魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第3話】親交を深める鍋パーティー

【3-17】

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「ジルの死期……、近いんですか?」
「ああ、おそらくは。断言はできないがな。魔王の寿命、──『器』の耐久力と言い換えることも出来るが。つまり魔王化してから暴走までの期間は、およそ百年から二百年とされている。今のジルは、魔王化してから八十年くらいが経過しているようだ」
「ということは……、早ければ、二十年後にジルが……」
「いや、もっと早いのではないかと思われる」

 えっ? どうして……?
 思わず絶句してしまう僕を痛ましそうに眺めるマティ様の表情もまた、わずかながらに悲哀を帯びている。

「ジルはあの通り、あまりにも魔王らしくない。各地に所在している迷宮にあたる場所の最奥に凶悪な魔物を配備している以外、悪事と呼べるようなものはない。しかも、それも渋々だからな。契約上こなさなければならない魔王の仕事を、最低限こなしているだけだ。その辺にいる魔物は、攻撃されなければ攻撃してくることはないし、人間の村や町を襲撃することもない。魔王らしさが不足しすぎていると、国の重役たちから苦情が出ているくらいだ」
「苦情……? 魔王がおとなしくしているのに、ですか」
「魔王がおとなしいと困る輩がいるのだ。凶悪な魔物がいることで、それを討伐しようとする者がおり、依頼を受けて採取や研究のために危険地へ赴く者がいる。そういった者を育成する機関もあり、武器や防具の売買も行われる。それもこれも、魔王の影響を受けて成り立つものだ。つまり、ジルが魔王らしくしていなければ回らない経済があり、それを嫌がる重鎮がいるというわけだ」
「そんな、自分勝手な……」

 悪いことが起きれば魔王のせいにして、悪いことをしなければそれはそれで責められる。なりたかったわけでもない魔王にされてしまったジルがどんなに苦しんでいるかも知らず、外野は好き勝手なことを言っているんだ。
 そう考えると、悔しくて、憎らしくて、悲しくて、心臓を鷲掴みにされてガクガクと揺さぶられているような、そんな心地になる。
 ──でも、今は怒りで我を忘れてしまっては駄目だ。目的を見失うな。冷静に、きちんと聞き届けるんだ。そう己を戒めて、一度だけ深呼吸をした。

「……それで、ジルが魔王らしくないことと、彼の寿命には、どんな関係があるんですか?」

 僕が最優先で知るべきは、この世界の事情や欲望ではなくて、共に暮らす二人についてだ。そんな僕の意志を感じ取ったのか、マティ様はひとつ頷き、続きを話してくれる。

「ジルの前の魔王から、様子がおかしくなった。前代の魔王は、魔王化してからしばらくは魔王らしく領地内で暴れていたが、暴走する少し前からおとなしくなったのだ。本来の自我を取り戻したかのように静かになり、……その結果、想定よりも早く暴走し、魔王化してから八十二年で討伐された」

 討伐された、……つまり、殺されたんだ。それも、魔王化してから八十二年という、想定よりもかなり早い段階で。
 マティ様はカボ茶を一口飲んでから、更に言葉を続けた。

「プレカシオン王国以外の国にいる魔王には現れていない変化だ。だが、ジルの先代から、明らかに様子がおかしい。ジルに至っては、魔王化してからただの一度も破壊衝動を経験していないのだ」
「……魔王化すると、本来の性格には関係なく『魔王らしい』言動をするようになるものなんですか?」
「ああ。欠片とはいえ魔王の魂を植え付けられるのだ。本来の人格が喪われる者が殆どで、破壊や殺戮行為を無意識に望んでしまう。領地外で魔王が暴れ回らないよう管理するために、各魔王にそれぞれ悪魔が付いている。ただ、暴走した状態の魔王については、人間が始末をつけるという決まりになっているから、その段階まで至れば悪魔は傍観者になるのだが」

 なんで、そんな複雑な仕組みになっているんだろう。暴走前の魔王を制御できるのなら、暴走中も魔の者がどうにかすればいいのに。
 ──いや、それも気になる部分だけれど、今重要なのはそこじゃない。時間に余裕があるわけじゃないのだから、要点を逸らさないようにしなくては。

「つまり、ジルは、先代の魔王が暴走する直前の状態をずっと維持しているということなんですね? それは他の魔王には見られない異質な状態であり、先代と同じであれば、ジルも本来の魔王化後百年から二百年という時期を待つことなく暴走するのではないか、と」
「そうだ。私はそう予想している。……ジルは、魔王化してから既に八十年ほどを過ごしている。この国の魔王に宿る魂の欠片が弱っているのか否か、それは分からない。原因は不明だが、ジルが魔王らしくない魔王であることは事実だ」

 そこで一度、唇を閉ざし、マティ様は目を伏せる。そして再び瞳を開き、僕をまっすぐに見つめてきた。

「私は、ジルを助けたい。……彼は、かつて私の命を救ってくれた。その恩に報い、ジルを助けたいのだ」
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