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【第5話】君に捧げるフレンチトースト
【5-5】
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◇
「おや。おはようございます、ジル様。おかえりなさい、ミカさん」
僕たちが食堂へ到着すると、ずっと待ちぼうけを食わされてテーブルの側に佇んでいたカミュは、柔和な笑顔でそれぞれに挨拶をしてくれた。だいぶ待たせてしまったと思うけれど、それに対しての不満などは全く見せず、自然な笑い方でニコニコ出来るカミュは、やはり悪魔というより聖人のイメージのほうが強い。背中の羽は黒いけど、彼はまさに天使のような男だ。
「おはよう。待たせて悪かったな」
「ごめんね、カミュ。だいぶ待たせちゃったよね」
「いえ、それは全く気にしておりませんよ。どうぞ、お座りください。──ですが、何かあったのですか? ミカさんとジル様の気配は近かったですし、不穏なものも感じませんでしたから、私はここでお待ちしていたのですが」
心配そうに尋ねてくるカミュにも椅子を勧めて、三人ともが着席してから、クックとポッポの状態について話した。僕の説明に加えるようにして、鳥たちが回復するまでは僕を一人にさせないようにとジルが言い添える。僕たちの話を真剣に聞いていたカミュは、神妙な面持ちで頷いた。
「承知しました。──クックとポッポが屋内でもミカさんを護れるようになるのは、我々としても安心できるのですが……、本能除去の魔法はなかなかに負担が大きいですから心配ですね」
「焦らずじっくりと回復させてやれば大丈夫だろう。そのためにも、あいつらには余計な懸念を与えず、ひたすら寝ていてもらったほうがいい」
「そうですね。ミカさん、しばらくはご不便を感じるかもしれませんが、私かジル様の側から離れないように、くれぐれもお願いいたします」
「分かった。むしろ、こちらこそ迷惑をかけてしまってごめんね」
そういえば、クックとポッポが来る前は、僕が一人にならないよう、彼らはさりげないながらも常に気にしてくれていたように思う。僕の就寝中も部屋を覆う形の結界をジルが張ってくれていたらしいことも、夜に何度か起きて結界魔法を重ね掛けしてくれていたことも、後になって知ったんだ。
クックとポッポは気まぐれにしか姿を見せなくとも、一日中僕を見守ってくれていたということだ。そして、それに代わる守護をジルとカミュが担おうとしてくれている。
申し訳なくて俯く僕の頭を、ジルの手がぽんぽんと撫でてきた。
「迷惑だなんて思わない。ミカはおとなしくて手が掛からないから、傍にいてもらっても心地よく思うくらいだ。アビーやマリオではそうはいかないからな」
「そうですね。アビーさんもマリオさんも急に踊り出しますし、唐突に歌い出しますし、あまりじっとしていない方々でしたから。賑やかで楽しかったですが、護衛はしづらい人々でしたね」
陽気なおばあちゃんおじいちゃんに翻弄されているジルとカミュを想像して、つい吹き出してしまう。笑う場面じゃなかったかもしれないと考えた僕は咄嗟に口元を抑えたけれど、ジルとカミュは気分を害するどころか、安心したように微笑んでいた。
「話が一区切りついたところで、──さぁ、ミカ。今日の朝食について教えてくれ。この、きっちり真四角で微妙に厚みがありながらも平たい物は何だ? 表面がこんがりしているが」
ごく自然に普段の朝食の雰囲気へ戻してくれるジルの気遣いに感謝しつつ、僕も気を取り直し、意識してなるべく元気よく答える。
「食パンだよ! マリオさんも、似たようなのを作ったことがあるでしょ? たぶん、上の部分がちょっと山型になってるやつ」
「ああ、まぁ、確かにそんなようなパンは作っていたが……、これはもっとふわふわしている気がする。……ショクパン?」
この世界ではパンはパレドと呼ばれているけれど、うちの魔王と悪魔は召喚した異世界人の言葉に合わせた単語を覚えてくれるため、普通にパンで伝わるし彼らもパンと言ってくれる。
不思議そうに食パンを見つめているジルは、興味津々という感じで、僕の次の言葉を待っていた。
マリオさんがいた国と僕の国の食パンは少し違うこと、真四角に焼き上げるためにカミュに色々な工夫をしてもらって焼き型を作ったこと、生で食べても焼いて食べても美味しいことなどを簡単に説明してから、今日のメニューを紹介する。
「なるほど……、素朴ながらも温かみのある献立だな。どれも美味しそうだ」
「ありがとう。とりあえず、今日はトーストにしてみたよ。軽く焦げ目がつくくらいの焼き加減がオススメだから、とりあえずはそうしてみたけど、おかわりで焼くときにもっと好みの感じにも調整できるからね」
「分かった。では、早速いただこうか」
そのジルの言葉を合図に、カミュが軽快に手を叩いて保温魔法を解除した。すると、途端に料理たちは湯気を立て始め、作りたての良い香りが漂ってくる。
三人で視線を交わし合い、僕は両手を合わせ、ジルとカミュは軽く頭を下げて、みんなで声を合わせていつもの言葉を発した。
「いただきます」
今日も命を繋ぐ糧をいただけることに感謝した僕たちは、思い思いにトーストを手にして、わくわくしながらかじりついた。
「おや。おはようございます、ジル様。おかえりなさい、ミカさん」
僕たちが食堂へ到着すると、ずっと待ちぼうけを食わされてテーブルの側に佇んでいたカミュは、柔和な笑顔でそれぞれに挨拶をしてくれた。だいぶ待たせてしまったと思うけれど、それに対しての不満などは全く見せず、自然な笑い方でニコニコ出来るカミュは、やはり悪魔というより聖人のイメージのほうが強い。背中の羽は黒いけど、彼はまさに天使のような男だ。
「おはよう。待たせて悪かったな」
「ごめんね、カミュ。だいぶ待たせちゃったよね」
「いえ、それは全く気にしておりませんよ。どうぞ、お座りください。──ですが、何かあったのですか? ミカさんとジル様の気配は近かったですし、不穏なものも感じませんでしたから、私はここでお待ちしていたのですが」
心配そうに尋ねてくるカミュにも椅子を勧めて、三人ともが着席してから、クックとポッポの状態について話した。僕の説明に加えるようにして、鳥たちが回復するまでは僕を一人にさせないようにとジルが言い添える。僕たちの話を真剣に聞いていたカミュは、神妙な面持ちで頷いた。
「承知しました。──クックとポッポが屋内でもミカさんを護れるようになるのは、我々としても安心できるのですが……、本能除去の魔法はなかなかに負担が大きいですから心配ですね」
「焦らずじっくりと回復させてやれば大丈夫だろう。そのためにも、あいつらには余計な懸念を与えず、ひたすら寝ていてもらったほうがいい」
「そうですね。ミカさん、しばらくはご不便を感じるかもしれませんが、私かジル様の側から離れないように、くれぐれもお願いいたします」
「分かった。むしろ、こちらこそ迷惑をかけてしまってごめんね」
そういえば、クックとポッポが来る前は、僕が一人にならないよう、彼らはさりげないながらも常に気にしてくれていたように思う。僕の就寝中も部屋を覆う形の結界をジルが張ってくれていたらしいことも、夜に何度か起きて結界魔法を重ね掛けしてくれていたことも、後になって知ったんだ。
クックとポッポは気まぐれにしか姿を見せなくとも、一日中僕を見守ってくれていたということだ。そして、それに代わる守護をジルとカミュが担おうとしてくれている。
申し訳なくて俯く僕の頭を、ジルの手がぽんぽんと撫でてきた。
「迷惑だなんて思わない。ミカはおとなしくて手が掛からないから、傍にいてもらっても心地よく思うくらいだ。アビーやマリオではそうはいかないからな」
「そうですね。アビーさんもマリオさんも急に踊り出しますし、唐突に歌い出しますし、あまりじっとしていない方々でしたから。賑やかで楽しかったですが、護衛はしづらい人々でしたね」
陽気なおばあちゃんおじいちゃんに翻弄されているジルとカミュを想像して、つい吹き出してしまう。笑う場面じゃなかったかもしれないと考えた僕は咄嗟に口元を抑えたけれど、ジルとカミュは気分を害するどころか、安心したように微笑んでいた。
「話が一区切りついたところで、──さぁ、ミカ。今日の朝食について教えてくれ。この、きっちり真四角で微妙に厚みがありながらも平たい物は何だ? 表面がこんがりしているが」
ごく自然に普段の朝食の雰囲気へ戻してくれるジルの気遣いに感謝しつつ、僕も気を取り直し、意識してなるべく元気よく答える。
「食パンだよ! マリオさんも、似たようなのを作ったことがあるでしょ? たぶん、上の部分がちょっと山型になってるやつ」
「ああ、まぁ、確かにそんなようなパンは作っていたが……、これはもっとふわふわしている気がする。……ショクパン?」
この世界ではパンはパレドと呼ばれているけれど、うちの魔王と悪魔は召喚した異世界人の言葉に合わせた単語を覚えてくれるため、普通にパンで伝わるし彼らもパンと言ってくれる。
不思議そうに食パンを見つめているジルは、興味津々という感じで、僕の次の言葉を待っていた。
マリオさんがいた国と僕の国の食パンは少し違うこと、真四角に焼き上げるためにカミュに色々な工夫をしてもらって焼き型を作ったこと、生で食べても焼いて食べても美味しいことなどを簡単に説明してから、今日のメニューを紹介する。
「なるほど……、素朴ながらも温かみのある献立だな。どれも美味しそうだ」
「ありがとう。とりあえず、今日はトーストにしてみたよ。軽く焦げ目がつくくらいの焼き加減がオススメだから、とりあえずはそうしてみたけど、おかわりで焼くときにもっと好みの感じにも調整できるからね」
「分かった。では、早速いただこうか」
そのジルの言葉を合図に、カミュが軽快に手を叩いて保温魔法を解除した。すると、途端に料理たちは湯気を立て始め、作りたての良い香りが漂ってくる。
三人で視線を交わし合い、僕は両手を合わせ、ジルとカミュは軽く頭を下げて、みんなで声を合わせていつもの言葉を発した。
「いただきます」
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