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【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-7】
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◇
「えっ……、す、すごく大きい……」
朝食後、片付けやら何やらを終わらせてから、僕は今まで一度も足を踏み入れたことが無かった遊戯室へと案内され、「創世大戦」に使う遊戯盤を見せてもらったんだけど──、これが、想像の遥か上をいく大きさだった。
てっきり、すごろくゲームのボードくらいのサイズかと思っていたのに、見せられたのは卓球台とかビリヤード台とか、そういう感じのものを彷彿とさせるごついテーブルみたいなものだった。大きい地形模型図というか、両端に山脈っぽいものがあり、真ん中に海もしくは湖を思わせる水辺っぽいものがある。
目を丸くしている僕を見て、ジルとカミュは微笑んだ。
「まぁ、小さくはないか。これを置ける家かどうかというのが、貧富の境界線の一種になっていることもあるくらいだ」
「そうなんだ……、確かに、自宅にこれを置くって、僕がいた世界でもなかなか無いと思うよ」
「やはり、そうなのか。アビーもマリオも似たような反応をしていたな。アビーは庭になら置けると言っていたが、マリオの家には庭も無いと言っていた。ミカが住んでいた場所も、そんな感じだったのか?」
「うん。庭なんてとんでもない。むしろ、僕が今使わせてもらっている部屋よりも狭い場所だったよ」
「は……? あの部屋よりも狭い? 家が?」
「お家の一室が、というわけではなく……家全体の広さが、ということですか?」
「うん、そうだよ。その中に、調理台とかお風呂とかもあったんだ」
ジルもカミュも、目を点にして絶句している。ディデーレには、ワンルームアパートみたいな物件は無いのかな。この城以外はイラさんとリュリちゃんのアジトしか見たことがないから、よく分からないけど。
ジルとカミュは遊戯盤の両端に置かれている座り心地の良さそうな椅子へ着席し、僕にはその中間地点にある椅子を勧められたので、そこに座る。
よく見ると、遊戯盤の両端に細長い瓶が設置されている。メモリの無いメスシリンダーみたいな形だ。ジルとカミュがそこに手を翳すと、瓶が光り、溢れるギリギリの位置まで水が湧き溜まった。唐突に湧き上がった不思議な水は、キラキラと光り輝いている。
「この水は、参加者の持つ魔力の三分の一相当を可視化したものだ。進行の中で、この水を少しずつ消費しながら発展、謀略、戦争などの作業や行事をこなす必要がある」
「ちなみに、ジル様も私も魔力の上限は無いに等しいですから、このように満杯まで水が溜まっておりますが、通常の人間はここまでは溜まりません。大賢者でも五分の四程度が限界だそうです」
この魔法の水は、HPとかMPとか、ああいうようなものなのかな? きっと、この水の量が多ければ多いほど有利になるんだろう。
「サリハさんはどのくらいまで水を溜められるの?」
「俺たちとほぼ同等だ。無論、彼女の本来の魔力では無理なことで、精霊が力を貸しているからなんだろう」
「なるほど……」
魔力の水を魔王と同程度に溜められるからこそ、時間が掛かる互角な勝負を出来るってことなのかな。知力も必要ということだったから、魔力の水が同程度まであれば誰でも良い勝負が出来るわけじゃないだろうけれど、元手となるものが少なければ知恵を活かしきれないはずだ。
──それにしても、これはどうやって遊ぶものなんだろう。サイコロっぽいものが二つあるけど、駒となるものがあるわけじゃない。サイコロは僕がよく知る六面体のものではなくて、もっと多面の……、ひとつは十二面体くらい、もうひとつは少なくとも二十面以上はありそうだ。この世界独自の数字が書かれている。ちなみに、僕も最近、数字と簡単な文字は読めるようになってきた。
「『創世大戦』は、その名の通り、創られたばかりの世界を発展させていき、最終的には相手の砦を乗っ取ったほうが勝ちだ」
それだけ聞くとシンプルなゲームのようにも思えるけれど、それならば何日も勝負が続いたりはしないはずだ。
「世界を発展させるのに時間が掛かるのかな?」
「そうだな。なんせ、一組の人間の男女から全てが始まる」
「一組の男女……?」
「その男女から子どもが生まれて子孫繁栄していくと同時に、山や海を開拓して住みやすい国にしていき、領地を拡げていくという進行なのです。より広く、より発展した領土を持つことが、重要になります」
「場合によっては、相手国の将や貴族を寝返らせる算段も立てねばならない。開拓も上手くやらなければ、貧相な土壌が増えるばかりになってしまう可能性もある。国民の知能が低すぎると文化の発展が遅れてしまい、だからといって悪知恵を巡らせる者が増えてしまったり、国家への信頼度が低い民が多くなってしまうと、相手国に攻め落とされるまでもなく自滅してしまう」
「発展に必要な項目が多彩で、それが数値化されているのですが、相手へ開示しなければならない数値もあれば、秘密もしくは嘘を提示してもよい数値もあります。『創世大戦』は頭脳戦でもあり、心理戦でもあり、魔力の強さや使い方の判断力が試される遊戯です。遊びと云えど、とても奥が深いのですよ」
奥が深いどころか、想像以上に物凄く複雑だ。僕はあまり詳しくないのだけど、戦略や育成の要素があるシミュレーションゲームのようなものなのだろうか。家庭用ゲーム機のソフト一本分くらいのボリュームはありそうだし、それをクリアすると考えれば、何日も掛かってしまうのも頷ける。
「話を聞いているだけだと、ややこしいだろう。導入部分だけだが、やってみるから見ていてくれ」
そう言って、ジルは魔法で譜面台のような物を引き寄せ、遊戯盤の横に設置した。
「えっ……、す、すごく大きい……」
朝食後、片付けやら何やらを終わらせてから、僕は今まで一度も足を踏み入れたことが無かった遊戯室へと案内され、「創世大戦」に使う遊戯盤を見せてもらったんだけど──、これが、想像の遥か上をいく大きさだった。
てっきり、すごろくゲームのボードくらいのサイズかと思っていたのに、見せられたのは卓球台とかビリヤード台とか、そういう感じのものを彷彿とさせるごついテーブルみたいなものだった。大きい地形模型図というか、両端に山脈っぽいものがあり、真ん中に海もしくは湖を思わせる水辺っぽいものがある。
目を丸くしている僕を見て、ジルとカミュは微笑んだ。
「まぁ、小さくはないか。これを置ける家かどうかというのが、貧富の境界線の一種になっていることもあるくらいだ」
「そうなんだ……、確かに、自宅にこれを置くって、僕がいた世界でもなかなか無いと思うよ」
「やはり、そうなのか。アビーもマリオも似たような反応をしていたな。アビーは庭になら置けると言っていたが、マリオの家には庭も無いと言っていた。ミカが住んでいた場所も、そんな感じだったのか?」
「うん。庭なんてとんでもない。むしろ、僕が今使わせてもらっている部屋よりも狭い場所だったよ」
「は……? あの部屋よりも狭い? 家が?」
「お家の一室が、というわけではなく……家全体の広さが、ということですか?」
「うん、そうだよ。その中に、調理台とかお風呂とかもあったんだ」
ジルもカミュも、目を点にして絶句している。ディデーレには、ワンルームアパートみたいな物件は無いのかな。この城以外はイラさんとリュリちゃんのアジトしか見たことがないから、よく分からないけど。
ジルとカミュは遊戯盤の両端に置かれている座り心地の良さそうな椅子へ着席し、僕にはその中間地点にある椅子を勧められたので、そこに座る。
よく見ると、遊戯盤の両端に細長い瓶が設置されている。メモリの無いメスシリンダーみたいな形だ。ジルとカミュがそこに手を翳すと、瓶が光り、溢れるギリギリの位置まで水が湧き溜まった。唐突に湧き上がった不思議な水は、キラキラと光り輝いている。
「この水は、参加者の持つ魔力の三分の一相当を可視化したものだ。進行の中で、この水を少しずつ消費しながら発展、謀略、戦争などの作業や行事をこなす必要がある」
「ちなみに、ジル様も私も魔力の上限は無いに等しいですから、このように満杯まで水が溜まっておりますが、通常の人間はここまでは溜まりません。大賢者でも五分の四程度が限界だそうです」
この魔法の水は、HPとかMPとか、ああいうようなものなのかな? きっと、この水の量が多ければ多いほど有利になるんだろう。
「サリハさんはどのくらいまで水を溜められるの?」
「俺たちとほぼ同等だ。無論、彼女の本来の魔力では無理なことで、精霊が力を貸しているからなんだろう」
「なるほど……」
魔力の水を魔王と同程度に溜められるからこそ、時間が掛かる互角な勝負を出来るってことなのかな。知力も必要ということだったから、魔力の水が同程度まであれば誰でも良い勝負が出来るわけじゃないだろうけれど、元手となるものが少なければ知恵を活かしきれないはずだ。
──それにしても、これはどうやって遊ぶものなんだろう。サイコロっぽいものが二つあるけど、駒となるものがあるわけじゃない。サイコロは僕がよく知る六面体のものではなくて、もっと多面の……、ひとつは十二面体くらい、もうひとつは少なくとも二十面以上はありそうだ。この世界独自の数字が書かれている。ちなみに、僕も最近、数字と簡単な文字は読めるようになってきた。
「『創世大戦』は、その名の通り、創られたばかりの世界を発展させていき、最終的には相手の砦を乗っ取ったほうが勝ちだ」
それだけ聞くとシンプルなゲームのようにも思えるけれど、それならば何日も勝負が続いたりはしないはずだ。
「世界を発展させるのに時間が掛かるのかな?」
「そうだな。なんせ、一組の人間の男女から全てが始まる」
「一組の男女……?」
「その男女から子どもが生まれて子孫繁栄していくと同時に、山や海を開拓して住みやすい国にしていき、領地を拡げていくという進行なのです。より広く、より発展した領土を持つことが、重要になります」
「場合によっては、相手国の将や貴族を寝返らせる算段も立てねばならない。開拓も上手くやらなければ、貧相な土壌が増えるばかりになってしまう可能性もある。国民の知能が低すぎると文化の発展が遅れてしまい、だからといって悪知恵を巡らせる者が増えてしまったり、国家への信頼度が低い民が多くなってしまうと、相手国に攻め落とされるまでもなく自滅してしまう」
「発展に必要な項目が多彩で、それが数値化されているのですが、相手へ開示しなければならない数値もあれば、秘密もしくは嘘を提示してもよい数値もあります。『創世大戦』は頭脳戦でもあり、心理戦でもあり、魔力の強さや使い方の判断力が試される遊戯です。遊びと云えど、とても奥が深いのですよ」
奥が深いどころか、想像以上に物凄く複雑だ。僕はあまり詳しくないのだけど、戦略や育成の要素があるシミュレーションゲームのようなものなのだろうか。家庭用ゲーム機のソフト一本分くらいのボリュームはありそうだし、それをクリアすると考えれば、何日も掛かってしまうのも頷ける。
「話を聞いているだけだと、ややこしいだろう。導入部分だけだが、やってみるから見ていてくれ」
そう言って、ジルは魔法で譜面台のような物を引き寄せ、遊戯盤の横に設置した。
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