱いているのかな?」
「そうですね……、とても強い願い、でしょうか」
──願い?
魔王に叶えてほしいことでもあるのだろうか。気になるけれど、カミュの口からはそれ以上の詳細を語れないのだろうし、とりあえず頭の隅に追いやっておこう。
「とにかく、マティアス様はジル様にとってよくないと思われるものを排除されようとする傾向があります」
「ジルにとってよくないもの……?」
「ええ。その基準はマティアス様次第なので、よく分からないのですが……、おそらく、ジル様の未練に繋がるような若い人間、も対象になるのではないかと思われます」
ジルの未練、ってどういうことだろう。でも、いちいち疑問を挟んでいたら話が進まない。明確な説明が出来るなら、カミュは最初からそうしているはずだ。つまり、突っ込んで尋ねるべきところは、他の部分だ。
「カミュがそう考えるような何かがあったの?」
「ええ、そうですね。ありました。……うーん、これくらいはお話しても大丈夫でしょうか。あれは、何年か前……、マティアス様がジル様と出会われたのは七、八年前のことでしたから、それ以降の……四、五年前くらいの出来事です」
カミュは自身のこめかみに指を当てて記憶を辿りながら、言葉を紡いでゆく。
「そう、四、五年前──、マティアス様のご訪問時に、偶然キカさんがいらしたことがありました。そのときの出来事をきっかけに、彼女はしばらくこの城を訪れなくなってしまったのです」
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