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【第3話】親交を深める鍋パーティー
【3-25】
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◇
「なんだこれは……! こんなに単純な煮物なのに、美味い……! 見た目は野営地の炊き出しと似たようなものなのに、全然違うではないか!」
「食べたことのない風味だが、あっさりしていていいな。素材の味を感じられて、とても美味い」
「とても美味しいです。一人で大鍋ひとつくらい食べたくなりますね」
しゃぶしゃぶ初体験である彼らの三者三様の反応を見て、僕の口元はゆるゆると緩んでしまう。大の男三人が目を輝かせて鍋を食べている姿を見て「可愛い」という感想を抱く日が来ようとは、生前(というか前世)の僕は全く想像もしていなかった。
彼らは箸が使えないから、深みのある小皿に僕が取り分けて、フォークで食べてもらっている。本当は自分で肉をしゃぶしゃぶしたほうが楽しいと思うけれど、フォークではやりづらいだろうし、仕方がない。卓上コンロは無いけれども、カミュの魔法で常にくつくつと煮立っている具材はとても美味しそうに見えるし、それを眺めながら食べるだけでも十分に楽しんでもらえているだろう。
「沢山あるから、どんどん食べてね。マティ様もご遠慮なく。お皿が空いたら、すぐに次をよそいますから」
今宵の僕は、憧れの鍋奉行だ。一人鍋では味気もやる気も不足しがちになるけど、これだけ美味しい美味しいと食べてくれる人がいると、作りがいも奉行のしがいもある。
三人の取り皿がそろそろ空になるから、と待機していると、彼らは僕をじっと見てきた。
「ミカさんは、いつ召し上がるのです?」
「そうだな。そうしてずっと立って鍋を見守っていては、ミカが食事できない」
「うむ、その通りだ。年若い者がひもじい思いをするなど、断じて見過ごしてはならぬ」
どうやら、給仕に没頭しようとしている僕が気になるらしい。とりあえず、首を振ってみる。
「えっと……、大丈夫だよ。みんなが食べている合間に、僕もつまめるだろうから」
「つまめる……? つまみ食いですか? それでは、味見程度にしか召し上がれないでしょう。駄目ですよ、きちんと食べなくては」
「そうだ。ミカ、ちゃんと食べろ。むしろ、お前が一番多く食べろ」
「私がいるからと遠慮しているのではあるまいな?そんな配慮はいらぬから、きちんと食べるのだ。肉などガッと入れてザッと煮て皆でざっくり分ければよかろう」
「え、えーっと……」
──そうだった。この人たちは、ありがたいことに、過保護に接してくれるのだった。ジルとカミュだけでなく、何故かマティ様もそれに染まってしまっている。
とはいえ、気遣いは嬉しいけれど、具材を一度に煮込んでしまうのは、なんというか……僕が思う「しゃぶしゃぶ」とはちょっと違うというか……、しゃぶしゃぶの正解なんて知らないけど、せっかく透き通るような薄切り肉なのに煮詰めてしまうのは勿体ないような……?
そう思って、しゃぶしゃぶの特性を説明しつつ、みんなが箸を使えない上にフォークでしゃぶしゃぶはやりづらいから僕が鍋奉行を務めたい、と話してみた。これで納得してくれるのでは? と思ったんだけど……、
「つまり、己が食す肉を、その都度サッと火を通せばよいのであろう? そんなもの、魔法でどうにでもなる」
「そうだな。隣でずっと杖を振られても落ち着かないから、マティアスの分は俺がまとめて面倒を見てやる」
「私も、火加減を見つつ自分の分を煮るくらい、どうということもございません」
「あ……、なるほど、魔法……」
自分が使えないから意識から飛ばしがちになってしまうけれど、彼らは魔法で日常を便利にしているんだ。それに、ジルとカミュはほぼ無限に容易く魔法を駆使できる。確かに、魔法でどうにか出来るなら、そうしてもらったほうがいいのかな。たぶん、そのほうが楽しいと思うし。
「じゃあ、各自でやってみる?」
「うむ」
「ああ」
「はい」
「あははっ、綺麗に即答が揃ったね。じゃあ、具材をそれぞれの手元に分けるから、それを各自で茹でて食べよう」
カミュが魔法で出してくれた(たぶん調理場のを召喚してくれたんだと思う)お皿に肉を盛って配り、僕は菜箸で、他のみんなは魔法でしゃぶしゃぶしていく。
「あっ、ジル! そのお肉はもう少し火を通して。マティ様がお腹を壊したら大変」
「あ、ああ、分かった」
「私はそんなヤワではないのだが……」
「いいから、黙ってミカの言う通りにしておけ」
「カミュのお肉はもう食べて大丈夫だよ」
「そうなのですか。人間の食材の加熱の感覚は繊細で難しいですね」
「こら、ミカ。そなたこそ、食が進んでおらんぞ。いいから、たんと食べるのだ」
わいわい、がやがや。ああでもないこうでもないと言い合いながら、みんなでひとつの鍋を囲むのって、こんなに楽しいんだなぁ。僕が取り分けているときも楽しかったけど、今はそれよりもっとわくわくする。
にやけながら菜箸を握る僕をじっと見つめてきていたマティ様が、質問を投げ掛けてきた。
「ミカ、魔力が無い、魔法が使えないというのは不便なものか?」
「えっ……、どうでしょう。僕は魔法を使えないのが当たり前の世界で生まれ育っていたので、不便とは思わないですね。魔法って便利だなぁ、とは思いますけど」
「そうか。……実は、弟が生まれたのだ。そして、弟は魔力を持っていないようなのだ」
「なんだこれは……! こんなに単純な煮物なのに、美味い……! 見た目は野営地の炊き出しと似たようなものなのに、全然違うではないか!」
「食べたことのない風味だが、あっさりしていていいな。素材の味を感じられて、とても美味い」
「とても美味しいです。一人で大鍋ひとつくらい食べたくなりますね」
しゃぶしゃぶ初体験である彼らの三者三様の反応を見て、僕の口元はゆるゆると緩んでしまう。大の男三人が目を輝かせて鍋を食べている姿を見て「可愛い」という感想を抱く日が来ようとは、生前(というか前世)の僕は全く想像もしていなかった。
彼らは箸が使えないから、深みのある小皿に僕が取り分けて、フォークで食べてもらっている。本当は自分で肉をしゃぶしゃぶしたほうが楽しいと思うけれど、フォークではやりづらいだろうし、仕方がない。卓上コンロは無いけれども、カミュの魔法で常にくつくつと煮立っている具材はとても美味しそうに見えるし、それを眺めながら食べるだけでも十分に楽しんでもらえているだろう。
「沢山あるから、どんどん食べてね。マティ様もご遠慮なく。お皿が空いたら、すぐに次をよそいますから」
今宵の僕は、憧れの鍋奉行だ。一人鍋では味気もやる気も不足しがちになるけど、これだけ美味しい美味しいと食べてくれる人がいると、作りがいも奉行のしがいもある。
三人の取り皿がそろそろ空になるから、と待機していると、彼らは僕をじっと見てきた。
「ミカさんは、いつ召し上がるのです?」
「そうだな。そうしてずっと立って鍋を見守っていては、ミカが食事できない」
「うむ、その通りだ。年若い者がひもじい思いをするなど、断じて見過ごしてはならぬ」
どうやら、給仕に没頭しようとしている僕が気になるらしい。とりあえず、首を振ってみる。
「えっと……、大丈夫だよ。みんなが食べている合間に、僕もつまめるだろうから」
「つまめる……? つまみ食いですか? それでは、味見程度にしか召し上がれないでしょう。駄目ですよ、きちんと食べなくては」
「そうだ。ミカ、ちゃんと食べろ。むしろ、お前が一番多く食べろ」
「私がいるからと遠慮しているのではあるまいな?そんな配慮はいらぬから、きちんと食べるのだ。肉などガッと入れてザッと煮て皆でざっくり分ければよかろう」
「え、えーっと……」
──そうだった。この人たちは、ありがたいことに、過保護に接してくれるのだった。ジルとカミュだけでなく、何故かマティ様もそれに染まってしまっている。
とはいえ、気遣いは嬉しいけれど、具材を一度に煮込んでしまうのは、なんというか……僕が思う「しゃぶしゃぶ」とはちょっと違うというか……、しゃぶしゃぶの正解なんて知らないけど、せっかく透き通るような薄切り肉なのに煮詰めてしまうのは勿体ないような……?
そう思って、しゃぶしゃぶの特性を説明しつつ、みんなが箸を使えない上にフォークでしゃぶしゃぶはやりづらいから僕が鍋奉行を務めたい、と話してみた。これで納得してくれるのでは? と思ったんだけど……、
「つまり、己が食す肉を、その都度サッと火を通せばよいのであろう? そんなもの、魔法でどうにでもなる」
「そうだな。隣でずっと杖を振られても落ち着かないから、マティアスの分は俺がまとめて面倒を見てやる」
「私も、火加減を見つつ自分の分を煮るくらい、どうということもございません」
「あ……、なるほど、魔法……」
自分が使えないから意識から飛ばしがちになってしまうけれど、彼らは魔法で日常を便利にしているんだ。それに、ジルとカミュはほぼ無限に容易く魔法を駆使できる。確かに、魔法でどうにか出来るなら、そうしてもらったほうがいいのかな。たぶん、そのほうが楽しいと思うし。
「じゃあ、各自でやってみる?」
「うむ」
「ああ」
「はい」
「あははっ、綺麗に即答が揃ったね。じゃあ、具材をそれぞれの手元に分けるから、それを各自で茹でて食べよう」
カミュが魔法で出してくれた(たぶん調理場のを召喚してくれたんだと思う)お皿に肉を盛って配り、僕は菜箸で、他のみんなは魔法でしゃぶしゃぶしていく。
「あっ、ジル! そのお肉はもう少し火を通して。マティ様がお腹を壊したら大変」
「あ、ああ、分かった」
「私はそんなヤワではないのだが……」
「いいから、黙ってミカの言う通りにしておけ」
「カミュのお肉はもう食べて大丈夫だよ」
「そうなのですか。人間の食材の加熱の感覚は繊細で難しいですね」
「こら、ミカ。そなたこそ、食が進んでおらんぞ。いいから、たんと食べるのだ」
わいわい、がやがや。ああでもないこうでもないと言い合いながら、みんなでひとつの鍋を囲むのって、こんなに楽しいんだなぁ。僕が取り分けているときも楽しかったけど、今はそれよりもっとわくわくする。
にやけながら菜箸を握る僕をじっと見つめてきていたマティ様が、質問を投げ掛けてきた。
「ミカ、魔力が無い、魔法が使えないというのは不便なものか?」
「えっ……、どうでしょう。僕は魔法を使えないのが当たり前の世界で生まれ育っていたので、不便とは思わないですね。魔法って便利だなぁ、とは思いますけど」
「そうか。……実は、弟が生まれたのだ。そして、弟は魔力を持っていないようなのだ」
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