魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第5話】君に捧げるフレンチトースト

【5-6】

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「うん、美味しい……!」

 一口目を飲み込んでから、思わず簡単の声を漏らす。だって、我ながらかなり上手く出来たと思うんだ。
 米粉パンのようなもっちり生地だけれど、トーストしたことで表面はカリカリしていて、その食感の差が楽しい。花蜜を少し練り込んであるからほんのり甘いし、パレドードという魔法のパン種に更にカミュが魔法で香ばしさを足してくれたから、ほんのり焦がしたアーモンドスライスのような風味もある。

 僕的には満足のいく食パンに仕上がったのだけれど、ジルとカミュはどうだろう? 二人の様子を窺うと、彼らは目を輝かせながら夢中でもぐもぐしていた。どうやら、お気に召したらしい。

「これは美味いな……! マリオが作っていた似たようなパンは夕飯に合わせたい美味さだったが、ミカのショクパンは朝食に最適なように思う。少し甘みのある優しい味が、とてもいい。焼いているからか香ばしさもあるし、甘みがあるからといっておやつのようには感じない。おかずに合わせても不自然さはない、不思議な美味さだ……!」

 口に含んだ分のトーストをきっちり飲み下してから、ジルは珍しく興奮したように熱く語り出した。その向かいの席で、カミュが何度も頷いて同意している。

「昨夜、焼き上がった瞬間の香りもたまらないものでしたが、こうして調理されたショクパンの芳しさも素晴らしいです。匂いで期待した通りの味わいですよね、ジル様!」
「まさに、その通りだ。いつもの丸いパンも美味いが、ショクパンのほうがふわふわしている気がする。これは焼かずに食べても美味そうだ」
「二人とも気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。バターとか花蜜を塗って食べても美味しいから、試してみてね。勿論、生で食べても美味しいし、この食パンでサンドイッチにしても美味しいと思うよ」

 サンドイッチと聞いた魔王と悪魔の目の色が変わる。彼らは、サンドイッチが大好きなんだ。特に、たまごサンドが。
 日本ではお馴染みの、ゆで卵を砕いてマヨネーズと和えたたまごサンド(地域によっては厚焼き玉子を挟むほうがメジャーかもしれない。あれはあれで美味しくて大好きだ)は、マリオさんやアビーさんには縁が無いものだったようで、つまりはジルとカミュにも未知の食べ物だった。
 この世界にはマヨネーズが無いから、僕はその代理品として、オリーブオイルに似た感じの木の実の油と、かなりマイルドな舌触りのお酢のような調味液を混ぜ、砕いたゆで卵を和えて丸パンに挟んだんだけど、ジルもカミュも夢中で食べておかわりをしてくれた。

「サンドイッチというと、あの、卵のやつも出来るのか? あの、卵をあれして、こう、挟むやつ」
「私も、卵のアレを、このパンでいただいてみたいです。卵のアレを」

 期待と興奮で語彙力を失っている魔王と悪魔が、とても可愛らしい。キラキラしている黒と紅の瞳を交互に見つめながら、僕は頷いた。

「勿論、たまごサンドも出来るよ。あとは鳥肉の燻製とハムとか、春野菜とチーズも合うし、果物とクリームを挟んでも美味しいんじゃないかな」
「ほぉ……、果物とクレェムということは、ケェクのようなものも作れるのか。ショクパン、素晴らしいな」
「パンの世界でもなかなかに地位の高い御方でしょうね、ショクパンは」
「あははっ。地位が高いかは分からないけど、でも、僕が暮らしていた国では、食パンはごはんからおやつまで色々な使われ方をしていたよ」
「おやつもですか? 果物とクレェムを挟んだもの以外にも?」

 おやつと聞いて、カミュの瞳が一層輝く。この悪魔は、魔王以上におやつが大好きなんだ。

「うん。卵とミルクを混ぜた液に浸して焼くフレンチトーストとか、色んな美味しい甘いもので飾り付けたハニートーストとか、あとは、この四辺のちょっと固いところを切り落として揚げてラスクにしたり。食パンだけでも、いろんなおやつが出来るんだよ」

 名前を聞いただけでは具体的には分からないだろうけど、色々と想像しているのか、カミュの顔が幸福感で満たされていく。そうしてぽわぽわした表情をしていると、通常のクールな美しさは消えちゃうけれど、また違った美しさが滲み出ている。彼は本当に綺麗な顔立ちをしていると、改めて感じた。勿論、顔だけじゃなく、心の中も綺麗に保たれていると思うけれども。

「ジルはラスクのほうが好きかもしれない。カミュは絶対にフレンチトーストが好きだと思うよ。どっちもカボ茶にすごく合うはずなんだ。近々作るから、そうしたら是非とも食べてね」
「是非ともいただこう」
「楽しみにしております」

 和やかな会話と共に、まったりと過ぎていく幸せな朝ごはんの時間。それぞれに二枚目のトーストを焼く間も雑談を交わして笑い声を上げて、おかずも順番に味わって、たくさん褒めてもらって。
 そんな幸福な食卓の時間のお裾分けが出来るように、後でクックとポッポに食パンの端を粗めに削ったものを持って行ってあげようと、そう思った。
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