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【第3話】親交を深める鍋パーティー
【3-18】
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「……ジルに助けられたんですか?」
気になることはいくつかあるけれど、とりあえず焦点を絞ってみる。ジルに助けられたという経験が、今のマティ様の言葉の根幹になっていると思ったからだ。
「ああ。──私がなぜ、軽食を手掴みで食べたがるか分かるか?」
「えっ? い、いえ、理由までは知らないです」
急に何の話だろうと驚いたけれど、マティ様の発言が関係ない話題へ逸れていくとも思えないし、とりあえずこのまま聞いておこう。
マティ様は「そうであろうな」と頷き、話を続けた。
「私は、この国の第三王子。上に二人の兄がいて、皆成人している。それゆえ、手分けして国内の政治に関わっているのだ。私に宛てがわれている分野はいくつかあるが、主要となっているのは国防絡みだ。対他国、そして対魔物の軍事関連に幅広く首を突っ込んでいる。……国内の魔物はジルの管理下にあり、迷宮の奥に追いやられている一部の魔物以外は大して害が無いように統制されているのだ。だが、稀に魔王の管理から外れてしまい、本来の魔王の領地外へ飛び出し悪さをする魔物もいる。そういった魔物は暴走状態になっていて、ジルの命令が届かない。無論、魔王自らが始末するのは容易いのだが、古の契約上、魔王の管理下から逃れた魔物は人間が討伐することになっている」
そこでマティ様は一度言葉を切り上げ、カボ茶を飲んだ。一気に説明して疲れたのかもしれない。お菓子もどうぞ、と手の動きだけで促すと、王子様は素直に頷いてサブレ二個とパウンドケーキ一切れを食べてから、再び語り始めた。
「魔王の統制下に無い魔物は、暴走種と呼ばれ、通常種よりも巨大化し、攻撃力も増している。更には、行動傾向も通常種とは異なっていて、かなり厄介だ。ゆえに、王都から討伐団を派遣して対処している。有能な騎士や冒険者を集めて結成しているのだが、指揮と討伐を兼任する形で私が参加することも多い。旅路において、テーブルの上に優雅に食器を並べて食事が出来る機会などあまり無い。ゆえに、私はこうして手掴みで食べられるものが好きなのだ」
なるほど。マティ様はいかにも高級食器を使った優雅で上品な食事をしていそうな外見なのに、すごく親しみが持てるお菓子の食べ方をしているのは、そういった事情からだったんだ。
王子だからといって仲間たちとは違う特別待遇などは受けず、討伐団の人たちと同様に厳しい旅を乗り越えてきたんだろう。立派な王子様だ。
僕が納得しているのを表情から読み取ったのか、マティ様は話を本来の道筋へと戻していく。
「さて、──五年前、成人してお役目を貰ったばかりで浮き足立っていた私は、初めて暴走種の討伐団に参加した。魔王城周辺の森と繋がる形で深い森があるのだが、そこに出没する暴走種が討伐対象だった。その魔物がなかなか賢い奴でな、我々を振り払いながら奥へ逃げて行き、じきに魔王の領域内へ駆け去ってしまったのだ。本来であれば、その時点で一度仕切り直すべきだった。だが、当時の私は勇気と無茶を履き違えておってな、深追いしてしまったのだ。制止してくれた仲間を振り切り、単独で敵を追った」
「それって……、危険なことですよね?」
「ああ、危険にも程がある自殺行為だ。今でこそ、魔王であるジルがあのような人物だと知っているから、私は単身でここを訪れている。だが、魔王の人となりを知らない場合、魔王の領域は重装備を固めて用心しながら進むべきなのだ。つまり、五年前の私は無謀だった。──そして、間抜けな私は、魔王の城に程近い森の中、暴走種の他、殺気立った通常種の群れに取り囲まれてしまったのだ。仲間からはぐれたまま、独りでな」
僕は実際に魔物を見たことがないから想像しか出来ないけれど、それはとても恐ろしい光景だと思う。たった一人で、化け物に囲まれてしまうなんて……。
「ジルが管理している通常種は、人間から攻撃を仕掛けなければ襲ってはこない。殺気立っていようとも、それは変わらない。だが、当時の私はそうだとは思えず、無駄に手を出してしまい、多勢に無勢で嬲り殺しにされかけた。しくじってしまったと反省し、死を覚悟したところで──ジルが現れたのだ」
「……異常を察知して、助けに来てくれたんですね、きっと」
「ああ。彼は決して認めようとはしないが、領域内に迷い込んだ人間が暴走種と接触したと知り、駆けつけてくれたのだと思う。瞬時に魔物たちを粉砕したジルは、私を城へ連れ帰って介抱し、ある程度回復してから森の入口まで送ってくれたのだ。……あのとき、彼が来てくれなければ、私の命は無惨に絶たれていただろう。命の恩人なのだ。私も、彼に報いたい。救いたいのだ」
切々と訴えるような声音からも、苦しげに寄せられた眉根からも、マティ様が本気でジルを案じていて、なんとか助けたいと思っているのだと伝わってくる。
──僕だって、同じだ。マティ様と状況や動機は違うけれども、ジルの力になりたい。温かな日々をくれて、誰かのために食事を用意する幸せを与えてくれた彼を、助けてあげたい。
「マティ様は、どのようにジルをお救いになりたいと思われているんですか?」
真剣に尋ねる僕の視線を真摯に受け止めた王子様は、静かに答えた。
「彼に宿っている魔王の魂の欠片を封印出来たら、と……、その方法を探している」
気になることはいくつかあるけれど、とりあえず焦点を絞ってみる。ジルに助けられたという経験が、今のマティ様の言葉の根幹になっていると思ったからだ。
「ああ。──私がなぜ、軽食を手掴みで食べたがるか分かるか?」
「えっ? い、いえ、理由までは知らないです」
急に何の話だろうと驚いたけれど、マティ様の発言が関係ない話題へ逸れていくとも思えないし、とりあえずこのまま聞いておこう。
マティ様は「そうであろうな」と頷き、話を続けた。
「私は、この国の第三王子。上に二人の兄がいて、皆成人している。それゆえ、手分けして国内の政治に関わっているのだ。私に宛てがわれている分野はいくつかあるが、主要となっているのは国防絡みだ。対他国、そして対魔物の軍事関連に幅広く首を突っ込んでいる。……国内の魔物はジルの管理下にあり、迷宮の奥に追いやられている一部の魔物以外は大して害が無いように統制されているのだ。だが、稀に魔王の管理から外れてしまい、本来の魔王の領地外へ飛び出し悪さをする魔物もいる。そういった魔物は暴走状態になっていて、ジルの命令が届かない。無論、魔王自らが始末するのは容易いのだが、古の契約上、魔王の管理下から逃れた魔物は人間が討伐することになっている」
そこでマティ様は一度言葉を切り上げ、カボ茶を飲んだ。一気に説明して疲れたのかもしれない。お菓子もどうぞ、と手の動きだけで促すと、王子様は素直に頷いてサブレ二個とパウンドケーキ一切れを食べてから、再び語り始めた。
「魔王の統制下に無い魔物は、暴走種と呼ばれ、通常種よりも巨大化し、攻撃力も増している。更には、行動傾向も通常種とは異なっていて、かなり厄介だ。ゆえに、王都から討伐団を派遣して対処している。有能な騎士や冒険者を集めて結成しているのだが、指揮と討伐を兼任する形で私が参加することも多い。旅路において、テーブルの上に優雅に食器を並べて食事が出来る機会などあまり無い。ゆえに、私はこうして手掴みで食べられるものが好きなのだ」
なるほど。マティ様はいかにも高級食器を使った優雅で上品な食事をしていそうな外見なのに、すごく親しみが持てるお菓子の食べ方をしているのは、そういった事情からだったんだ。
王子だからといって仲間たちとは違う特別待遇などは受けず、討伐団の人たちと同様に厳しい旅を乗り越えてきたんだろう。立派な王子様だ。
僕が納得しているのを表情から読み取ったのか、マティ様は話を本来の道筋へと戻していく。
「さて、──五年前、成人してお役目を貰ったばかりで浮き足立っていた私は、初めて暴走種の討伐団に参加した。魔王城周辺の森と繋がる形で深い森があるのだが、そこに出没する暴走種が討伐対象だった。その魔物がなかなか賢い奴でな、我々を振り払いながら奥へ逃げて行き、じきに魔王の領域内へ駆け去ってしまったのだ。本来であれば、その時点で一度仕切り直すべきだった。だが、当時の私は勇気と無茶を履き違えておってな、深追いしてしまったのだ。制止してくれた仲間を振り切り、単独で敵を追った」
「それって……、危険なことですよね?」
「ああ、危険にも程がある自殺行為だ。今でこそ、魔王であるジルがあのような人物だと知っているから、私は単身でここを訪れている。だが、魔王の人となりを知らない場合、魔王の領域は重装備を固めて用心しながら進むべきなのだ。つまり、五年前の私は無謀だった。──そして、間抜けな私は、魔王の城に程近い森の中、暴走種の他、殺気立った通常種の群れに取り囲まれてしまったのだ。仲間からはぐれたまま、独りでな」
僕は実際に魔物を見たことがないから想像しか出来ないけれど、それはとても恐ろしい光景だと思う。たった一人で、化け物に囲まれてしまうなんて……。
「ジルが管理している通常種は、人間から攻撃を仕掛けなければ襲ってはこない。殺気立っていようとも、それは変わらない。だが、当時の私はそうだとは思えず、無駄に手を出してしまい、多勢に無勢で嬲り殺しにされかけた。しくじってしまったと反省し、死を覚悟したところで──ジルが現れたのだ」
「……異常を察知して、助けに来てくれたんですね、きっと」
「ああ。彼は決して認めようとはしないが、領域内に迷い込んだ人間が暴走種と接触したと知り、駆けつけてくれたのだと思う。瞬時に魔物たちを粉砕したジルは、私を城へ連れ帰って介抱し、ある程度回復してから森の入口まで送ってくれたのだ。……あのとき、彼が来てくれなければ、私の命は無惨に絶たれていただろう。命の恩人なのだ。私も、彼に報いたい。救いたいのだ」
切々と訴えるような声音からも、苦しげに寄せられた眉根からも、マティ様が本気でジルを案じていて、なんとか助けたいと思っているのだと伝わってくる。
──僕だって、同じだ。マティ様と状況や動機は違うけれども、ジルの力になりたい。温かな日々をくれて、誰かのために食事を用意する幸せを与えてくれた彼を、助けてあげたい。
「マティ様は、どのようにジルをお救いになりたいと思われているんですか?」
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