魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
61 / 246
【第3話】親交を深める鍋パーティー

【3-25】

しおりを挟む
  ◇


「なんだこれは……! こんなに単純な煮物なのに、美味い……! 見た目は野営地の炊き出しと似たようなものなのに、全然違うではないか!」
「食べたことのない風味だが、あっさりしていていいな。素材の味を感じられて、とても美味い」
「とても美味しいです。一人で大鍋ひとつくらい食べたくなりますね」

 しゃぶしゃぶ初体験である彼らの三者三様の反応を見て、僕の口元はゆるゆると緩んでしまう。大の男三人が目を輝かせて鍋を食べている姿を見て「可愛い」という感想を抱く日が来ようとは、生前(というか前世)の僕は全く想像もしていなかった。

 彼らは箸が使えないから、深みのある小皿に僕が取り分けて、フォークで食べてもらっている。本当は自分で肉をしゃぶしゃぶしたほうが楽しいと思うけれど、フォークではやりづらいだろうし、仕方がない。卓上コンロは無いけれども、カミュの魔法で常にくつくつと煮立っている具材はとても美味しそうに見えるし、それを眺めながら食べるだけでも十分に楽しんでもらえているだろう。

「沢山あるから、どんどん食べてね。マティ様もご遠慮なく。お皿が空いたら、すぐに次をよそいますから」

 今宵の僕は、憧れの鍋奉行だ。一人鍋では味気もやる気も不足しがちになるけど、これだけ美味しい美味しいと食べてくれる人がいると、作りがいも奉行のしがいもある。
三人の取り皿がそろそろ空になるから、と待機していると、彼らは僕をじっと見てきた。

「ミカさんは、いつ召し上がるのです?」
「そうだな。そうしてずっと立って鍋を見守っていては、ミカが食事できない」
「うむ、その通りだ。年若い者がひもじい思いをするなど、断じて見過ごしてはならぬ」

 どうやら、給仕に没頭しようとしている僕が気になるらしい。とりあえず、首を振ってみる。

「えっと……、大丈夫だよ。みんなが食べている合間に、僕もつまめるだろうから」
「つまめる……? つまみ食いですか? それでは、味見程度にしか召し上がれないでしょう。駄目ですよ、きちんと食べなくては」
「そうだ。ミカ、ちゃんと食べろ。むしろ、お前が一番多く食べろ」
「私がいるからと遠慮しているのではあるまいな?そんな配慮はいらぬから、きちんと食べるのだ。肉などガッと入れてザッと煮て皆でざっくり分ければよかろう」
「え、えーっと……」

 ──そうだった。この人たちは、ありがたいことに、過保護に接してくれるのだった。ジルとカミュだけでなく、何故かマティ様もそれに染まってしまっている。

 とはいえ、気遣いは嬉しいけれど、具材を一度に煮込んでしまうのは、なんというか……僕が思う「しゃぶしゃぶ」とはちょっと違うというか……、しゃぶしゃぶの正解なんて知らないけど、せっかく透き通るような薄切り肉なのに煮詰めてしまうのは勿体ないような……?
 そう思って、しゃぶしゃぶの特性を説明しつつ、みんなが箸を使えない上にフォークでしゃぶしゃぶはやりづらいから僕が鍋奉行を務めたい、と話してみた。これで納得してくれるのでは? と思ったんだけど……、

「つまり、己が食す肉を、その都度サッと火を通せばよいのであろう? そんなもの、魔法でどうにでもなる」
「そうだな。隣でずっと杖を振られても落ち着かないから、マティアスの分は俺がまとめて面倒を見てやる」
「私も、火加減を見つつ自分の分を煮るくらい、どうということもございません」
「あ……、なるほど、魔法……」

 自分が使えないから意識から飛ばしがちになってしまうけれど、彼らは魔法で日常を便利にしているんだ。それに、ジルとカミュはほぼ無限に容易く魔法を駆使できる。確かに、魔法でどうにか出来るなら、そうしてもらったほうがいいのかな。たぶん、そのほうが楽しいと思うし。

「じゃあ、各自でやってみる?」
「うむ」
「ああ」
「はい」
「あははっ、綺麗に即答が揃ったね。じゃあ、具材をそれぞれの手元に分けるから、それを各自で茹でて食べよう」

 カミュが魔法で出してくれた(たぶん調理場のを召喚してくれたんだと思う)お皿に肉を盛って配り、僕は菜箸で、他のみんなは魔法でしゃぶしゃぶしていく。

「あっ、ジル! そのお肉はもう少し火を通して。マティ様がお腹を壊したら大変」
「あ、ああ、分かった」
「私はそんなヤワではないのだが……」
「いいから、黙ってミカの言う通りにしておけ」
「カミュのお肉はもう食べて大丈夫だよ」
「そうなのですか。人間の食材の加熱の感覚は繊細で難しいですね」
「こら、ミカ。そなたこそ、食が進んでおらんぞ。いいから、たんと食べるのだ」

 わいわい、がやがや。ああでもないこうでもないと言い合いながら、みんなでひとつの鍋を囲むのって、こんなに楽しいんだなぁ。僕が取り分けているときも楽しかったけど、今はそれよりもっとわくわくする。
 にやけながら菜箸を握る僕をじっと見つめてきていたマティ様が、質問を投げ掛けてきた。

「ミカ、魔力が無い、魔法が使えないというのは不便なものか?」
「えっ……、どうでしょう。僕は魔法を使えないのが当たり前の世界で生まれ育っていたので、不便とは思わないですね。魔法って便利だなぁ、とは思いますけど」
「そうか。……実は、弟が生まれたのだ。そして、弟は魔力を持っていないようなのだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

処理中です...