魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
86 / 246
【第5話】君に捧げるフレンチトースト

【5-2】

しおりを挟む
 頭に落ちてきた何かは柔らかくて、なんだかあったかい。落下してきたとはいえ、高い場所からストレートに落ちてきたような衝撃は無くて、頭に近い場所からぽすんと落ちてきた感じだ。
 落下物を取り除こうと手を上げかけたとき、それらは僕の頭から胸元へ滑り落ちてくる。咄嗟に両腕で抱え込むと、そこにはよく知る存在がぐったりしていた。

「えっ、なに? ……って、クックとポッポ!?」
「クゥ……」
「ポー……」

 鳴き声があまりにも弱々しく、僕を見上げてくる表情にも覇気がない。いつもの元気なドヤ顔など、とても見せてくれそうになかった。

「ど、どうしたの? どこか怪我は……、してないみたいだね」

 胴体をそっと掴んでひっくり返してみても、二羽とも大人しくされるがままだ。注意深く観察しても、外傷は見当たらない。ということは、体の中をどこか悪くしたんだろうか?

 実は、クックとポッポは毎朝起こしに来てくれるのに、今朝は来なかったから気になっていたんだ。代わりに起こしに来てくれたカミュに訊いてみても、彼にも心当たりは無いらしく首を傾げていた。
 本来、魔鳥は気まぐれな性質のようだし、第五星図期間になってからは穏やかな陽気に包まれる気持ちのいい日が多いから、今朝はたまたま気分が乗って散歩にでも行ったのかもしれないなんて、のんきに考えていたけれど──、まさか、城内でこんなにぐったりしていたなんて。僕を見つけて、助けを求めて寄ってきたのだろうか。

「つらそうだね……、可哀想に。一緒においで。ジルに診てもらおうね」
「ク……」
「ポ……」

 鳥たちは健気に頷き、僕の腕の中で身を寄せ合っている。 弱っているクックとポッポを抱え直して、僕は早足で歩き始めた。
 普段であれば、せっかくのもふもふした感触を楽しむところだけれど、それどころじゃない。窓から見える新緑や青空へ目を向けることもなく、僕は黙々と歩を進めた。
目的の大階段に着き、それも一気に上る。足がパンパンになるのを感じながらも一息に最上階まで上がり、そのままジルの私室へ駆け込んだ。

「ジル! おはよう! ごはんの前に、この子たちを診てあげて!」

 両腕が塞がっているから、ノックもせずに扉へ体当たりして入室してしまった。窓辺に佇んでいたジルは、急に転がり込んできて喚いている僕を振り向いて驚いたように目を瞬かせたけれど、魔鳥たちの様子を見てすぐに表情を引き締め、歩み寄ってきた。

「おはよう、ミカ。……クックとポッポの様子がおかしいのか?」
「うん。ここに来る途中、上から落ちてきたんだ。怪我はしてないみたいだけど、ぐったりして元気が無くて……」
「そうか。……お前たち、どうする?馴染むまでは、そのつらさが続くだろう。昨夜の魔法を解くか?」

 ジルは何故か鳥たちへ向かって語り出し、それを聞いたクックとポッポはふるふると首を振る。鳥たちの目は、どちらも妙に頑固だ。ジルは困ったように溜息をついた。

「まったく……。さすが、マティアスから譲られた鳥だ。強情なところがよく似ている」
「え、……ど、どういうこと?」
「きちんと話す。その前に、そいつらを休ませてやろう」

 そう言って、ジルは僕の腕からクックとポッポを引き取り、彼のベッドへ向かう。そして、柔らかな枕をいくつか重ね並べて、優しく鳥たちを下ろした。クックもポッポもぐったりしているのはそのままだけれど、心なしか少しだけほっとした様子にも見える。

「屋内での寝床がまだ整っていないから、体を休めたくとも場所が無くて彷徨っていたのかもしれない。早いうちに、ミカの部屋に寝床を作ってやったほうがよさそうだな。だが、数日はここで落ち着かせよう。この部屋は、魔力の巡りが安定しているから、今のクックとポッポには城内で一番居心地が良いはずだ」
「え、っと……、魔鳥は屋外で寝る習性があるんじゃなかったっけ?」

 魔力だ魔法だといった話はよく分からないけれど、魔鳥の特徴で覚えていることはあったから、それを元に質問を投げかけてみた。すると、ジルは物憂げに深々と息を吐き出す。

「そうだ。魔鳥は屋外から、遠目に主人を見守る習性がある。主人に何かあれば手助けするために寄って来るが、それ以外では付かず離れずの場所にいたがる。そういう本能の生き物だ。──だが、こいつらはその本能を捨てたがっていた」
「本能を……、捨てる……?」
「ああ。昨夜遅く、外の空気を吸うために散歩に出たとき、クックとポッポと出くわした。こいつらは、お前の部屋を見上げながら涙を流していたんだ」
「えっ?」

 クックとポッポが泣いていた?
 鳥も涙を流すのかという驚きよりも、愛鳥たちは何を悲しんで泣いたのかというのが気になって仕方がない。思わずベッドの横に膝をついて、黒と白の小さな身体を撫でる。クックとポッポはされるがまま、キュルキュルと小さな鳴き声を上げた。

「……クックとポッポは、どうして泣いていたの?」

 ジルならきっと答えを知っている。そう思って傍らの魔王を見上げると、彼は蒼白い手で僕の頭を優しく撫でた。

「どうしても本能に従ってお前の傍を離れてしまうことを悲しんでいたんだ。こいつらは、昼となく夜となくお前の傍にいて見守りたくて仕方がないんだよ。……俺やカミュと同じ気持ちを、この鳥たちも持っているんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...