魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第3話】親交を深める鍋パーティー

【3-16】

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「マティ様はここに長時間滞在できないのだと、ジルたちから聞いております。──お話を、聞かせてください」

 マティ様は、日暮れ前に森を抜けた先の町に到着するように出発しなければならない。その前に、聞くべきことを聞いておかなければ。出発前の準備なんかもあるだろうし、たぶんあと一時間くらいしか余裕が無いはずだ。

「ふむ……、ミカに伝えておきたいことは色々とあるのだが、はたして、どこから手を付けるべきなのか……」

 少し考え込んだマティ様は、テーブルに立てかけるようにしていた杖を手に持ち、軽く掲げた。

「やはりミカは、マリオと同様に魔力を全く持たない人間なのだろうか?」
「えっ……、あ、はい。魔力というものとは無縁です。元々いた世界でも魔法なんてありませんでしたし……、ジルやカミュも僕には魔力が無いと断言していましたから、間違いないと思います」
「なるほどな。……では、あやつらを見て、魔法とは『そういうもの』だと認識していることだろう。だが、そうではない。見ていろ」

 マティ様は食堂内をぐるりと見回してから、杖を高く掲げる。そして、凛とした声を発した。

「ウォィヒ・マーヨセ・ノォィク」

 その言葉に反応したように、杖の先に嵌められていた青い石が煌めき、そうかと思えば、食堂の端に飾られていた花瓶から一輪の花が飛び出してマティ様の手元へ吸い寄せられていく。花を手にした王子様は、どこかキザっぽくも感じる仕草で僕へ差し出してきた。その白い花を受け取りながらも、僕は呆然としてしまう。
 ──今のは一体、何なんだ? えっ……、何が起こったんだろう? まるで、地球で観ていたファンタジー作品の中の魔法使いがしているみたいに、呪文を詠唱して魔法を使ったように感じたのだけれど……?

「いいか、ミカ。本来、魔法とは『こういうもの』なのだ。確かに、ディデーレの人間は皆、通常は魔力を持って生まれ、魔法を使うことも出来る。だが、魔力を補うための杖を持ち、発動するための言葉を詠唱しなければ、魔法は使えないのだ」
「……そう、なのですか」
「そうだ。杖無しでも魔法を使える者は大魔法使い、さらに詠唱もせず発動できる者は賢者とされている。そんな人間は、ディデーレ中を探し回ったとしても、指で数え切れるほどしか存在しない」
「……」
「私が言いたいことは分かるな? ──つまり、ジルもカミュも規格外の存在なのだ。なぜなら、彼らは魔王と悪魔だからだ。杖も詠唱も必要とせず、ほぼ無制限に魔法を使い続けられるという時点で、あやつらは化け物と見做される」

 ──そう言われてみれば、確かに、キカさんが旅立つとき、馬車を動かすために杖を掲げて呪文のようなものを口に出していたような気がする。
 そっか。僕の調理を手伝ってくれるカミュの魔法は、特別なものだったんだ。何気ないときに使ってくれる、ジルの魔法も。……それだけでも、この世界の人たちにとっては脅威になることだったんだ。そう思い至った僕は、自分でも無意識のうちにショックを受けていた。

「巨大な力を持っているがゆえ、魔王は『魔王』と認識される。ジルが関わっていなくとも、各地で災いが起きれば魔王のせいだと思われるのだ。魔王が持つ魔力がいかに強大であるか、皆は分かっているからだ」
「そんな……」
「だが、多少の厄災であれば、『魔王の仕業だ』と言い合いつつも積極的に魔王を討伐しようとはしない場合が殆どだ。何故なら、魔王の魂を宿している器が元はただの人間であると分かっているから。魔王が領地内に引き籠もって異世界人を虐めているだけなら放っておいてもいいと、世間の人々は思っている。──災いの元凶を誰か特定の他者になすりつけるのは、楽なことだからな。自分たちの世界の均衡がそれなりに守られ、自分たちの同胞が無闇に虐げられているのでなければ、魔王の存在は実に便利なものなのだ。……私としては反吐が出る考え方だが、それがディデーレの常識であり共通認識だ」

 ジルも、そんなようなことを言っていた。この世界の人々は魔王の存在を都合のいいように扱い、魂が暴走したら容赦なく捨てるのだと。時折、魔王討伐の名目で勝負を挑みに来る人たちはいるみたいだけれど、暴走時以外で本気で魔王を倒したいと考える人はいないのだとも言っていた。──そう、暴走時以外は、だ。

「……でも、魔王の魂が暴走したら、みんな殺したがるんですよね? その暴走っていうのがどういう状態なのか、僕はよく分からないんですけど」
「……暴走は、暴走だ。決められた領域外でも、容赦なく人間を殺してしまう。町を壊滅させることもある。『器』となっている人間が、魔王の魂から滲み出ている悪しきものを受け流しきれなくなったとき──、つまり、『器』が脆弱になり、魔王の魂の欠片が次なる器を探し始めたとき、暴走して虐殺や破壊を繰り返すようになるのだ。『器』となっている本人の自我など、殆ど無くなっているという。……それが、魔王の死期だ」

 心臓が、ぎゅっとなる。王子様から貰った一輪の花も手から滑り落ちて床に落ち、花びらを散らした。
 ああ、この先を聞きたくない。──でも、聞かなければ。
 葛藤と覚悟で感情がグチャグチャになっている僕を哀れむように見つめ、マティ様は静かに告げた。

「即ち、ジルの死期も同様であると考えられる。あの温厚な彼が我を忘れて暴走したとき、そなたを殺すかもしれない。……そして、そのときは間近に迫っているかもしれないのだ」
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